ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「校則見直し」のこと

 今年の夏、埼玉県が県立学校を対象に過去3年間で校則の見直しをした学校を調査したところ、全日制高校の97%が何らかの見直しをしていたという。浮世離れした「ブラック校則」が学校の「旧態依然」の象徴のように語られることが多くなり、文科省教育委員会のなかにも、ある程度は「改革」が必要だと認識している人がいるかもしれない。学校の職員も世代交代が進み、固陋な因習に辟易している先生も増えていると思われる。
埼玉県、過去3年間で校則を見直した全日制高校97% | リセマム

 小生が勤めていた頃の学校とはもう様相がちがっているかもしれないが、校則の問題は突き詰めると教員間でも意見が割れるので、なかなか悩ましい。校則遵守に固執する側は、校則を緩めたら校内の治安が保てなくなると思っているし、反対側は、あまり理不尽なことをやると生徒や保護者との折り合いが悪くなると思っている。中間派は中間派で、ひとたび決まったらみんなで足並みをそろえてやっていかないとダメだと思っている。みんな「生徒のため」と思いながら、想定している「生徒」が違っていたりするのである。
 議論の原点は「個々の生徒(の教育)」におかなければいけない。それはたとえ「一人でも」だと思う。そういう意味で、「現代ビジネス」の10月18日付アン・クレシーニ氏の記事が多くに読まれて、アクセス・ランキングの上位になっているのも頷ける。
 以下、引用。

行政や学校など日本の多くのシステムは、「日本人しかいない前提」で今も動いている(アン・クレシーニ) | FRaU

「日本人だけ」しか視野にないシステム
 数年か前の話。確定申告のために税務署に行った。データを入力しようとした時にエラーが出て、近くにいるスタッフに声をかけた。「あ、あなたの名前は長すぎるから入らない」と言われた時に、思わず笑ってしまった。「どうして欲しいの? そして、名前を入力ができなかったら、税金を払わなくても良いわけ?」と聞きたくて仕方がなかった。スタッフの方と二人で色んな戦略を考えて、やっと機械を納得させることができ、無事に申告が終わった。もやもやしたが、「まぁ、日本だから仕方がないぁ」と思って、受け流し暫く考えなかった。
 私は日本に来て21年も経つ。周りの人が受け入れてくれて、今まで一度もひどい差別に遭ったことがない。もちろん、多くの外国人と同じように「外人だ!」とか「お箸が上手」みたいなことが数えきれないほど言われたことがあるけど、相手は悪気がないから、21年間のこれらのコメントを聞き流してきた。友達に愚痴を言ったら、「まぁ、島国だから仕方がない」みたいな答えが来た。
「悪気がない」
「島国だから」
山ほどこの2つのセリフを耳にする。けど、最近、いや、21世紀だから、どちらもいいわけないと思うようになった。
何故かと言うと、悪気がなくても思いやりがないコメントや行動によって人を深く傷つけることがあるからだ。そして、今、日本には約290万人の外国籍の方が住民として暮らしている。確かに、昔は外国人を見たことがない人がたくさんいただろう。でも今は、そういう人は流石に少ない。なのに、多くの行政や学校など日本の多くのシステムは、「純日本人」しかいない前提で動いている。
税務署の話を客観的に考えると、この現実がはっきりと見える。もちろん、税務署のスタッフは私をいじめる気はなかった。むしろ、税務署の方も非常に困っていて、まったく悪気がなかったし、データ入力の機械を作った人にも悪気はなかっただろう。意図的な差別と思っていない。ただ、「日本人以外の方は確定申告することを全く想定していない」。つまり、外国人の存在認識が薄いのだ。

日本語が話せ、定職があっても作れなかったカード
 こういうエピソードはよく日本の社会でみることがある。長く日本に住んでいる外国人の多くは、必ず似たような経験をしている。
 まず最初にぶつかる壁は、名前の書き方だ。日本で、外国人の名前の書き方は統一していない。一応在留カードと運転免許書がリンクされていて、パスポート通りに書かれているけど、銀行の通帳、光熱費の請求書、自動車保険、健康保険証、クレジットカードなどの氏名はめちゃくちゃだ。私の財布の中を見ると、さまざまな証明書やカードの名前が違う順番とアルファベットで書かれていることがわかる。
アン クレシーニ
クレシーニ アン
Crescini Anne Marie
Anne Marie Crescini
Annemarie Crescini

何故困るかというと、通帳と名前が異なだけで、申請や登録の段階で断られる。私は、日本の大学で准教授という肩書で仕事を持っているが、クレジットカード申請はこの理由で何度もダメになっている。
これも、明らかな「差別」ではないけど、「日本人しかいない」という暗黙の前提で社会が動いているために、多くの外国人にとって住みにくい社会になっている。日本人が簡単にできることは、私たち外国人にとって簡単じゃない。私は日本語が話せるから、日常生活に困ることは殆どないけど、それでも8回ぐらい楽天カードの申請をやり直さないといけなかった。

