ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「韓国に抜かれる」ということ

 「経済大国」とか「先進国」の指標としてGDP(国内総生産)の大きさが取り上げられることが多い。長らくアメリカに次いで世界第2位のGDP、つまり「世界第二の経済大国」を自認していた日本が、GDPで中国に抜かれたのが今から約10年前の2010・11年あたりのこと。今の中国の経済規模から振り返ってみれば、これも納得のいくところだが、当時の経済界にはちょっとした衝撃が走ったように記憶している。

 それから10年。かねてより「日本は韓国に抜かれ」たと指摘している、元大蔵官僚で経済学者の野口悠紀雄が最近の記事でも同じことを書いている。GDP総体としては、2018年時で韓国1兆6,190億ドル、日本4兆9,710億ドルで日本の方が上なのだが、韓国の人口規模は日本の4分の1くらいなので、1人あたりに換算すると、日本より韓国の方が確かに上なのである。

 以下、10月3日付「現代ビジネス」の記事、「韓国が日本を抜いていく――これがアベノミクス時代、最大の「事件」だ」より。

韓国が日本を抜いていく――これがアベノミクス時代、最大の「事件」だ(野口 悠紀雄) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

日本の実質賃金が2000年頃からほとんど横ばいだったのに対して、韓国の実質賃金は2020年までに1.4倍になった。このため、2000年には日本の7割でしかなかった韓国の賃金が、2020年には日本より9%ほど高い水準になった。さまざまな国際ランキングでも、いまや韓国は日本より上位に位置している。
こうなったのは、韓国で技術革新が行われたのに対して、日本は円安に安住して技術革新を怠ったからだ。

日本人が聞きたくないニュース
総選挙が近づいていることもあり、アベノミクス評価の議論がなされている。
アベノミクスの期間に起きた重要な「事件」の1つは、韓国が日本を追い抜いたことだ。いま韓国は、さまざまな指標で日本を抜きつつある。
韓国の人口は日本の4割程度だから、GDPで見れば、日本のほうがずっと大きい。このため、変化はあまり目につかない。しかし、重要なのは、GDP全体よりは、豊かさなど、1人当たりの数字である。
しかも、韓国は、香港やシンガポールのような人口が非常に少ない都市国家とは違う。都市国家の1人当たりGDPが高くなるのは、ある意味で当然だ。しかし、韓国は、基本的には日本と同じような構造の国家だ。それが豊かさの点で日本を追い抜いていくのは、重要な「事件」と言わざるをえない。
ところが、このことは、日本ではほとんど報道されていない。日本人にとって聞きたくないニュースだからだろう。
しかし、聞きたくないニュースや不都合なニュースに耳を塞いでしまってはいけない。そうしたニュースほど真剣に向き合う必要がある。

日本より豊かになる韓国
日本と韓国の年間平均賃金の推移を、(見ると)……日本の値が2000年の3.8万ドルから2020年の3.9万ドルまでほとんど横ばいだったのに対して、韓国の値は、2000年の2.9万ドルから2020年の4.2万ドルまで、1.4倍になった。このため、2000年には日本の76.2%でしかなかった韓国の実質賃金が、2020年には日本より9%ほど高い水準になった。
逆転は、2015年に起きている。これは、アベノミクスの最中のことだ。韓国の最低賃金が日本より高くなったことが、暫く前に話題になった。最低賃金は政策で決められるものなので、「韓国では高すぎる値に設定されているのが問題だ」との意見もあった。
しかし、最近では平均賃金が日本より高くなっている。これは、経済の実力を表すものだ。日本の実質賃金が停滞しているのに対して、韓国の実質賃金の成長率は高いので、時間が経つほど、日本と韓国の乖離は拡大するだろう。
なぜ韓国が日本より豊かになるのか? その理由は明らかだ。韓国は技術開発を行い、生産性を上げているからだ。それに対して日本は、技術が停滞している。
これはとくに先端的な情報関連で明らかだ。日本には、スマートフォンを生産できるメーカーは存在しない。しかし、韓国には、サムスンLG電子という2大メーカーがある。サムスンは、世界最大のスマートフォンメーカーだ。
また、韓国は、高速通信規格「5G」を世界に先駆けて商用化した。先端半導体を製造できるのは、世界でTSMC(台湾積体電路製造)とサムスン電子しかない。

