ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

岸田首相は「焦っている」か?

 元日の能登地震から10日が過ぎました。体調が優れなかったこともありますが、気の重くなることばかりです。判明している石川県の死者数は206人。今もなお安否不明者が存在し、道路が寸断された集落は今も変わらず、3000人が孤立状態にあると言われています。 岸田首相は早ければ13日にも被災地を訪問する見込みという話ですが、はっきり言って “遅い” という印象が否めません。

 Web上にあった「週刊ダイヤモンド」のOn-Line記事によると、防衛省関係者の話が引用され、内閣支持率低迷にあえぐ岸田首相は挽回のチャンスを得たいと焦っているようだ、というのです。以下、引用です。

……能登半島北部では村落や集落の孤立化が激しい。土砂崩れや陥没で道路の寸断が相次いでいるためだ。生活に不可欠な飲料水や物資が尽きかけた場所も多い。津波被害に大雪まで加わり、被災者の疲労は日に日に限界へと近づいている。

岸田首相率いる官邸の調整機能欠如とむちゃ振りで大混乱

 そこへ、岸田文雄首相率いる官邸の「プッシュ型支援」がやって来る。
「プッシュ型支援」とは、災害などの緊急時に、支援が必要とされる地域や人々に対して、その人々の要求を待たずに積極的に支援物資やサービスを提供するアプローチのことを指す。この方法は、支援の迅速化や効率化を目的としている。ただし場合によっては、実際のニーズと合わない支援が行われるリスクもあり、プッシュ型支援を行う際は、事前の情報収集や地域の状況把握が非常に重要となる。

「支持率が低迷する岸田首相は、何とか挽回のチャンスを得たいと焦っているようです。内閣府自衛隊や警察の対応が思い通りにいかないと感じた官邸は、自治体のトップと岸田首相との『ホットライン』で得た情報を、『そのまま』『最優先で』『実行』するよう指示が飛んでいます」(防衛省関係者)

 震災直後の自治体トップは冷静さを欠いていることがあり、これまでの震災の経験を踏まえた判断が官邸には求められるのだが、それを岸田首相はあえてしなかった。
「プッシュ型支援においても、内閣府が主体となって行う政府支援、経済産業省独自の支援、防衛省独自の支援が総合調整されないままに始まり、ニーズ取りも個別、物資の選定や輸送も個別で大混乱してしまった」(同)
「多少の混乱があるのは仕方ない面がありますが、被災地から『輸送された当日までしか消費期限がない大量のおにぎりが運ばれてきた』と抗議がありました。また、誰がまとめたか分からない出どころ不明の孤立者リストが出回り、これを『しらみつぶしにチェックしろ』という指示が飛んだのです。とにかく問題の根本は、岸田首相と自治体のトップとの直電話、ホットラインです。ホットラインを受けた岸田首相は『とにかく全力で何とかしろ』という指示を飛ばすのみ。冷静な判断力を失ってしまった」(同)

 自衛隊が現場で得た実際の状況に関する情報や、緊急を要している行動の観点からはかけ離れた指示が最高司令官である岸田首相本人から飛んでくるのである。「現地の声を聞く、寄り添う総理」をアピールしたいのは分かるが、現地へマイクロマネジメントを仕掛けては混乱するだけであろう。
「混乱を極めたのは、官邸からの『被災地のニーズを確認するための御用聞き部隊を編成しろ』というむちゃ振りでした。そんなことに余力を割けるようなタイミングではなく、物資を支給する部隊が、配る際に住民からニーズをくみ取ればよかった。バックヤードで、混乱しがちな現場を落ち着かせる役目が本来、官邸には求められたはずです。しかし、官邸は混乱ばかりを招いてしまった」(同)

 <中略>

……1月6日に開催された「第13回災害対策本部員会議」(動画では30分過ぎに当該コメント)では石川県能登町の町長が次のように発言している。

「数々のご支援ありがとうございます。次から次と支援の方が能登町に訪れまして、たくさんのご意見をいただきながら勉強をさせて頂きながら対策を進めているところです。被害状況につきましては今日ようやく調査の指示を出したところです」
「これまでの支援を頂いて、ものすごく助かっていますが、昨日(1月5日午後)10時過ぎにおにぎり等の支援が到着しました。そのおにぎりの消費期限を見ますと1月5日であった。5日の晩に届いたおにぎりの消費期限が5日でありました。これを次の日になって被災者へお届けするのはいかがなものかと思いまして非常に悩みました。ぜひ、消費期限の少し長いものとか、できるだけ早い段階での物資の輸送をお願いしたい。文句を言っているわけではなくて、こういう事実があったということをご認識いただければと思っています」

