ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

無人店舗にないもの

 新聞を見ていてある投稿に目が留まりました。セルフレジに不案内で気疲れしてしまうという話で、最後に「人のいるレジを減らさないでほしい」と書いてあります。
女の気持ち:疲れる買い物 さいたま市桜区・児玉仁美(主婦・56歳) | 毎日新聞

 「人のいるレジ」を減らすという言葉には、別件で思い当たることがあります。小生は、(ガソリンスタンド以外)買物でセルフは使いません。スーパーの買物もだいたい午前に済ませるように心がけていますが、時折夕方に何か必要になってスーパーに行くと、夜7:00以降は有人レジは閉鎖し、すべてセルフレジとなりますという店内のアナウンスが耳に入ってあせったこともあります。客の中にはセルフレジの方が空いていて並ばなくてよいから、早く会計が済んでいいと思っている人も多いことでしょう。しかし、好むと好まざるとにかかわらず、セルフレジが増えることには人件費の削減が意図されているのは明らかです。

 先日都内在住の知人と話をしていたら、家の近くに餃子を売る無人店舗がオープンしたと言っていました。田んぼばかりの公道にポツンとあるような野菜を売る田舎の無人店舗とちがって、その店は夜遅くまで人通りのある道路に面しているということでした。しかし、そこはやはり無人店舗というべきか、代金を払わないで品物だけ持っていくような輩がゼロではないようです。こうした盗難の場面は店の監視カメラにばっちり撮影されているので、夕方のテレビを見ていると、その映像がたびたび放映されます。毎週とは言いませんが、一ヶ月に二、三度は目にしている感じがします。「埋め草」的な報道なので、車の逆行とか、密漁とか、鉄道マニアの写真撮影とかと同列の扱いで、流行廃りはあるかもしれませんが、これだけ長期にわたってキャンペーンをはったように報道されると、ある種の意図も感じます。

 無人店舗を出店する側からすれば、店員の雇用や賃金を気にしなくても経営ができるというのは大きなメリットでしょう。たとえ、防犯システムに金がかかって初期投資が嵩むとしても、店員を雇用した場合の人件費総体と比べれば、はるかに安上がりなのかも知れません(相場はわかりませんが)。しかし、いくらカメラで見張ったり、品物に細工をして、代金を払わないで持ち出すと警報音が鳴ったり、追跡調査ができたりと様々な工夫を施したとしても、店員がいないことによってよからぬことを考える輩が出現するリスクは避けられません。熟した柿を持って、何頭もいる腹ぺこのクマの間を歩いたら、どういうことになるか。クマとちがって人間には正義や道徳心が働いてしかるべきだという意見はもっとですが、盗んだ輩を一方的に断罪するのは、高慢というか、ややきれい事にすぎる感じがします。

 スーパーのセルフレジでも、バーコードのスキャンをせずに素通りさせて、黙って品物を持ち出す例が後を絶たないという話もあります。多くの人はやらないとしても、現実的にはこういうケースで、人が見ていないと「魔が差す」人はいるでしょうし、それを何が何でもゼロにしたかったら、店員がいないこと自体が「誘因」になるわけですから、無人店舗は諦めるしかありません。しかし、「資本の論理」というか(古びた言い方ですが)、コストを削減するのが「使命(至上命題)」だとすれば、極力人件費は削り、給料を払わないようにするというのが「鉄則」ですから、この動きはなかなか止まりません。テレビでさかんにこの種の盗難・万引きが報道されるのは、小生には、地ならしのためのメディアを使った「調教」が行われているように見えなくもありません。「資本」にとっては、買物をする個々の客の事情や腹の減り具合は関係ありません。財布からお金を出すか、カードを使うかして、決められたとおりに対価を払ってもらうことだけが問題です。「余計なこと」は考えずに、自動販売機で飲料ボトルを買うように買物をしてくれればそれでいいのです。

 しかし、店員の給料(人件費)には、店員による金の受け渡し作業以上の経費(意味)が含まれています。それは教員が単に生徒を相手に教室で授業をする対価として給料をもらっているわけではないのと似ている気がします。
 よくテレビで紹介される東京都のスーパー・アキダイの店長さんは、お客さんともよく話をしているようで、季節ごとの売れ筋やら客の動向やらをよくインタビューされています。こういうお店では、客も店員も情報交換をしながら、何を買うか、どの品物を並べるか、お互いに考えられるわけです。そういう意味では、ここは無白透明の売買の場ではないし、店員も客も単なる「マシーン」ではないようです。時代の趨勢は、ますます無白透明の売買へと進む方向とそれに反する方向(反動)との二手に分かれている感じがします。小生は年寄りだから、後者に肩入れしてしまいますが、店員と話をするのも面倒だし、品物だけ手に入れば別にいいと思う人でも、「売買以上のもの」を決して拒んでいるわけではない気がします。



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