「戦略的互恵関係」というのは、中国嫌いの安倍晋三が第一次政権時代から使い始めた日中間の外交用語と理解していますが、その内容というのが、官僚的というか、平たく言えば、仲は悪くても商取引はしましょうね、ということでしょう。それから約20年もたった今の日中外交でも使われる用語になるとは思いもしませんでしたが、安倍を師と仰ぎ、安倍外交を真似たい高市によって、今や日中間が「互恵」どころか「戦略」もうまくない状況に陥っているのは皮肉な感じです。どうしたいのか。
中国による対日批判は日増しにボルテージが上がっています。すべては高市の国会答弁から始まったかのようにとらえるのは、たぶん誤りでしょうし、これを中国側の「言いがかり」とだけとらえるのも表面的な感じがします。たとえば、昨日の毎日新聞には、識者の意見として慶応大学の加茂具樹(ともき)氏の短いコメントがありますが、これなども現状を「中国側の無理筋」と解釈しているようです。氏は、「存立危機事態」の法的枠組みを理解していれば、日本が自動的に台湾海峡で武力介入するとは考えられないし、中国側もそれは十分わかっている(わかってやっている)というのですが、どうなんでしょうか。
ミニ論点:台湾有事答弁、局長級協議 安保と主権、議論ずれ 加茂具樹・慶応大教授 | 毎日新聞
他方で、評論家の古賀茂明さんは、「台湾有事を具体的に想定し、戦艦などが出てきた場合は、『どう考えても存立危機事態になり得るケースだ』と明言したことは大変な失言だ」、「これまでの日本側の立場から大きく逸脱していることは否定できない」、「中国側から見れば日中間の公的な約束に反するもので、ほとんど国交断絶しても良いほどの意味合いを持つ重大発言だった」と述べています。長くなりますが、引用させてください。
起きないはずの「台湾有事」を自ら起こそうとする高市首相 「どう考えても存立危機事態」は中国に宣戦布告したような大失言! 古賀茂明 | AERA DIGITAL(アエラデジタル)
……日本のマスコミも野党も高市発言の真の問題を正確には伝えていない。少し複雑な話だが、なるべく手短に解説してみたい。
まず、台湾を国家承認しているのは12カ国にとどまり、その他の世界のほとんどの国は台湾を国家として認めていない。国連も1971年の決議により、中国(中華人民共和国)を唯一の代表とした。言い方は悪いが、日本も米国も国連も含めてほぼ世界中が、過去に台湾を見捨てて中国をとったということだ。
次に日本の立場だが、中国と国交正常化をした1972年の日中共同声明第3項には「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。
日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」
と書いてある。
第1文は単純に中国の立場を書いたものだ。
第2文の前半は、1文で書いた中国の立場を「理解し尊重」はするが、これを完全に認めたとは書いていない。あくまで「尊重する」までだ。
第2文の後半、ポツダム宣言の話は、日本が、植民地支配していた台湾を、中国すなわち中華人民共和国に返還することを認めるという内容だ。これにより、日本は台湾について一切の権益を失い、台湾は中国に帰属することを認めたということがよりはっきりする。つまり、第1文の中国の立場をより強める内容である。「尊重する」だけでは弱いので中国側を説得するために付け加えられたと解説されている。
■台湾が中国の領土の一部であることを「理解し尊重する」
以上を総合すると、日中間で合意した共同声明は、台湾が中国の領土の一部であるとする中国側の主張を日本側は無条件ではないものの、事実上認めたと外形的に見えると言って良いだろう。……
……台湾が中国の領土であることを日本が完全に「認めた」ということになると、台湾に対する中国の武力行使は国際法上内戦の一環(正統政府による反乱政権に対する制圧行動)として正当化され、それに対して他国が干渉することは、中国の国内問題への違法な干渉であり、認められないということになる。
しかし、日本政府などは、日本は単に「理解し尊重する」と言っただけで認めるとは言っていないので、この主張は正しくないと主張する。
その際、必ず引き合いに出されるのが、大平正芳外務大臣(当時)の1972年衆院予算委員会における「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、『基本的には』中国の国内問題であると考えます」という答弁だ。これも長くなるので日本政府の解釈だけを伝えると、「基本的には」と述べているとおり、将来中国が武力により台湾を統一しようとした場合は例外であり、わが国の対応については、立場を留保せざるを得ないということだと解説される。
しかし、この解釈は、中国に対しては有効ではない。それを認めたら、台湾が完全に中国の領土であるとは言えなくなるからだ。
以上を日本側にある程度理解を示しつつまとめると、日本が植民地支配していた台湾を中国に返還すべきだという当時の約束に日本は同意した。日本は、台湾が中国の領土の一部であることについても理解し尊重すると約束した。
日本は、台湾が平和的に中国に統合されることも認めると言ってきた。
ただし、中国が武力を行使して台湾を統一する場合についてまで、これを認めるとは言ったことはない。しかし、これに介入することを正当化する根拠はどうやっても見つからないということになるのではないだろうか。
高市発言は、これまでの日本側の立場から大きく逸脱していることは否定できない。
特に、台湾有事を具体的に想定し、戦艦などが出てきた場合は、「どう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と明言したことは大変な失言だ。
■日中共同声明の趣旨を根本から覆す?
