トラ:Hello boys and girls. お元気かな?
生徒:げっ!? 前回で終わりだと思ったのに、まだやるんですか!
生徒:せんせーには申し訳ないんですけど、そろそろ別の人の話が聞きたいです。
トラ:私の話がタダで聞けるなんて、こんな幸運な生徒たちは君たちだけで、世界中でほかにはどこにもおらんのだぞ。
生徒:ぼくは「幸運」だと思ってないもんで。お金を払えば聞かなくて済むんだったら、そうしたいですよー。いくら出せばいいんですかぁ?
石破:おいこら、先生に何て失礼なことを言うんだ!
トラ:いいんだ、ルーム長。私は器の大きな人間だから、子どもの発言にいちいち目くじらをたてたりせんよ。それに今日はちょっと趣向を変えた話をするつもりだ。
生徒:というと……。
トラ:今日は私の交渉術「トランプ式ディール」の核心についての話だ。
生徒:それって関税交渉のことじゃないんですかぁ? もうお腹いっぱいです。
生徒:同じことを横文字(カタカナ語)にしたって新しくなるわけじゃないし。
トラ:まあ、待て待て、すべては話が終わってからだ。
生徒:交渉をしている最中だから、何か裏話を聞かせてくれるとか。
生徒:それにしても、うちの格さん、じゃなかった赤沢大臣、もう7回もアメリカに行って直接交渉をしているけど、あんまり成果が上がらないよねぇ。
生徒:他の国でこんなに何回も渡米している大臣っているのかなぁ。普通は実務者同士である程度話を詰めてから大臣が出て行くもんじゃないのぉ?
麻生:けぇー、ばかだな、おまえら。日本の大臣っていうのはな、外交にかこつけて外国旅行をすることになってんの! 税金使ってタダで海外に行くのが大臣の特権だって、知らねぇの?
生徒:誰だよ、こんな上級国民づらした「老害」を教室に入れたのはぁ。
麻生:「上級国民」じゃなくて「華族」だっつうの。俺の妹がな……
生徒:もー、うるさいっ!! あんたは黙ってなさい!
生徒:まあ、でも何度も日米間を往復している大臣の姿を見たら、国益を背負ってがんばっているように見えるってことなんでしょ。回数より中身が問題なのにさあ。ほんと日本人って形式的っていうか、情緒的って言うか。アメリカからしたら、やっぱりチョロいもんだと思われちゃうよねぇ。
トラ:とりあえず日本のことは後回しだ。「トランプ式ディール」のテクニックを解説しよう。
生徒:せんせー、そんな手の内を見せるようなことをして大丈夫なんですかぁ?
トラ:平気だよ。これは臨機応変、相手の出方に応じて柔軟に対応する職人芸みたいなもんで、経験と勘が頼りだから、他人がすぐにマネできるものではないし、手の内なんぞ計りようがない。
生徒:要するに、せんせー自身が気まぐれだから、次の行動など読みようがないってことでしょ。
トラ:まあ、相手にそう思わせるのが得策だ。それで、まずは当座の目標値を決める。これは相手によりけりだが、その上で、実際の交渉では、目標値よりも高めの数値をふっかける。
生徒:関税だったら、30%が目標値だとすると、相手には最初は50%って言うんですね。
トラ:そのとおり。
生徒:で、相手がそれじゃ納得いかないと言ってきたら、どうするんですか?
トラ:そしたら倍に引き上げればいい。
生徒:倍にしたら100%になりますけど。相手が「それならこっちも100%だ」と同じくらいの税率をかけてきたらどうするんですか?
トラ:さらに引き上げて145%にする。
生徒:145? ……。で、相手が、たとえば、「それなら、お前んとこには金輪際レアメタルは売らないから」って言ったら、どうしますか?
トラ:そしたら30%に下げる。これで目標達成だ。
生徒:ぷぷっ(笑)……それって、まさしく対中国の話じゃないですかぁ。
生徒:そうですよぉ、目標を達成してるというより、弱みを突かれて負けてるじゃないですかぁ。
トラ:わが国の貿易相手は中国だけじゃない。他で取り返せるからいいのだ。全体で勝つことが大事だ。
生徒:そんなんじゃパターンが読まれちゃうと思うんですけど。日本の場合はどうなんですか? 自動車の関税35%は譲らないとか言ってますけど、これもまだ動くわけですね?
