ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

プーチン増長に加担した/する国

 昨日3月16日の参議院内閣委員会で、タムトモこと田村智子議員(共産党)が本年度予算案に計上されたままの「ロシアへの8項目の経済協力プラン」について質問しています。予算案は来週22日の参議院本会議で採決されるという話ですが、さすがにこのまま通すのはまずいんじゃないかと思います。
 少し起こしてみます(2分29秒あたりより)。

2022.3.16内閣委員会 田村智子 - Bing video

 田村ロシアに対する日本の経済協力についてもお訊きします。3月11日衆議院内閣委員会で松野官房長官は、8項目の協力プランを含むロシアとの経済分野の協力に関する政府事業については、当面見合わせると表現されました。一方で、14日の参議院予算委員会で岸田総理は、来年度の8項目の協力プラン、21億円の予算について、修正しないと明言しました。これがどういうことなのか。予算案の修正はしないけど、凍結など、執行を止めるのか、一体何をどう見直すのか、見直さないのか、説明をいただきたいと思います。
 矢作経済産業省大臣官房審議官):今、8項目の経済協力プランについてお尋ねがありました。この協力プランにかかる事業につきましては、令和4年度予算案におきまして、医療とか、都市環境、中小企業、エネルギー……各分野における事業、これを各省庁で合計した額21億円が計上されているところであります。今後の方針につきましては、ロシアのウクライナ侵略により、ロシアとの関係をこれまでどおりにしていくことはもはやできないと、このように考えておりまして、わが国としてもロシアとの関係で新たな経済分野での協力を進めていく状況にはないと、このように考えております。その上で、ロシアとの経済分野における協力に関する政府事業につきましては、当面見合わせるということを基本に、また、国際的な議論を踏まえ、あるいは、エネルギー安全保障、人道上の配慮に留意しつつ対応していきたいと思っております。また、先ほど申し上げました政府事業をどうしていくかということでありますが、今後のウクライナ情勢、あるいは国際的な議論を正確に見通すと言うことは、現時点では大変困難でありまして、今後個々の予算の執行の際に、その時点での最新の情報、状況を適切に踏まえて判断していきたいと考えております。
 田村答弁を聞いていてもよく分からないんですよね。資料の1を見てください。外務省在ロシア日本大使館ホームページの特設ページです。8項目の協力プランのアピールなんですが、協定当時の安倍総理プーチン大統領がにこやかに握手する写真が今も大きく出てきます。そして、資料の2ページ目、8項目の概要なんですね。この中身を見てみれば、ほとんどがロシアにおける都市開発、インフラ整備、技術移転。エネルギー開発もロシアの脱炭素への新たな開発支援。そして、ほとんどが民間事業者によるものなんですよ。昨日、これどうなるのと、経産省と電話でのやりとりで、したんですけど、エネルギーは日本の安全保障に関わるからとか、民間事業については国益も考える必要があるからとか、こういうことを言っていたら、いったい何が見直されるのか、と。ほとんど見直されないんじゃないかということになりかねないと思うんですよ。……
 矢作:(同じ答弁の繰り返し)
 田村……ロシアは現に今国際秩序を破壊し、侵略戦争をしている国です。こうした8項目の協力プランに参加する日本企業とも早急に協議をして、全面見直しをし、侵略行為を続けてそれを正当化する国とは経済協力はできないと、その表明が私は必要だと思います。
 松野官房長官:(矢作審議官と全く同じ 侮辱か!)
 田村これね、予算の執行だけの話じゃないんですよ。日本の参加している民間企業と話し合っていくことをやらなければ、経済協力がどんどん進むことになっていくでしょう。この8項目の協力プランは、2016年に安倍(元)総理が自ら提案したものです。2015年から毎年ウラジオストクで開催されていた当方経済フォーラムに、安倍総理が毎年出席をし、みずからこのプランのプレゼンテーションをしてきたわけですよ。その中で、ウラジオストクはこうしたら国際的な観光都市になれますよとか、そういうプランをみずからプレゼンテーションしてきた。ロシアの都市開発なんですよ、これ。で、2019年には、「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」と、プーチン大統領に、こう直接呼びかけて進めてきた国家プロジェクトなんです。しかも、それがどういう国際情勢の下で進められたのか。2014年、ロシアはウクライナからのクリミア共和国の独立を承認し、その直後にロシアに併合しました。今日のウクライナ侵略につながる危険な覇権主義が、すでに2014年に露呈していた。日本政府はクリミア併合を批判しましたが、ロシアに対してEU経済制裁を行っていたただ中で、安倍総理が国家プロジェクトの経済協力に踏み出してしまったということなんですね。これはウクライナの主権だけではありません。千島列島と北海道の一部である歯舞、色丹が不法に占領された、この領土問題での交渉をせずに、信頼だ、経済協力だと。これが新たなアピールだと、安倍総理北方四島の共同経済活動も約束をしたわけです。ロシア側がロシアの主権の下で行われる共同経済活動だと繰り返し表明したのに、それに対する抗議もしなかった。今、この千島列島は、ロシアのミサイル発射訓練等、まさに覇権主義の舞台になってしまっています。これ(8項目協力プラン)は、クリミア併合の下でつくられたプランです。こうした安倍政権のロシア外交は、ロシアの覇権主義に対する批判が完全に欠落した、道理のない外交だったと認めざるを得ないんです。この誤りは、今日のプーチン大統領の暴挙を見れば明らかです。……