大学、競争力……様々なランキングで韓国が上位に
日本と韓国の関係が逆転しつつあることは、様々なランキングに現れている。2021年6月に公表されたジュネーブにある国際経営開発研究所が作成する「世界競争力年鑑2021」によると、2021年の順位は、韓国が23位で、日本は31位だ。2017年には韓国27位、日本25位だったのが、2019年に逆転された。「デジタル技術」では、韓国8位、日本が27位だ。
国連が発表した電子政府ランキング(国連加盟193カ国が対象)によると、2020年において、日本は、14位だ。それに対して韓国は世界第2位だ。
日本にはノーベル賞受賞者が28人いる(米国籍を含む)が、韓国人には、平和賞以外はいない。
だからといって、韓国の研究開発能力や高等教育水準が日本より低いわけではない。なぜなら、ノーベル賞は過去の研究業績に対して与えられるものであり、日本にノーベル賞受賞者が多いのは、かつて日本が基礎研究で世界の先端グループに属していたことを示すものだからだ。
現在、あるいは将来の研究開発能力がどうなるかは、大学の状況に現れている。
では、日韓の大学を比較すると、どうなっているか?
世界大学ランキングの1つである「THEランキング」で、アジアの20位までをみると、つぎのとおりだ。
中国7校、韓国4校,香港4校,シンガポール2校、台湾1校。これに対して、日本は2校(東大6位、京大10位)しかない。韓国は日本の2倍だ。なお、韓国の4校は、ソウル国立大学、KAIST、成均館大学校(SKKU)、浦項工科大学校(POSTECH)。

<以下略>

 おそらく1980年代・90年代と比べれば、「先進国」日本の全体的な「斜陽」は明らかなのだろう。この先、うまく舵をきり、技術革新や人材育成が順調に進めば、少しは「巻き返せる」のかも知れない。実際、少子高齢化と人口減がますます進んでいくなか、増大する社会保障費や年金、財政赤字と累積債務のことを考えれば、この先も「斜陽」のままでいいというわけにはいかない。
 しかし、この国に巣くう “腐敗” や “不正” をそのままにして “停滞” から脱することができるだろうか。岸田新政権の薄汚れた組閣や党人事の様からして、堕落が凝縮されている。どうせ「騒いでもそのときだけですぐ忘れる」から大丈夫だと見くびられている。韓国にも “腐敗” や “不正” はあるだろうが、彼らはそれを許さないという社会の意思を示してきた。このまま腐敗不正に寛容な社会でいくのか、日本社会もそこを問われているように思う。

 昨日は背任容疑で日大の理事らが逮捕された。一人はアベシンゾーのゴルフ仲間だと報じられている。その夜、首都圏は大きな地震に見舞われた。和歌山の水道管の崩落を見たばかりなのに、今度は千葉県で似たような映像を目にすることになった。未明のサッカーはサウジアラビアに敗れW杯出場が危うくなってきたとのこと。……
 無関係なはずの偶発事が何かすべてつながって見えてしまう。



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株式市場は忖度しない

 昨夜(10月6日)「一月万冊」のなかで佐藤章さんが紹介していた記事がおもしろかった。東京市場の株価と岸田内閣成立までの経過との連動性が如実に現れている。投資家、特に海外投資家から岸田政権がどう見られているかがよくわかる。