トラ:さあ、それはどうかな。日本は今までずいぶん甘やかされてきた。長いあいだアメリカに大量の車を売り込んでおきながら、アメリカのものは買わないで済ませてきた。コメなどはずっと輸入を拒んで、今も700%もの関税をかけている。非常に頑なだ。こういう国には断固とした措置をとった方がよい。私は日本が好きだし、ルーム長の石破くんも好きだが、貿易は別だ。
生徒:そういう「好き」とか何とか、気持ち悪い「リップサービス」は日本の人にはウケないから、やめてほしいんですけど……。
生徒:そうですよ。それに日本はアメリカのものをけっこう買ってますよ。航空機なんかほとんどボーイング社のものを輸入してるし。武器にいたっては、トマホークとかも爆買いしてるし、事故が多くて他の国では売れないオスプレイまで買わされて。それって全部防衛予算でしょ。税金でアメリカでお古になった武器を大量購入してるわけで、そういう「貢献」は一切無視して、自分に都合のいいことだけで話をする――「トランプ式」って要するにそういうことじゃないんですかぁ?
トラ:交渉で普通自分が不利になる条件を言い出す奴はおらんだろ。
生徒:ゲームじゃないんですから、一方が勝つか負けるかじゃなくて、両方にメリットがあるようにするのが外交交渉だと思うんですけど。だいたい、先生の言うような高率関税政策をとったら、今後アメリカの物価は間違いなく上がっちゃいますよ。いいんですか?
トラ:それは大丈夫だろう。関税交渉を始めてから4ヶ月目に入るが、物価は意外に落ち着いているからな。
生徒:そりゃぁ、まだ交渉がまとまった国がイギリスとヴェトナムの2国だけだからでしょ。
トラ:それに物価が安定している今を逃したら利下げのチャンスはない。FRBには賢明な判断をしてもらいたいものだ。
生徒:「利下げのチャンス」って「利下げ」するのが大前提なんて、意味がわかりません。FRBは先生の高率関税の結果、物価が上がることを警戒しているから、利下げをしないんじゃないですか。パウエル議長は、先生をある意味助けてると思うんですけど。交代させて本当にいいんですか?
トラ:彼は頑なだ。おまけにいつも判断が遅い。今少しでも利下げをしておかないと、今後の利下げ幅が大きくなったとき、かえって混乱するだろう。
生徒:とか何とか言って、金利を安くして金を借りたい連中を喜ばせようって魂胆がみえみえですよ。減税も同じ。景気が悪いわけでもないのに、先生の背後には、金儲けのことしか考えてない輩が蠢いてますよね。
玉川:もうね、これはアメリカ中の物価が上がって、インフレになるという状況を、アメリカ国民に見せた方がいいですよ。国民がダメだ、ダメだと騒げば、引っ込めざるを得ないんだから。そんなに長い時間かからずに、この高率関税政策はとりやめることになりますよ。
トラ:何かコメンテイター然とした発言をする奴がいるなぁ。
玉川:あのぉ、すいません、一応コメンテイターなんですけど……。
生徒:それにしても、先生はテレビで話題にならない日はないし、ほんとに毎日精力的によく動きますよねぇ。
トラ:当たり前だ。アメリカを再び偉大にすることが私の使命なのだ。そのためだったら止まることはない。
生徒:まるで自転車ですね?
トラ:どういうことかね? 私は自転車には乗らんよ。
生徒:こぐのを止めたら倒れちゃうってことですよ。
生徒:なるほど、「自転車操業」って言葉があるよねぇ。辞書に何て書いてある?
生徒:何々、「……操業を止めてしまえば倒産するほかない法人が、慢性的な赤字状態でありながら他人資本を次々に回転させて操業を続けていく状態のこと」だってさ。
生徒:うーん、なるほど、ぴったりですねぇ。「トランプ政治は自転車操業である」と。今日は珍しく勉強になったなぁ。
トラ:こらこら、勝手に納得するんじゃない。私の言ってることはそういうことじゃないんだぁー。
生徒:いや~、5回目にして初めて何かを学んだ気がするなあ。せんせー、ありがとー。今日はみんなこれにて帰りまーす。んじゃ。
トラ:こら、待てー。まだ話は終わりじゃなーい。ルーム長の石破くんまで帰るんじゃなーい。石破くーん、ちょっと、いしばくーん……。
追記)ちなみにトランプ関税は世界貿易機構(WTO)協定に反し、内外で批判されていること、米国際貿易裁判所から恒久的な差し止めが命じられていることも書き留めておきます。
米相互関税はWTO協定違反の可能性、経産省の不公正貿易報告書 - 日本経済新聞
トランプ関税は「違法であり無効」、米国際貿易裁判所が差し止め命令…政権側は控訴 : 読売新聞
