コロナ対策の「優等生」と言われていた台湾だが、5月にコロナ感染が急拡大し、5月27日には一日の感染者数が600人を超えた。これは日本で言えば一日3,000人を超える感染者数に相当し、全体として今の日本の感染状況とだいたい同じと考えられる。
その台湾に政府はアストラゼネカのワクチン約120万回分を提供することにしたという。
アストラゼネカのワクチンといえば、副作用で血栓ができることがあると指摘されていて、ヨーロッパを中心に接種を見送ったり、正式に中止している国が多い。
（“アストラゼネカのワクチン接種で血栓” 医学雑誌に論文掲載 | 新型コロナ ワクチン（世界） | NHKニュース）
（アストラゼネカ製コロナワクチン、仏独伊西など、15カ国以上で使用を一時中止。EUの決定は？(今井佐緒里) - 個人 - Yahoo!ニュース）
韓国では死亡例があるとも伝えられる。日本としては、ワクチン確保に狂奔し、承認後に国内工場で4,000万人分を製造することになっていたが、実際の接種は保留されている。「宝の持ち腐れ」の声もあるようだが、薬害の悲劇を繰り返してきた国としては慎重にならざるを得ないだろう。しかし、その疑念のあるワクチンを「人助け」を理由に別の国に送ることに躊躇はないのだろうか？
立憲民主党の今井雅人議員が6月2日の内閣委員会で質問している。
（衆議院インターネット審議中継）
これは指摘だけにしておきますが、報道でアストラゼネカ社のワクチンを提供することを検討と。茂木大臣、いろいろなところに検討するとおっしゃってましたが、……今、日本でアストラゼネカ社（のワクチンは）、承認を受けているのにもかかわらず、接種してないんですね。いろんな懸念があるから、と。自国で懸念があるといって使用していないワクチンを他国に出すということは、間違ったメッセージを出しかねないということをとても心配しています。台湾は大変大事な友好相手でありますし、そういうところに余計な誤解が生じないように。援助するときは丁寧に説明をしていただかないと、そういうことを言い出す人が出かねないから、十分注意していただきたいと思います。
遠慮がちな異議、反対意見の表明だと思う。これに対して、台湾はアストラゼネカのワクチンの使用を3月に承認しているのを知らないのか、というTweetを目にしたが（引用はしない）、だからいいということになるのだろうか？
（台湾、アストラゼネカ製ワクチンを承認 来週にも接種開始 | ロイター）
先月ホームセンターに行くと、除草剤が山積みになっていた。時期的な需要があるのだろう。ところが、眺めてみると、成分がグリホサートのものがほとんどで、そうでない除草剤を探す方が大変である。グリホサートは発がん性が疑われ、市販されているパンなどの小麦製品はもとより、ニュージーランドでは蜂蜜にまで残留が確認され、使用禁止や規制強化をする国が増えているが、日本は不思議なくらい注意喚起がおろそかにされている。市場の縮小で在庫を抱える側にとって、日本はかっこうの販売先（はけ口）になっている。
（売上No1除草剤に発がん疑惑、禁止国増える中、日本は緩和(猪瀬聖) - 個人 - Yahoo!ニュース）
（世界中が禁止するラウンドアップ 余剰分が日本市場で溢れかえる | 長周新聞）
あるいは、福島原発事故以降、国内での原発事業の行く末が危うくなってきたと感じた「原子力ムラ」は、第二次安倍政権時代に積極的な海外トップセールスを展開した。これも似た感じがする。
（福島を踏み台に原発を海外に売るのか／メーカーの責任問う仕組みを - 小森敦司｜論座 - 朝日新聞社の言論サイト）
ヤフーオークションやメルカリで不要となったものを互いに融通し合えばウインウインかもしれないが、ワクチンや除草剤、原発は一般的な「いらなくなったもの」とは質が違う。被害が出れば命にかかわる。それがわかっていながら、善意とか、人道的な支援などと称するのは、甚だしい欺瞞だ。
もし、どこかの国が問題のあることがわかっているワクチンを「困ったときはお互い様だから」などと日本に善人顔で提供するとしたら、日本の国民は「どうもご親切に」と感謝する気持ちになれるだろうか。
今井議員が「援助するときは丁寧に説明を」というのは、嫌みではないと思うが、この国の政府が口癖のように言いながら、実は最も不得手としていることのひとつが「この丁寧な説明」だ。最近は「説明」どころか、「コメントは差し控える」ばかりである。
相手が喜ぶ贈り物とは、基本的に自分がもらってうれしいものではなかっただろうか。
＜訂正＞当初「台湾にワクチンを進呈する」などと（洒落や嫌みでなく）上下関係をともなう語をつかっていた部分を改めました。見下すのもへりくだるのも本意ではないので、お詫びして訂正します。
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