 二番煎じになるが、10月6日付M&A Onlineより引用する。グラフに着目。

株式市場に「忖度なし」…なぜ岸田政権で株価が下落し続けるのか - M&A Online - M&Aをもっと身近に。

菅前首相が追い詰められると株価が上昇
…8月以降の株価の動きを見てみよう。政局絡みで株価が上昇に転じるのは8月23日から。前日の横浜市長選挙で菅前首相が強く推した小此木八郎国家公安委員長が、立憲民主党の推薦する新人候補に18万票もの大差をつけられて敗北した翌日だ。
「お膝元」である横浜市での惨敗に、菅前首相の自民党内での求心力は急速に低下。党内に「菅首相の下で今秋の衆議院議員選挙を戦えるのか?」との疑問の声が広がった。菅前首相の自民党総裁選での苦戦も予想され、総裁選前の衆議院解散・総選挙もありうると見られていた時期だ。
菅総裁のまま衆院選に突入すれば、自民党の大敗は避けられないと見られていたが、この日の株価は同480円99銭(1.78%)高の2万7494円24銭に上昇する。本来なら自民党が大敗すると株価の下落要因となるが、そのリスクが高まったにもかかわらず株価が上昇した。これは横浜市長選での敗北を受けた、自民党内での「菅おろし」を期待した動きだろう。

自民党総裁選前後の日経平均株価
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菅前首相の求心力低下を見て、横浜市長選の4日後の8月26日には岸田氏が総裁選への立候補を正式に表明する。株価は上昇したものの、それほど大きく動かなかった。同17円49銭(0.06%)高の2万7742円29銭に留まったのだ。その翌日には株価は下落に転じた。

投資家は岸田総裁による「自民党の変革」を疑問視
これは岸田氏が早くから総裁選出馬の意欲を見せていて意外性がなかったこともあるが、投資家に「岸田総裁で本当に自民党は変わるのか?」との懸念があったと考えられる。
投資家が「自民党の変革」に期待していることは、8月30日に菅前首相が党幹部の人事を一新し、二階俊博前幹事長を事実上更迭すると表明したことで明らかになった。
これを受けて、株価が同148円15銭(0.54%)高の2万7789円29銭に跳ね上がったのだ。安倍・菅政権を支えてきた二階前幹事長の「退場」を、株式市場が「自民党の変革」に向けた第一歩と捉えて好感した結果と言えるだろう。
しかし、この「二階はずし」が菅前首相の「致命傷」となった。菅前首相単独で自民党をまとめるのは難しいと見た有力議員たちが、そろって党幹部への就任要請を固辞。党幹部の人事刷新は不可能となり、万策尽きた菅前首相は9月3日に総裁選への不出馬を表明する。
これに市場は大きく反応。同日に同584円60銭(2.05%)高の2万9128円11銭へ上昇した。菅前首相の事実上の「辞任表明」は、株式市場に「自民党の変革」を確信させる材料となったのだ。菅前首相の不出馬表明で、高市早苗総務相河野太郎前行革担当相、野田聖子総務相らも総裁選に名乗りをあげ、岸田氏を含む4人の選挙戦となる。
中でも投資家が注目したのは河野氏だ。河野氏が総裁選出馬に向けて動き出すと株価はじりじりと値を上げ、9月10日の正式な立候補宣言で同373円65銭(1.25%)高の3万381円84銭に。4候補の中で、河野氏が最も「改革イメージ」が強かったためと思われる。

