ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

プーチンとオリガルヒ

 ロシアには「オリガルヒ Олигархи 複数形」と呼ばれる新興財閥がいます(ウクライナにもいます)。調べてみると、Олиг-(Олигo-)は、少数、少ない、を意味し、архиは、首長、主、大きい、などを意味するようで、「寡頭」と訳されることもあります。数少ない大富豪といったところでしょうか。プーチン政権とは、もちつもたれつの関係にあり、政権を支える財界勢力と考えられます。

 ウクライナ国際政治学者のアンドリー・グレンコ氏が解説している3月10日付の動画(毎日放送)を見ました。これは、オリガルヒの造反によってプーチンが失脚する可能性があるかどうかについて解説したものですが、氏はこう語っています。文字に起こしてみます。

【専門家解説】ロシアの新興財閥「オリガルヒ」はプーチン大統領を止められるのか ウクライナ人国際政治学者グレンコ・アンドリーさんが語る「プーチン政権失脚」のシナリオ(2022年3月9日) - YouTube

 オリガルヒは、パターンとしては2通りあって、いわゆるエリツィン系オリガルヒとプーチン系オリガルヒです。エリツィン系オリガルヒというのは、たとえばアブラモヴィッチとか、デリパスカとか、フリードマンとか、という人たちで、1990年代から様々な姑息な手段を使って多くの富を独占し、プーチン体制と融合して富を貪り続けている。エリツィン元大統領時代に成立したオリガルヒですね。もうひとつはプーチン系のオリガルヒで、ローテンベルク兄弟とか、ティムチェンコとか、セーチンとか、といった人たちです。彼らは元々は別に金持ちだったわけではなく、プーチンが大統領になってから、彼の影響力を使って急激に金持ちになったんですね。
 プーチン系のオリガルヒはあまり「自立性」はないんですけど、エリツィン系はある程度もっています。彼らは、石油とか金属とかの分野で独占的な立場を持っていて、当然財力もすごいし、政治力もそこそこあるんですね。今、デリパスカとフリードマンは反対の声を上げていて、あと、ルクオイル(石油会社)のアレクペーロフも、戦争はよくないんじゃないかという声明は出しているので、3つの勢力から反戦の声がうっすらと出てるんですね。しかし、この3つだけではプーチンを止めるには不十分じゃないかと思います。一人ひとりではプーチンの力で「殺せる」(潰せる)んですけど、エリツィン系オリガルヒ全員が共謀して、話し合って、プーチンがこのまま続ければ、自分たちの富が奪われるんじゃないか、せっかく培ってきた何兆円、何十兆円という富がなくなるとすれば、それは耐えられない。情報機関の関係者、あるいは軍人に、幾ばくかのお金を用意して、プーチンを倒せという話につながる可能性はある。だけど、彼らがそこまで動くには、プーチンがこのままでは自分たちの富が危ういと思わせる必要があるんですね。

 いくつか名前が出てきたので、wikipedia他で調べたもので補足すると、

 〇アブラモヴィッチ:1966年生まれ。55歳。ユダヤ系ロシア人の実業家(石油王)。ロシア東端チュクチ自治管区の知事を務めた経験もある。『フォーブス』によれば、187億ドルの純資産を持つ。イングランド・プレミアリーグチェルシーFCのオーナーを務めていた(今、経営権売却で揺れている)。
 〇デリパスカ:1968年生まれ。54歳。ユダヤ系ロシア人実業家。ロシア・アルミニウム(ルサル)社長。ルサルはロシア国内のアルミニウム生産の約70%、世界生産の約8分の1を占める。2009年の経済危機では政府融資に救われたことから、ルサルは政府の統制下におかれることになった。
 〇フリードマン:1964年生まれ。57歳。ウクライナ生まれのユダヤ系企業家。アルファ・グループ(金融財閥)社長、アルファ銀行頭取。
 〇ローテンベルク兄弟:兄アルカディ 1951年生まれ。70歳。/弟ボリス 1957年生まれ。65歳。ユダヤ系の事業家。レニングラード出身。ロシアのガスのパイプラインと電力の供給網の巨大な建設企業であるSGMグループの共同経営者。プーチン大統領とは親しい友人とされる。
 〇ティムチェンコ:1952年アルメニア生まれ。69歳。レニングラードで電気技師を務めた後、エネルギーへの投資を専門とする民間投資グループ、ヴォルガグループを設立。プーチン大統領とは柔道つながりの旧友。プーチン氏の“黒い金庫番”とも呼ばれる。
 〇セーチン:1960年生まれ。61歳。レニングラードで軍の通訳などを経たのち、プーチンの側近として台頭。ロシアの副首相を務め、2012年からロシア最大の国営石油会社・ロスネフチの会長。
 〇アレクペーロフ:1950年生まれ。71歳。アゼルバイジャン出身。ソ連石油ガス工業省の第一次官などを務め、国際石油コンツェルンの設立に奔走し、現在のロシア最大級の民間石油会社ルクオイルの道筋をつけた。現在その社長。

