ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

吉野家の常務取締役解任のこと

 牛丼の吉野家が4月18日付けで、「不適切発言」をした常務取締役企画本部長を解任したと発表しました。「発言」が世に知れたのは日曜だったので、わずか2日での即行処分です。声明?で「本日以降、当社と同氏との契約関係は一切ございません」と念を押していますから、これはまずいと、相当焦っていたと感じます。 

 最初、小生は、牛丼を「シャブ(覚醒剤)」に喩えるなんて、この解任された方は、何か我慢していやいや吉野家の常務取締役をやっていたのかと思いましたが、そうではないようです(でも、吉野家で働いている人たちからしたら、社のトップクラスの人が自ら自社の牛丼を貶めているのですから、この人は他社の回し者ではと思いたくなるでしょう)。それはともかく、この方が発言したとされる「シャブ漬け」とか「生娘(きむすめ)」とかいう単語にまず驚かされます。自身を振り返ってみても、こんな日本語を口にしたことはおそらくありません。いくらウケ狙いだといっても(と思いますが)、どうしてこの種の単語が口をついて出てくるのか、そういう言語空間、そういうことばを口にする人たちの間で生きてきた方なんだと思わざるを得ません。
 しかし、この方が早稲田のセミナーで受講者を前にこの驚愕の単語を発したときには会場から笑いが出たといいます。高額の受講料を払って土曜に勉強するために大学に集まった人の中には、この発言やこの笑いに対して「何だ、これは!」と思った人はいたでしょう。おそらく一人や二人ではないと思います。この件をSNSに投稿した受講生の話を引用させてください。「ビジネス・インサイダー」の4月19日付竹下郁子氏の記事より孫引きです。

「酷い性差別であるのはもちろん、覚醒剤で苦しんでいる人もいるのに、冗談にして笑って話して良いことだとは思えません。男性客に対しても『家に居場所のない人が何度も来店する』という趣旨の発言がありました。
企業の社会的価値が求められる時代に顧客を中傷する発言をすることに強い怒りを覚えましたし、その発言が教育機関でなされたことにも驚きました。
また、本心は分かりませんが教室にいた受講生の中には笑っている人もいて、温度差を感じました」
「社会にも企業にも学校にも、当たり前に年齢も性別もバックグラウンドも多様な人がいます。けれどこうした偏った発言の1つ1つが、日本社会から多様性を排除していると思います。

こんな言葉は下の世代には絶対に聞かせたくない、その思いを誰かに理解して欲しくて抗議しました。高い意欲を持って学びの場を活用されようと考えていた、他の受講生の方には申し訳ない気持ちもあります。
私自身は、講座はスタートしたばかりですが続けることを迷っています。マーケティングや授業よりも、人権意識を持つことの方が大切だと感じるので」

(典拠:吉野家「生娘をシャブ漬け戦略」抗議した受講生が詳細語る。「教室で笑い起きた」 | Business Insider Japan


 実際、小生の周囲を見回しても、「シャブ」や「生娘」はともかく、女性を蔑視し、人をモノかなんかと勘違いした発言をする不愉快な人はいます。しかし、彼らは公職に就いているわけではないし、企業経営者やその重鎮でもありません。こうした発言をくり返しても、周りの誰かが指摘したり、あるとき自分で気づいたりしなければ、日常生活に支障がないかぎりそのまま行ってしまう(事実そのまま来ています)。しかし、公職にある人や企業経営者はそうはいきません。20世紀だったらごまかせたかも知れない「不祥事」や「問題発言」でも、こうしてすぐに情報発信されて不特定に拡散され、その被害や影響は燎原の火のように広がっていきます。2、30年前よりもその社会的な影響力が格段に上がっているわけで、その「地位」や役職にふさわしい責任ある言行が求められるのは、むかしの比ではないでしょう。

 そう考えると、20世紀(あるいは「昭和」)の感覚のまま政界に巣くう「暴言王」も、地方の田舎や街角で不愉快な暴言を吐く人と同等というわけにはいきません。今回の批判→解任の迅速さには、会社がメディアの格好のターゲットになる前に幕引きをするといった面もあるかと思いますが、メディアも「暴言王」を批判しない憂さをちがうところで晴らして、溜飲を下げている場合ではないと思います。「暴言王」もこの常務取締役と同じで、これはやばい、客(選挙民)が来なくなると思えば、大臣や要職から外されるでしょう。それでも何でも退かないのは、メディアの批判が弱いし、選挙で票を入れる人のほうが多いからです。吉野家だって、こんな発言や認識が披露されても、客が変わらずに牛丼を食べてくれるなら、こんな迅速な対処はしないでしょう。この非対称な扱いをこのままにしてはいけないと思います。
 SNSに投稿した受講生が「こんな言葉は下の世代には絶対に聞かせたくない」と書いています。同感です。そして、これはこの吉野家の件だけで終わりにはできません。



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