「変革」なくして「株価上昇」なし
9月21日に中国不動産開発大手・恒大集団の経営危機問題から株価は大きく下げたものの、24日に田村憲久厚労相河野氏支持を表明すると同609円41銭(2.06%)高の3万248円81銭と3万円台を回復する。この頃には自民党の派閥リーダーたちが河野氏の当選に警戒感をつのらせていると伝えられ、投資家の「河野政権誕生」への期待も高まっていたようだ。
だが、29日の総裁選は予想ほど河野氏の得票が伸びず、岸田氏の当選が決まる。すでに岸田氏優勢は揺るがないとの報道もあって、「自民党の変革」は遠のいたとの見方が広がり株価は下落。自民党新総裁の就任日に株価が下落してはまずいと日本銀行が忖度したのか、ほぼ3カ月ぶりとなる上場投資信託ETF)買い入れで701億円を投入したが、同639円67銭(2.12%)安の2万9544円29銭に急落する。
投資家の「意思表示」がはっきりしたのは、岸田新総裁が党四役を含む自民党幹部人事を発表した10月1日だ。麻生太郎前副総理兼財務相に近い甘利明前税調会長を幹事長に、安倍晋三元首相が総裁選で強く推薦した高市氏を政調会長に選ぶなど、自民党のいわば「守旧派」議員を重用した。
一方、「変革派」と目される河野氏は広報本部長に「降格」される。河野氏を推薦した石破茂元幹事長に至っては自身の派閥から閣僚が出ておらず、完全に「干された」格好だ。
こうした「変革派」の排除を嫌気して、株価は同681円59銭(2.31%)安の2万8771円07銭と下落。値下り額、値下り率ともに、ここ2カ月間で最悪となり、中国の「恒大ショック」よりも衝撃が大きかった。日銀はこの日も再び701億円のETF買い入れを断行している。
5日も株価は同622.77円(2.19%)安の2万7822円12銭と下げ止まらない。岸田首相の下で自民党が変われるのか?少なくとも投資家の評価は否定的なようだ。衆議院議員選挙は10月31日の投開票が決まった。総選挙が終わるまでは岸田政権が本格的な政策を提案し、議論するのは難しい。投資家の岸田政権への評価は当分「辛口」のままだろう。


 東京市場の株価(日経平均)は9月27日月曜から8営業日連続で下がっている。額にして2,700円余(約9%)の下落。TOPIX東証株価指数)も7%の下落。自民党新総裁の就任日に株価の下落を避けようと日銀が上場投資信託ETF)の買い入れに701億円を投入したが、焼け石に水だったというのは失笑ものである。

 もちろん株価の下落が岸田政権のせいだとばかりも言えないが、報道各社が発表した初の内閣支持率も低迷気味で、もしこれが下駄を履かせた「ご祝儀相場」の数字だとしたら、実情はさらに「低い」のか! という話になる。こちらの方は、経済政策の期待云々とは別の理由だろう。その原因は明らかだ。だが、どうにもしようがない。それが今の岸田政権ということか。このまま与党・公明党も何も言わずに心中するつもりだろうか?



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真鍋さんのノーベル物理学賞受賞

 昨日の夕方テレビを見ていて、真鍋淑郎さんノーベル物理学賞に選ばれたことを知った。何か聞き覚えのある名前だなと思っていて、しばらくしてから、ああそうだ、NHKの番組「地球汚染」に出ていた人だと思い出した。
 「地球汚染」は1989年3月に2回にわたって放送され、大きな反響を呼んだ。小生の記憶では、その第1回「大気に異変が起きている」で、CO2濃度の上昇と地球温暖化の相関をコンピューターで分析する場面があり、そのときご登場されたのが真鍋さんだったと思う。今から32年も前の話で、逆算すると、真鍋さんは当時58歳。番組内では確か「真鍋博士」と呼ばれていた。