 田村議員の話に出てきたシンゾー氏とウラジーミル氏の握手している写真というのも参考のために貼り付けておきます。在ロシア日本大使館のHPで探してみたのですが、小生にはたどりつけませんでした(「やばい」と思って、外した後だったのでしょうか?)。たつみコータロー氏のTweetにあったものを転載させていただきます。

8項目の「協力プラン」
https://twitter.com/kotarotatsumi/status/1504061378046279681より)

 シンゾー氏がウラジーミル氏とどれほど「親密」な間柄なのかは知りません(27回も会ったそうですが)。しかし、そんなに「親密」なら、ふつうであれば、結果はどうあれ、モスクワに特使で行ってウラジーミル氏を説得してくるくらいの「無謀!」なことだって考えられるはずですし、そういう声が内外で上がらない方が不自然です(実際には子どもの遣いにもならないことはみんな、というより当の本人が一番よくわかっているでしょうけど)。それなのに何でこのタイミングでシンゾー氏は特使としてマレーシアに行くのか(単なるパフォーマンスだとしても)、そしてまた、このトンチンカンで姑息!な外交を、なぜ政府は(国民も?)是認するのか。日本国は憲法で「国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ」と謳っていますが、あまりの落差にくらくらしてきます。もはや憲法前文の文言は、この国には眩しすぎます。

 終わりに、寺島実郎さんの3月16日付のインタヴュー記事からも引用させてください。本当は、ウクライナ危機が世界史の転換点になるという寺島さんの見方の方に興味があったのですが、田村議員と政府関係者のやりとりを動画で見ていて、この国の政府のあまりの卑小さと愚劣さに、がっくりきて気持ちが萎えてしまいました。引用は、日本の外交、安全保障にかかわるところだけです。

プーチン氏の増長招いた日本 寺島実郎氏が読み解くウクライナ危機 | 毎日新聞

プーチン氏を見誤った安倍外交
 ――日本は安倍政権時代、ロシアと共同経済活動を進めましたが、北方領土問題は解決できませんでした。
 プーチン氏を見誤ったとしか言いようがありません。プーチン氏は2000年代に入ってからのエネルギー高騰を追い風に国際社会で存在感を高め、14年3月のクリミア併合を経て増長の度合いを増していきました。
 プーチン氏を増長させた責任の一端は、日本にあります。14年2月、ロシア・ソチで開催されたオリンピック開会式では、欧米の主要国の首脳がロシアの人権侵害への抗議で欠席する中、出席した先進国の首脳は安倍晋三元首相だけでした。それは北方領土交渉への思惑があったからです。しかし、その直後にロシアはクリミア半島を併合しました。
 安倍元首相は中国と韓国との関係を不安定化させる一方で、不思議とロシアにだけは異様な配慮をしていました。16年には地元である山口県プーチン氏を呼び、北方領土のうち色丹島歯舞群島の「2島先行返還」で突き進んだ。
 ところが、20年にはロシアが憲法を改正して領土の割譲禁止が決められ、それさえも挫折しました。共同経済活動という名の下、多額の資金を引っぱり出され、プーチン氏に抱いていた期待感が、いかにむなしいものであったか実証されてしまいました。