 司令塔の混乱ぶりをうかがわせるエピソードであろう。
「現場での被災者のための行動」と「総理、官邸による実績アピールのための行動」が乖離(かいり)し、総理のトップダウンによる災害対応は、被災者のためではなく、自身と政権のためでしかなくなっている。情けない限りだ。

焦る岸田首相、夜10時に「当日消費期限切れおにぎり」到着…能登地震お粗末対応の舞台裏 | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン

 保身のための災害対策で現場を混乱させているように見えるという点は小生も同意しますが、焦ってやみくもに指示を出しているのかというと、そこにはやや疑念もあります。支持率を上げたい気持ちはもちろんあるでしょうが、岸田さん(とその周辺)は本当に「焦っている」のでしょうか。

 たとえば、これも多くの方が指摘していることですが、地震発生以後の動静です。

 さすがに元日は、地震発生から1時間後、夕方に官邸に入り、対策を協議して、公邸に戻ったのが23:40でした。
 翌2日は、朝9:00前に官邸に入り、一日対策協議で、公邸に戻ったのが、夜21:00前。
 3日は、朝9:44に官邸着。昼の休みから16:00くらいまで謎の空白時間がありますが、夕方対策協議に出て、19:26公邸着。
 4日は、朝9:50官邸着。この日も昼休みから16:00過ぎまで空白で、16:30~17:13年頭記者会見。会議があるからと、質問にすべて答えず、その会議が17:30~45の15分間で終わり、そのあと19:30にフジテレビに入って、20:00からBSフジの番組に出演。総裁選の見通しなどを語ったとかいう例の番組ですが、終わって、公邸に戻ったのは21:19。
 5日は、朝9:29官邸着。午前は会議や協議などに費やしたものの、午後はホテルを3つ回って新年の挨拶。夕方18:00過ぎから20分間の震災対応の会議。ぶら下がり会見のあと、21:16に公邸帰着。
 連休初日の6日は、朝9:35官邸着。協議やインタビューを受けたあと、昼に一端公邸に戻って(休み?)、15:43からNHKの番組収録。官邸に戻り、17:00から協議。17:48に公邸帰着。
 7日は、午前中は公邸で過ごし、午後対策協議を14:30過ぎまで。報道各社のインタビューを受けて、15:33公邸帰着。
 8日は、前日同様午前は公邸。午後も前日同様、協議を14:30過ぎまで。15:27公邸帰着。
 9日は、朝公邸で木原・自民党幹事長代理と話してから、9:02官邸へ。終日、会議等々で、18:28公邸帰着。

 くどくどと元日から書いたのは、連休中の7・8日だけ取り上げて、午前中何もしていない、「お休みモード」でけしからんと単純に批判したくなかったのと、首相といえども生身の人間であるというか、別に岸田さんをフォローしたいのではなく、なるべく事実に忠実でありたかったためです(といっても、岸田さん自身の内面まで窺い知る手立てはありませんが)。

 しかし、岸田さん(とその周り)がこの10日ほど、能登の震災とどう向きあってきたか(向きあおうとしてきたか)。あの故安倍晋三元首相でさえ(失敬ですが)、熊本で地震のあった2016年4月、このときは14日と16日と2度の激震がありましたが、調べてみると、4月23日には現地に行っているのです。ひるがえって、岸田首相の「早ければ13日」って、これ本当に「焦っている」人のやることなんでしょうか。たとえかたちだけになったとしても、まずは現地に行って、皆さんに、大変でしょうけど支援するから安心してくださいって言わなければ。リーダーなんですから……。テレビに出て総裁選への思いをしゃべるなんて、この際、全然いらない話ですし、支持率目当てで動くのも醜悪ですけど、もっとメディアに出て訴えかけないと。

 関係ありませんが、今朝新聞を見ていて、自民党副総裁の麻生太郎氏が9日ワシントンで米国要人と会談し、岸田首相の訪米に向けて調整する方針を確認したという小さな記事を見つけて驚きました。記事を二度見してしまいましたが、確かに「ワシントンで……会談し……」と書いてあるので、事実なんでしょう。麻生氏は現在政府の要職にはなかったと思いますが、これは政府の「特使」のあつかいなんでしょうか。それにしても、こんなときに……という思いはあります。
岸田首相:首相国賓訪米へ調整加速 | 毎日新聞

 さらにもうひとつ。その麻生氏が最高顧問を務めるという自民党の「政治刷新本部」が今日初会合を開くそうですが、最高顧問はワシントンから「リモート参加」でもするんでしょうか。「危機感」や「やる気」はその程度なのかも知れませんが、そもそもこの組織、「政治刷新」という名称からして不適当だと思います。「政治」ではなく、「自民党」「刷新」の間違いでしょう。自分たちと政治をイコールで結ぶなど、錯誤も甚だしい。その不遜な認識・態度からまず「刷新」すべきです。



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