朝、東浩紀氏の「AERA」巻頭の「eyes」というのを読んだのですが、共感しないというか、字数が少ないからしょうがないのかもしれませんが、あまりいただけない内容だなと思いました。小生もトランプに媚びる高市を揶揄した口ですが、東氏のお気には召さない内容かもしれません。氏は「こんな理不尽な批判を続けていたらリベラル派は本当に滅びると思う」と結んでいますが、ことさらリベラル派の将来を心配して書いた風ではなさそうですし、「(東氏自身は)高市氏のイデオロギーを支持しない」と言ってはいるものの、「僕は(主観的には)保守や右派の「立ち位置」からリベラル批判をする者ではないので、リベラル側のみなさん、どうか「誤解」なきよう(うるさく絡んでこないように、よろしく)」と一種の「予防線張り(言い訳)」をしている風でもあります。しいて好意的に解釈すれば、高市の外交を「媚びだ、媚びだ」と口汚く「罵倒」するのは、世間受けがよろしくない(からリベラルのみなさん、少しやり方をお考えください)と言いたいのでしょうか。でも、これは結果的にはネトウヨ界隈を喜ばせるだけのように思えます。
「高市早苗新総理の社交への理不尽な罵倒は理解できない」東浩紀 | AERA DIGITAL(アエラデジタル)
さすがに(池内氏の)「現地妻」発言は例えが穏当ではなかったと思いますが、しかし、高市のつくり笑いやトランプへの媚びの姿勢が「異常」に映るのは、習近平(シー・チンピン)や李在明(イ・ジェミョン)との対応の違いを見れば明らかです。しかも、この「媚び」には背景があるというか、単に高市本人の資質や人格を越えて、日米の構造に通じているから余計に問題なのです。もちろん東氏は周知のことでしょうけれど。
高市はトランプとの会談前に防衛費増強を言い出しました。これもトランプ(ひいては米国)の「ご機嫌とり」の一環でしょう。その増額する防衛費で何をするのか。対米国については、またしても中古の武器や軍事装備品の購入、米軍への(直接・間接の)サービス提供などに充てられそうですが、これは前例から類推しているだけで、さしたる根拠があるわけではありません。むしろ、注意すべきは、防衛費の増額と経済成長を結びつけたがる発想かもしれません。高市首相は10日の衆院の予算委員会で、「防衛装備品から新しい技術が派生」しており、「納税者にもメリット」があるとの見通しを示しました。「飛躍」があるので、間を埋めなければなりませんが、防衛費の増額はイノベーション(技術革新)を派生させ、経済成長に結びつく、それゆえ(軍事の)研究開発を進めるべきという意味でしょうか。
防衛費増額は納税者にメリット、装備品からの派生技術など=高市首相 | ロイター
と思いながら、雑誌『地平』・12月号を見ていて、「おっ!?」と思う記事がありました。毎日新聞の記者で科学分野が専門の千葉紀和さんの「虚飾の軍事イノベーション」という記事です。この中で、防衛装備庁の研究機関で進められている取り組みが紹介されています。その一つに、原子力潜水艦(原潜)の原子炉から出るニュートリノを検知して、原潜の位置を探知・特定する研究があるのだそうです。
ニュートリノは物質を(原子さえ)通り抜ける素粒子で、小生を含め一般には、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんが、岐阜県の山奥の鉱山跡、地下1,000メートルにつくられた「カミオカンデ」という大装置で検出したことで知られるようになったと記憶しています。検出といっても、とにかく「超」がつく微細な世界の話で、肌感覚では理解不能です。ニュートリノを1mmくらいのサイズとすると、人間の大きさは銀河系くらいになるそうですから(驚)。
それはさておき、原潜は海中を移動し、(ニュートリノの)信号の位置は変わります。信号自体を検出できるのか。仮にできたとしても、原潜の位置まで特定できるのか。装置が一基では無理だから、三点測位で最低三基は必要となるのか。千葉さんは専門家の話として、次のように伝えています。
……測定器1基だけではニュートリノがどの方向から来たかは分かりません。また、周辺には原発などが多数あるでしょう。ノイズが高い中で、原潜からのちょっとしたニュートリノを見つけるのは極めて難しい。……原潜が通りそうなところに巨大な測定器を何十基も何百基も置いて、すぐ近くを通ればわかるかもしれませんが、離れたところで原潜のニュートリノが検知できるとは思えません。……費用は相当な金額になります。……ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏がニュートリノ振動発見の研究に取り組んだ「スーパーカミオカンデ」の建設費は数10~100億円、現在建設中の後継機「ハイパーカミオカンデ」は800億円とされる。それに類するものを海岸沿いや海中に何十基も造る余裕が、この国にあるだろうか。
実現可能性の疑わしさに加え、計画の有効性そのものを疑問視する人もいる。……「仮に原潜からのニュートリノを検出できたとて、何の意味があるのですか」と……。
たとえば、ニュートリノから国籍を区別できるのか。つまり、信号機の原潜が米国艦か中国艦かロシア艦か、わかるのだろうか。万が一、位置を特定して中国艦であると識別できたとして、有事には対潜誘導魚雷で攻撃を仕掛けるのか。先方は複数の原潜を潜行させている。すべての位置を特定して同時に撃沈しなければ、核を含めた反撃は避けられまい。
「ブラック・ジョークかな?」……氏は半ば呆れるように構想を切り捨てた。
注目すべきは、こうした研究に巨額の公金が投じられている事実である。防衛省の新年度概算要求では、(この)研究に293億円が計上されている。これは「軍事研究への誘導だ」と学術界が懸念してきた安全保障技術研究推進制度(137億円)と、先端技術の橋渡し研究(150億円)を上回る額だ。……
(『地平』・2025年12月号、32-33頁)
論考には、他にも、成果が上がるかどうかわからない研究費名目の「軍事投資」の例が挙げられていました。外に無駄なお金を使っているだけでなく、内でも税金を浪費させていることになりますが、防衛費の増額によって、おそらくはこの種の研究に対する「投資」が増えることはあっても、減ることはないでしょう。
冒頭の東氏は、「新内閣の支持率が記録的に高い、その現実にも目を向けるべきだ」と言っています。しかし、高市内閣を支持する人たちが、高市首相が推進する防衛予算増額の意図や「現実」を理解した上で、支持しているとも思えません。上に引いた軍事研究の(浪費の)話など、ほとんどの人は知らないでしょう。それは、主要メディアが報道しないからだとも言えますし、視聴者の多くが知りたくない(「関心」がない)からだともいえるでしょう。でも、ジャーナリストは視聴者に「関心」があることだけ報道していればいいわけではありません。
東氏は、別の記事で、「マスコミと政治評論の極度な質的低下」を嘆いていますが、
「『高市総理』から逃避するマスコミの極度な質的低下」東浩紀 | AERA DIGITAL(アエラデジタル)
マスコミというか、ジャーナリズムが「極度に質的低下」をしているとすれば、それは「現実」を見ていないというよりも、「現実」を(わかるように)報道していないことではないでしょうか。