 ――今後、日露関係はどうなっていくのでしょうか。
 ウクライナと同様、日本もロシアとの間で領土問題を抱えていることをまず認識すべきです。その北方領土問題を考える上で、まず2島先行返還論のおかしさを指摘したいと思います。
 第二次世界大戦の末期、ソ連は連合国の一翼として対日参戦したという事実が大変重要です。米英やソ連を含む連合国の「大西洋憲章」や「連合国共同宣言」には領土不拡大が掲げられています。米国が沖縄を返還したのは、このことが背景にありました。一方で、ソ連、それを引き継いだロシアは北方領土を不法に占拠してきました。
 北方領土は、戦争ではなく、千島樺太交換条約で確定した日本の領土であって、正当性は日本にあります。それにもかかわらず、こうした歴史的な脈絡を理解しないまま、妥協して2島先行返還論が先走ってしまいました。そのあげくにプーチン氏に完全に裏切られたわけです。この失敗を検証しないことには、北方領土問題は前に進めません。
 今回のウクライナ危機は、こうした北方領土問題を巡る呪縛から、日本が解放される契機になり得ると考えられます。岸田政権は、ロシアによる侵攻を国際法違反、国連憲章違反と批判し、欧米陣営の中でロシアと対峙(たいじ)する選択をしました。これに対抗する形で、ロシアも日本を「非友好国」と認定しました。
 こうした中で、北方領土についても日本は覚悟を決めてロシアと向き合わざるを得なくなった。言い換えれば、従来の中途半端な2島先行返還論から離れて、領土不拡大という原理原則に戻ることが可能になり、日本外交の大きな転換点となり得ます。

危ういのは「欧州より日本」
 ――ウクライナ危機は、欧州のエネルギー安全保障を巡る課題も浮き彫りにしました。
 エネルギー問題は、化石燃料だけでなく原子力再生可能エネルギーをも含めて絶妙なバランス感覚をもって安定化させるシナリオを選択する必要があり、単純に考えてはいけません。
 例えば、米国は欧州がロシアにエネルギーを依存することに反発してきましたが、米国が今や、世界一の化石燃料の産出国であることを忘れてはなりません。エネルギーを巡り各国が繰り広げる「ゲーム」を見る際、エネルギー価格高騰で一番潤っているのは誰なのかということを常に認識しておくべきです。
 そして、欧州は実はしたたかに動いています。ドイツは原子力を減らし、再生可能エネルギー重視と多くの日本人は思い込んでいますが、電源の2割近くは今も原子力です。また、欧州の送配電網は毛細血管のように北欧から南欧まで張り巡らされ、フランスの原子力由来の送電網も、(エネルギーのロシア依存度が特に高い)ドイツを支える仕掛けになっている。
 日本は東京電力福島第1原発事故後、エネルギー政策の方向を決めかねているのに対して、欧州はEU共同エネルギー政策の下、柔軟に対応できる体制がつくられています。

 ――日本もエネルギー安全保障をこれまで以上に考えないといけません。
 欧州よりも危ういのは日本です。国境を越えた送電網が一本もない日本は、エネルギー供給を自己完結で考えなければなりません。福島での原発事故後、「原子力を止めた方がいい」という一点で動き、1次エネルギーの85%は化石燃料に依存した状況で、ウクライナ危機が訪れた。しかも、日本はロシアにLNGで8.7%、石炭は1割以上依存しています。
 エネルギー政策は柔軟に、重層的に考える必要があり、日本のように資源を持っていない国は特に賢い構想が必要です。単純に「脱原発」や再生可能エネルギー重視と言えば良いわけではないことが、ウクライナ危機であぶりだされ、日本のエネルギー政策にとってもパラダイム転換の好機です。



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