 10月5日付毎日新聞の記事より。

ノーベル物理学賞の真鍋淑郎氏 「温暖化が大きな問題になるとは」 | 毎日新聞

 今年のノーベル物理学賞受賞が決まった米プリンストン大上席気象研究員の真鍋淑郎(しゅくろう)さん。
……1931年、現在の愛媛県四国中央市新宮町生まれ。祖父や父が医師という家に育ち、自身も一時医師を志した。しかし、結局は東京大で正野重方教授(当時)の研究室に入り、気象学を専攻した。気象学を選んだのは「記憶力は悪いし、手はぶきっちょ。空を眺めて物思いにふけるくらいしか取りえがないと思った」からだ。
 当時、米国ではコンピューターで物理の法則に基づいて天気予報をする「数値予報」の研究が進んでいた。一方、東大の木造の研究室で、真鍋さんらは手計算で数値予報に挑んでいた。
 そんな中、大学院生だった真鍋さんの論文に目を留めた人がいた。米気象局大気大循環セクション(後の米海洋大気局地球流体力学研究所)を率いていたジョセフ・スマゴリンスキー博士だ。真鍋さんを自分の組織に招き、渡米直後は自宅に滞在させた。真鍋さんは「何も分からず、ぼけっとしていたら、スマゴリンスキーさんの奥さんが家の探し方などを教えてくれた」と話した。
 スマゴリンスキー博士は、着任したばかりの真鍋さんに新しい「気候モデル」を開発するという大きな構想を語り、開発を指示した。その気候モデルは、天気予報のための数値予報モデルを基に、長期的な気候の変化の予測や再現を可能にするものだ。「温暖化がこんなに大きな問題になるとは夢にも思わなかった」というが、博士のプランは魅力的だった。「実に興奮しましたよ。大変な研究だと思ったけれど、面白いテーマだし大喜びで飛び込んでみたら案の定大変でした」
 その後、真鍋さんは大気の状況を地面から垂直に立った1本の円柱に見立て、温度分布を考える手法「一次元大気モデル」を開発。その手法を生かして、気候変動予測につながる画期的な研究成果を次々と発表した。
 取材では当時の研究環境を「天国だった」と振り返った。スマゴリンスキー博士は莫大(ばくだい)な研究費を確保し、真鍋さんらの研究に予算をつけた。外部から2~3年で成果を出すことを求められるようなプロジェクトの話が来ると「そんな短期間で期限を切られたらできない」と断るような人だった。研究の進め方も真鍋さんに任せてくれ、いちいち相談することもなかった。
 「スマゴリンスキーという人がいなかったら私のキャリアは存在しなかった」。真鍋さんはそう話して、博士への畏敬(いけい)の念を見せた。

 今朝のNHKでは、真鍋さんの奥方が「彼はラッキーだった。家庭のことなど一切顧みないで365日、四六時中研究できたのだから」みたいな話をされたあと、真鍋さんが苦笑交じりに「女房のおかげです」と言わされていたが(笑)、真鍋さんの人生の、横断面には奥様や家族、研究者仲間らがおり、縦断面には過去から続く膨大な研究や思考と文化の蓄積があるだろう。真鍋さんにとってはスマゴリンスキー博士の存在が大きかったかもしれないし、主観的事実としては確かにそうなのだろうが、その実績の背景には膨大な “層” があると思う。

 その “層” のひとつが研究環境だろう。真鍋さんと同様、過去にも日本に在住しない「日本人」がノーベル賞を受賞したことがあるが、やはり素朴に「なぜ、日本の研究機関や大学でなく、アメリカのプリンストン大学なのか?」という疑問は抱く。経歴を拝見すると、真鍋さんは1958年に東大の大学院を出てからアメリカに渡り、アメリカ国立気象局(現アメリカ海洋大気庁)の主任研究員を務めたあと、1968年からプリンストン大学客員教授を兼任、1997年に一時帰国し、科学技術庁地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長に就任したが、わずか4年で辞任、2001年プリンストン大学研究員に転じている。なぜ、4年で再びアメリカへ戻ったのか。報道によれば、共同研究をめぐり科学技術庁の官僚と軋轢があったとも言われている。この「頭脳流出」について、6日付毎日新聞に、次のような記事がある。