健康を保つためなのに許されない校則
 日本人しかいない前提で動いている「校則」もたくさんある。先日、私が校則の問題についてTwitterに投稿したら、想像した以上に拡散されて、いろんなメディアから取材の依頼が来た。
 ツイートした内容は、友人の娘の話だった。彼女は黒人のハーフで、中学に入学してすぐ、三つ編みは校則違反と言われたという。生徒手帳に三つ編みはダメだと書いていないけど、数人の先生に囲まれて、そう言われたのだ。最初、学校の教師からは、「私はあなたのことをよく知らない。あなたの髪の毛のことも知らない。だから、知りたい。この髪形、三つ編みじゃないとダメですか?」と問われたという。「この先生は、娘を理解しようとしている」とお母さんは最初感じたというが、結局、三つ編みは校則違反だからダメだという結論になった。
 その後、母親は、「この三つ編みはお洒落の目的じゃない。健康的な髪の毛の状態を保つためだ」と学校に説明したら、「2本の三つ編みの許可」が出た。
 ここまでの話で、「なぜ三つ編みにそこまでこだわるの?」「2本の三つ編みでも許可が出たのであれば、それでいいじゃない」と思うかもしれない。しかし、黒人の方の髪質は日本人とは大きく異なっている。2本の三つ編みでも髪の毛や頭皮がすごく傷んでしまうのだ。髪の毛や頭皮に負担をかけないためには、8本以上の三つ編みが必要だと言われている。
 黒人の方の髪の毛は三つ編みにしないと爆発した状態になってしまう。
髪や地肌を健康に保つためには小分けにに8本ぐらいの三つ編みにするのが理想的だ。
もう少しだけ黒人の方の髪の毛について説明する。強くカールした髪と頭皮は乾燥しやすく、週一回しか髪が洗えない。洗いすぎると髪が痛み、頭皮が乾燥し、傷ついてしまうこともある。洗髪する日を『wash day』と呼び、いつ洗うか決めているという。そして、髪を洗った後、濡れたまま三つ編みにする。乾いてからでは広がって三つ編みにできないからだ。このとき2本の三つ編みだと、一本の束の量があまりにも多すぎるので、なかなか乾かないし、ブラッシングができなくなる。そして、髪の毛が臭くなる。そんなこともあり、8~10本の三つ編みにしたほうが、健康的な髪の状態を保てるのだ。
 お母さんも娘さんもしばらくの間、2本の三つ編みで我慢をした。だが、あまりにも髪の毛が傷みすぎて、もう一回学校に相談しに行った。その結果、「週に1回(洗髪の次の日)のみ4本の三つ編みにしていい」という許可が出た。これを聞いた時に、正直その根拠はどこにあるのか、誰かが適当に決めた印象が否めないと感じた。

「悪気がない」けど居心地が(ママ)悪さがつきまとう
 この件に関して、学校は悪気がないと思う。そして、学校の立場から見ると、差別をしているとは、微塵も思っていない。むしろ「純日本人」とまったく同じような扱いしている。
 日本でも、意図的な悪気がある差別はもちろんある。こういったものはどんな国でもあるので、日本が特別に悪いとは思わない。ただ、「悪気がない」「意図的じゃない」差別は日本の社会に蔓延している。
 今回の友人の娘の校則の事件を見ると、冒頭で話した私が税務署やカード申請で感じた不都合と同じだ。ある前提ありきで社会が動いている。「日本の中学校に通っている生徒たちの髪の毛の質やケアはみんな一緒である」ということだ。つまり、「純日本人」の髪質以外の子どもが学校に通っているという前提がまったくない。
 学校には悪気はない。でも、ときは2021年。さまざまな外国人が暮らす中、多くの学校には「日本人だけの視点しかない」。
私が来日してから25年の間に、日本は確実に前に進んでいる。日本人と同じような住民票になったし、ビザの制度も改善された。そして、「やさしい日本語」という社会運動のおかげで、日本にいる外国人の日常生活が少し楽になった。
 けれど、オリンピックでみえた様々な差別問題や、その後報道された名古屋入管の収容施設で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの事件を見ると、まだ多様性と人権侵害への意識が薄い社会であることは明らかだ。

<以下略>

 「学校に悪気はない」というのは品のよい外交辞令というものだろうが、実際問題、肌着や靴下の色とか、地毛証明書とか、まったく人権意識を欠いた「ブラック校則」に拘泥する人の品がいいとは思えない。

 なお、校則の見直しをどう進めていくべきかについては、日本若者協議会の10月14日付の以下の記事に共感するところが多かった。
「校則見直しガイドライン」を策定し、公表しました – 日本若者協議会




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