ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ワクチン外交と勢力図

 先週Twitterを眺めていて、クーデターのあったビルマミャンマー)ではすでにコロナ・ワクチンの接種が行われているという記述を目にした。何処製のワクチンかと思い、調べてみたら、インド製(イギリスのアストラゼネカ社とオックスフォード大学が開発したもの)という話だが、中国も30万回分の無償提供を申し出ているらしい。

ミャンマーでインド製ワクチン接種開始 中印がせめぎ合い | 新型コロナウイルス | NHKニュース


 ところが、ロシアの通信社「スプートニク」の記事を眺めていたら、ロシア製のワクチン「スプートニクV」(ややこしい……)がミャンマーで承認されているという記載もある。当たり前の話だが、自前のワクチンがない国々は、今、全方位外交を展開して、どんなツテをつかってでも必要なワクチンを確保したいところだ。ワクチンを供給する側にも相応の思惑はあるだろう。

ロシア製コロナワクチン「スプートニクV」 25ヶ国で登録予定 - Sputnik 日本

 ロシア直接投資ファンドのキリル・ドミトリエフ総裁は、ロシア製の新型コロナウイルス用ワクチン「スプートニクV」が諸外国で登録されるとの見通しを述べた。
 同氏は「来週末までに合わせて25の規制当局、つまり25ヶ国が私たちのワクチンを承認すると予想される」と明かした。
ロシア製ワクチン「スプートニクⅤ」は世界ではすでに ベラルーシ、アルゼンチン、アラブ首長国連邦ハンガリーセルビアボリビアアルジェリアパレスチナベネズエラパラグアイトルクメニスタン、イラン、ギニア共和国チュニジアアルメニア、メキシコ、ニカラグアレバノンミャンマーで承認が下りている。


 ミャンマー以外のアジア諸国のあいだにもワクチンをめぐるインドや中国(さらにロシア?)のせめぎ合いが見える。

 エコノミスト木内登英は「中国製ワクチン」と中国のワクチン外交について、NRI野村総合研究所)ジャーナルで次のように述べている(概略)。

中国はワクチン外交で独り勝ちか | 2021年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

 2020年に「マスク外交」を展開していた中国は、今「ワクチン外交」に動いている。中国では、科興控股生物技術(シノヴァク・バイオテック)と中国医薬集団(シノファーム)によって2種のワクチンが作られ、すでに国内外で使われ始めている。これを、インフラ投資とセットにして海外に提供しようとするのが「ワクチン外交」である。
 1月4日から9日にかけて、中国の王毅外相は、ナイジェリア、コンゴ民主共和国タンザニアボツワナセーシェルなど、サハラ以南のアフリカ諸国を公式訪問し、ワクチン外交を繰り広げた。中国政府は「一帯一路」構想の一環として、ナイジェリアをはじめとしたアフリカ各国で、道路・鉄道・港湾などのインフラ事業を進めてきている。
 同外相は、1月11日から16日には、ミャンマーインドネシアブルネイ、フィリピンの東南アジア4カ国を歴訪し、国産ワクチンの提供や生産協力を表明して、各国との関係強化を図った。
 フィリピンではドゥテルテ大統領らと会談し、中国製ワクチン50万回分の提供やインフラ開発に向けた5億元の資金供与を表明。ミャンマーではアウンサンスーチー国家顧問兼外相と会談し、中国製ワクチン30万回分や医療機器の提供を申し入れた。インドネシアではジョコ大統領と会談、大統領はシノバック製のワクチンの緊急使用を許可し、自身が接種の第1号となった。これらのワクチンの提供は、インフラ投資を中心とする「一帯一路」構想の推進との抱き合わせという印象が強い。
 シノバックのワクチンは摂氏2~8度で保管できるとされているので、普通の冷蔵庫で十分に対応できる(ファイザー製のワクチンは、マイナス70度、モデルナ製はマイナス20度)。超低温環境で大量のワクチンを保管するのが難しい新興国、低所得国ではより重宝されるだろう。今後、中国は低所得国向けにも、このワクチン外交を大々的に展開していく可能性がある。医療体制と共に財政基盤が弱い低所得国にもワクチンを普及させることは、先進国にとって大きな課題である。人道上の問題に加えて、仮に先進国で感染を抑え込んでも、低所得国で感染拡大が続けば、いずれそれが先進国に回ってくる可能性もあるからだ。また、感染拡大による低所得国の経済悪化や財政破たんは、世界経済や金融市場にとっても大きな不安要因である。
 世界保健機関(WHO)等は、ワクチン共同購入の枠組み「コバックス(COVAX)ファシリティー」を推進し、2021年末までに各国へ公平にワクチンを分配する計画を立てている。ところが、コバックスによるワクチンの供給は、供給先の国の人口の20%を上限としているため、できるだけ多くの国にワクチンを配るには、一国への配給量を制限する必要がある 。そのため、低所得国は、コバックスに頼るだけでは、十分なワクチンを入手することができない。比較的安価で使い勝手の良い中国のワクチンに頼る傾向は、この先強まっていく可能性がある。
 感染拡大が続く米国では、当面は国内でのワクチン接種に手一杯で、他国に回す余裕はない。他方、感染抑制がかなり進んだ中国では、国内で開発、生産したワクチンを他国に回す余地が大きい。当面、ワクチン外交では中国の独り勝ちの状況となろう。比較的短期間の間に、中国が新興国に勢力を拡大させ、将来の世界の勢力図に大きな変化を生じさせるきっかけとなる可能性もある。


 別に「ワクチン大国」になって「ワクチン外交」を主導する立場になるのがよいと思っているわけではないが、何か完全に日本は「蚊帳の外」という感じがする。


<参考>
 〇ワクチンの生産増強に追われているEUやイギリスについて。
EUワクチン不足 「大量生産、考えるべきだった」 欧州委トップが計画過ち認める - 産経ニュース
 〇日本の国産ワクチンについて。
国産ワクチンはなぜ出遅れ? 開発を阻んだ「護送船団」 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル




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