存立危機事態とは、日本と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命に明白な危険がある状況を指す。
日本が中国と戦争する事態について具体例を挙げて公に示し、しかもそれが「中国の領土である」台湾に関する事態であること、さらに、日本が攻撃されなくても中国を攻撃できるというのだから、日中共同声明の趣旨を根本から覆すものだと中国が受け取っても仕方ない。
さらに、発言の仕方も尋常ではない。「どう考えても」存立危機事態になり得るケースだと断言したのだ。戦争に前のめりだという印象を与える。
このような発言をされた中国が、非常に強い抗議の「姿勢」を示したのは当然だ。……
■中国悪玉論で盛り上がるのは日本とアメリカだけ
高市発言を聞いて、私がまず恐れたのは、このまま高市首相が台湾有事=日本有事と言い続けた場合、中国は日本に対するレアアースの供給を止めるということだった。そうなれば、日本経済全体が大混乱に陥る。中国から見れば、日本による事実上の宣戦布告の予告みたいなものだから十分に大義はある。
もう一つ、より本質的な問題がある。
それは、本当に台湾有事が起きるのかということだ。実は、台湾有事を起こすのも止めるのも日本の決断次第だという話は、7月15日配信の本コラム「なぜか『台湾有事』をどの政党も口にしない異常事態…参院選は隠れた『戦争絶対反対派』の政治家を発掘して当選させよ」に書いた……とおり、台湾有事は、日本が起こさないと決めれば起きない。
一方で、台湾有事が起きると叫ぶ人たちは、本当に中国との戦争になったらどうするのかということを誰も本気で考えていない。本当に中国と戦うなら、武器弾薬よりも兵士の確保が最優先だろう。だが、徴兵制の議論はされていない。無謀な戦争でも一度始めたらやめられないことは歴史が証明している。
日本の世論は、今や中国悪玉論で盛り上がっているが、そんな国は日本とアメリカだけだ。台湾でさえ、そんな考えで固まっているわけではない。しかも、現在のトランプ政権は、台湾有事から一歩引いて構えている。こんなに愚かな国会議員を選んだ国民も問題だが、その国民が洗脳された最大の原因はマスコミにあるということも指摘しなければならない。
テレビでは、中国を止めるには抑止力が大事で、そのために台湾有事に日本が参戦するということを中国に知らせなければならないなどという驚くべき短絡的な議論が平然と行われている。中国と戦うことを前提にした議論だ。
おそらく、台湾有事参戦論が盛り上がる日本に乗せられて、意を強くした台湾の頼清徳政権が、さらに台湾有事の危機を煽り、米国の国会議員の支援を求める動きが強まるだろう。
米国政府は、台湾への先端武器の売却を遅らせることなどで、頼政権に自重を促すメッセージを発しているようだが、高市首相の台湾支援の姿勢は、これを打ち消す効果を持っている。
日本と台湾が共振して、台湾有事を日台が引き起こすという最悪のシナリオが見えてきた。まだ可能性は低い今のうちに、この芽を摘んでおくことが死活的に重要だ。
結論。高市首相が、「自身の国会での発言を取り消し、日中間の互恵関係を重視します」と(即刻)表明するのが最も望ましいと思いますね。
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