ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

スーパークレイジー君の当選

 昨日のブログでは敢えて埼玉県の戸田市議会議員選挙のことには触れなかった。スーパークレイジーの当選に興味はあったが、自民党の「退潮傾向」とは “無関係” と思ったから。しかし、フリーライター畠山理仁(はたけやま みちよし)さんの以下の記事を読んでいて、レヴェルのちがう話のように思えてきた。「地殻変動」というのは言い過ぎかもしれないが、これは一政権党の支持・不支持を明らかに超えている。

踊らない! 歌わない! 戸田市議会議員選挙で、スーパークレイジー君はなぜ当選できたのか? | 畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」 | よみタイ


 スーパークレイジー君というのは “芸名(歌手名)” で、本名は西本誠さんという。昨年の東京都知事選にも立候補しているが、このときは「スーパークレイジー君」の名前の使用が認められなかった。結果は11,887票の得票を集めて、22人中第10位だった。畠山さんは、この選挙の時から彼を取材しているが、選挙カーは黒塗りのベンツで、髪は金髪、衣装は文字入りの白い特攻服……で、「選挙の候補者でなければこちらから話しかけることはなかっただろう。目も合わせにくい」と述べている(笑)。

「政策と人材のオリンピック・パラリンピック」東京都知事選挙で印象に残った演説 | 畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」 | よみタイ


 畠山さんが「忘れられない演説」があるという。中野駅北口で彼が行ったというその演説を以下に引かせていただく。

 西本は白い特攻服姿で白い手袋をし、黒塗りのベンツの前でマイクを握って静かに語りかけた。
「『オリンピックで一番覚えてるの何?』って言われた時、僕が思い出すのは日本人じゃないんです。ある外国の国で、泳いだこともないのにオリンピックに出された選手のことを唯一覚えているんです」
 聴衆は立ち止まって次の言葉を待つ。
「バカじゃないのかって、最初思ったんです。その国にプールもないし。バカか、みたいな。でも、その人は初めて……。練習は25mプールでしかできていないけど、オリンピックで100m泳ぎきった。その時に、金メダル取った時よりも周りの人が『ウォーッ』てなってて……。最初はバカにしてたのに……」
 西本は絞り出すように言葉を続けた。
「自分も絶対、『あの時、あいつはああ言ってたよな』とか『学歴ないけどちゃんとやってるな』と言われる人になりたい」


 定型の政治演説を聞きたいと思う人にとっては、だから何なのかという話だろう。この部分だけ切り取れば、まるで「政治」とは無関係だ。しかし、「この国を変える」とか「〇〇の発展のために全力を尽くす」とか、選挙のときだけ大げさで平身低頭だった候補者が実際に当選すると、どうなっていったか。信じては裏切られ……の連続に、政治家(議員)と人々(有権者)の間は寸断された。“集票マシーン“ と ”やらせ劇場“ と化した選挙に人々は足を向けなくなった。半数、あるいはそれ以上の人がもう投票には行かない。それを思えば、彼の話とその視線には安心感すら抱く。


 しかし、やはりそこは “政治”。当選したら、政治家(議員)として何を目指すか、何を実現するかが当然問われる。一過性の人気投票ではないのだ。
 畠山さんも最後にこう書いている。2月1日付記事から引用する。

「誰も政策のことを聞いてくれないんですよね」
 異色の市議が誕生したことは市政にも刺激を与えるだろう。しかし、今回の選挙戦を取材していて、一つ気になったことがある。それは選挙戦中にスーパークレイジー君本人から聞いたこんな言葉だ。
「今回は本気で当選を目指しているから、政策も一生懸命考えて書いたんです。国会議員の人にもアドバイスをもらったりして。政策を聞かれても答えられるよう、しっかり考えて書きました。できないことではなく、自分ができることを書きました。でも……」
 でも?
「誰も政策のことを聞いてくれないんですよね」
 たしかにそうだった。候補者本人がビラを手渡すとみんな受け取る。でも、有権者の目はビラには向かない。目の前にいる候補者本人に注がれていた。
「政策とか聞かなくて大丈夫ですか?」
 候補者本人がそう言うと、多くの有権者はこう言った。
「大丈夫! スーパークレイジー君に入れるよ!」
「今回、結構ちゃんと政策を書いてるんですよ」
「大丈夫、大丈夫! 君を応援する!」
 有権者が誰に一票を投じるかは自由だ。しかし、決して忘れてはいけないことがある。それは、選挙の度に有権者は試されているということだ。
 選挙に行く人、行かない人、どちらもリスクを背負う。誰もが政治の影響から自由になることはできないから当然だ。そして万が一、有権者のために働かない政治家を選んでしまった場合、その責任は有権者が背負わなければならない。
 だから選挙の際には、大切な一票を責任をもって投じたほうがいい。政治家が間違った方向に行きそうになった時、きちんとコミュニケーションを取れる相手なのかも見極めたほうがいい。
 選挙は投票して終わりではない。候補者も当選して終わりではない。有権者と政治家の間に適度な緊張関係があれば、政治はきちんと機能するはずだ。私はそれこそが正しい民主主義だと思っている。


 またこの国の有権者が試されるときがやってくる。



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