 プーチン系オリガルヒの方がエリツィン系よりも後発なのに、年齢層は上の人が多いんですね。ふーん、という感じです。
 彼ら「オリガルヒ」はウクライナ侵攻に対する今回の制裁措置の影響をもろに受けるだけではなく、海外資産凍結の対象にもなっているのですが、彼らは動かないのでしょうか。
 ジャーナリストの仲野博文氏は3月12日付記事で、米国のサウスカロライナ大学のスタニスラフ・マルクス氏の話を紹介し、こう書いています。

ロシアを食い荒らす「オリガルヒ」が、ウクライナ侵攻後もプーチンを支え続ける理由(ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース

 「ロシアでもウクライナでも、ソ連崩壊後に国営企業の民営化の過程で、うまくチャンスを手にした者がオリガルヒになりました。ロシアでは90年代にオリガルヒが莫大な資金力を背景に政治に介入するようになり、それぞれの事業に有利な法案を通過させ、自治体のトップになる人物もいました。この構造を変えようとしたのがプーチンですが、結果的に自らにとって都合のいいオリガルヒを残すだけになりました。ウクライナではゼレンスキー大統領が誕生するまで、オリガルヒに対する規制などがほとんど行われてきませんでした。前任のポロシェンコ大統領やティモシェンコ元首相は有名なオリガルヒです」
 経済制裁対策との見方もあるが、プーチン大統領と親密な関係にあるオリガルヒから、ロシア軍の軍事侵攻に反対すると声を上げる者や、ロシア国籍を捨てる意向があると表明した者もいる。しかし、マルクス氏は、オルガリヒが造反したとしてもプーチン政権の基盤に大きな影響は出ないと語る。
 「オリガルヒが結束して反プーチンの姿勢を明確にしたとしても、それがすぐにプーチン政権の終わりを意味するとは思えません。また、プーチン大統領に背を向けることは、彼らの将来の終わりも意味するため、リスクが非常に高いのです。現実的ではないですね。ただし、確率としては非常に低いですが、オリガルヒではなく、軍のような大きな力を持つ組織がプーチン大統領に背を向け始めた場合は、話は大きく変わってきます」

 ロシア軍のウクライナ侵攻がいつどのような形で終わるのかは誰にも分からない。しかし、オリガルヒへの規制と徹底した汚職対策は、ロシアとウクライナの両方で「待ったなし」の状態だ。マルクス氏が語る。
 「私はソ連崩壊後のロシアとウクライナが『ピラニア資本主義』の犠牲になってきたと考えています。政府や自治体、民間企業がまとまった予算を出しても、オリガルヒや官僚がピラニアのように集まり、中抜きや賄賂という形で食い荒らしていくのです。ピラニアに食い荒らされた社会が30年も続いているのです」
 ロシアでは2007年に国防大臣に就任したアナトーリ・セルジュコフ氏が、国防省やロシア軍部隊にまん延していた汚職の摘発を積極的に行い、ロシア軍の組織改革や兵力削減に向けて動いていたが、2012年に国防省傘下企業との間で横領事件に関与したとして、突然国防相を解任されている。オリガルヒが関与しない領域でも、ロシア社会の至る所に無数のピラニアが生息しているようだ。

 こういう連中でも、頼れるものだったら何でもいいから、とにかく戦闘を止めさせたいという常人の気持ちを、あきらめずに上げ続けるしかないです。

 

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