日本の研究環境悪化「頭脳流出」懸念 ノーベル賞に米国籍の真鍋氏 | 毎日新聞

……これまでも日本出身で海外で成果を出し、ノーベル賞を受賞する研究者はいたが、近年日本の研究環境の悪化から、さらなる「頭脳流出」の懸念が高まっている。
 第二次世界大戦後、資金も研究職のポストも乏しかった時代に、よりよい研究環境を求めて海外に向かう研究者は少なくなかった。2008年に物理学賞を受賞した故・南部陽一郎氏は52年に米プリンストン高等研究所に留学。58年にシカゴ大教授に就任し、70年に米国籍を取得した。
 08年に化学賞を受賞した故・下村脩氏も米国での研究生活が長かった。60年にプリンストン大に研究員としてフルブライト留学。名古屋大助教授を経て再び渡米し、プリンストン大上席研究員や米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員などを歴任した。
 戦後復興を遂げ、高度経済成長を経て先進国の仲間入りを果たした日本。新興国のような経済成長の勢いはないものの、今でも世界第3位の経済大国だ。だが、近年の研究環境の悪化や、研究力低下を指摘する声は根強い。
 優れた研究成果を生み出すためには、研究開発費と研究人材が不可欠となる。研究への投資面で見ると、企業も含めた主要国の研究開発費(19年)は、日本は約18兆円で近年横ばい。一方、論文数で世界1、2位を争う米中は増加し続けており、米国は約68兆円、中国は09年に日本を上回り約54・5兆円で、日本の3倍以上の規模の投資額となっている。
 人口が異なり、単純比較はできないものの、中国の研究者が約210万人、米国約155万人に対し日本は約68万人(民間を含む)と、人材面での格差も大きい。また、日本の研究機関では研究スタッフの数が少なく、米国と比べて研究と教育などの分業が進んでいないと指摘されている。
 米国の日本人研究者に調査した早稲田大の村上由紀子教授は、海外に活躍の場を求める主な要因を「米国の優れた研究環境や研究成果が日本人研究者を引きつけている」と分析している。在米研究者はヒアリング調査で、主な渡米の理由に「一流研究者と一緒に働きたい」「設備や予算など環境が優れていて米国の方が高い成果を出せる」「先端技術や知識を習得できる」などを挙げている。
 日本は現在、国立大学の運営費交付金の削減を続け、公的研究費助成の「選択と集中」路線で特定分野に研究費を配分する方針を強化するなどし、研究環境を悪化させていると指摘されている。影響力の大きな学術論文数の国別ランキングでは過去最低の世界10位に後退するなど研究力の低迷も歯止めがかからない。
 21年8月には、藤嶋昭・東京大特別栄誉教授が中国・上海理工大の専任職のポストに就いたとの発表があった。藤嶋氏は光で化学反応を促進する「光触媒」を発見し、毎年ノーベル賞候補に名前が挙がる。政府は研究者支援のため10兆円規模の大学ファンドの設立を計画するなど対策を講じているが、有能な研究者の海外流出に抑止効果があるのかは不透明だ。

 昨年来の日本学術会議の会員任命拒否と有能な研究者が国外に出て行くこととは決して無関係ではないだろう。政府権力と学問の関係で言えば、そもそも真鍋さんが取り組んできた研究は、日本の政府や業界団体にとっては決して歓迎される研究ではないはずだ(80年代のNHKならともかく、2020年代、さらに「御用メディア度」が増したNHKが同じようにこうした番組をつくって放送できるだろうか)。

 そして、もう一点、真鍋さん他、これまでの「日本人」のノーベル賞受賞には「日本人として誇りに思う」という皮相的コメントが繰り返されてきたが、それで事足れりとしているうちに、個々の研究者に限らず日本に暮らす一人ひとりの背景をなす「教養」がどんどん痩せ細っている。そのことに目が向けられていないと思う。かつて、歴史家の阿部謹也さんが、これまで教養は個人単位で考えられてきたが、集団の教養というのを考えるべきだと書いていた。痩せ細っているのは、まさに、この「集団の教養」だと思う。




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