ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ワシントン条約会議の小さな記事

 昨日毎日新聞を眺めていて小さな記事に目がいきました。見出しが「象牙の国内取引禁止決議案否決 ワシントン条約会議」となっていたので、なんで「否決」なんだろうと訝しく思いました。
 ご存じのとおり、ワシントン条約は、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する条約で、1975年に発効し、生きた動植物種だけでなく、象牙や犀の角などの取引も禁じています。いや、その程度の雑駁な理解しかしていなかったので、短いこの記事を読んでも、何のことだかすぐにはわからなかったのです。

 以下は11月20日毎日新聞に掲載されていたその記事です。半分はヨシキリザメの規制のことが書いてありましたが、主に象牙の部分だけを引用します。
象牙の国内取引禁止決議案否決 ワシントン条約会議 | 毎日新聞

 パナマで開催中のワシントン条約締約国会議は17日(日本時間18日)、日本を念頭に提出されていた象牙の国内取引禁止を求める決議案を審議し、否決した。日本が直ちに対応を迫られる事態にはならなかった。ただし国内取引を認める国に絡む象牙密輸のデータを専門家グループがまとめ、2024年に報告すると決定。引き続き日本に厳しい目が向けられる見通し。

 会議では、すり身などに使われるヨシキリザメなどを新たに規制対象に加えることも決まった。
 象牙を巡る審議で、決議案を提出したベナンは「国内市場は違法取引を誘発し、市場を閉じた国の取り組みを弱める」と賛同を呼びかけた。日本は「違法取引に関与していない」と反発。投票の結果、賛成は3分の2に届かず否決された。
 象牙の国内市場はほとんどの国が閉鎖を決断する中、日本は維持する姿勢を貫く。一方、日本を起点とした象牙の密輸事件が中国などで相次ぎ摘発されている。会議に参加した環境団体トラ・ゾウ保護基金の坂元雅行事務局長は「日本は自国の象牙産業を守るためにゾウを脅威にさらしている」と話した。……

 政府のHPをのぞいてみると、たとえば経済産業省のHPには、「象牙等はルールを守って取引しましょう!」との見出しを掲げ、日本は違法な象牙の国内取引を防止するために管理制度を創設し、厳格な管理が行われていると強調されています。
象牙等はルールを守って取引しましょう!(METI/経済産業省)

 問題はその「ルール」です。見ていくと、生牙(原木?)・磨牙・彫牙など、全形を保持した象牙は売買禁止となっていますが、象牙製品等(カットピース、端材、印材、半加工品、製品等)を出品するのは、特に手続き無く可能となっているのです。政治資金ではありませんが、全形(高額)はダメだけれども小分け(少額)にすればOKというのでは、ザル法と言われてもしかたありません。実際、2018年12月1日付のNATIONAL GEOGRAPHICの記事には、こんなことが書いてあります。一部補足して引用させてください。
象牙の違法取引を日本が助長か

……1990年の国際取引禁止の後、西洋で象牙が死と強欲さのシンボルとして非難の対象になったのと違い、日本での象牙のイメージは傷つきはしても壊れることはなかった。……中国では、象牙は富と名声を象徴する。……日本では「ステータスの誇示ではなく、日常的に使うことが目的」だ……。

日本人の象牙への関心は今も続いているが、現在、取引の多くがインターネットでなされていることから、実態は今まで以上に見えにくくなっている。JTEF(NPO法人トラ・ゾウ保護基金)の分析によると、Yahoo! JAPANのオークションで象牙製品が落札された件数は、2005 年の4000件未満から2015年の2万8000件超へと、着実に伸びている。2017年は1万6000件に減少したが、依然として多い(この減少は、メディアが象牙問題に厳しい目を向けたことと、Yahoo! JAPANが監視を増やした結果とみられる。Yahoo! JAPANは、米ヤフー社の統制は受けていない)。2015年、Yahoo! JAPANに加え、人気のEコマースサイトである楽天をJTEFとEIAが1日に限って調査したところ、象牙の広告が合計約1万2200件も見つかった。

日本では今も象牙の茶道具、楽器の部品、仏教で祈りに使う数珠、宝飾品などが生産されているが、根強い関心を支えているのは、はんこの広告キャンペーンだ。象牙印鑑を約70万本保有しているはんこ産業は、現在の象牙消費量の推定80%を占める。1980年代以降、日常生活で印鑑を使うことは減っているが、家を買う、結婚する、遺産を相続するといった人生の大きな出来事には今も印鑑が必要だ。象牙は多くの人にとって、業界が盛んに宣伝している通り、印材の「最高の権威」そして「王様」であり続けている。

「巨大な抜け穴」
日本の当局は、日本で販売されている象牙製品は骨董品か、1990年の国際取引禁止以前、もしくはその後に2度輸入された象牙から合法的に作られたものであり、日本の市場が唐突に非難にさらされるのは不公平であると考えている。そして、日本の象牙規制は他国の規制より優れてはいないにしても、同等であると考えているのだ。
「日本の貿易政策は他の国々と同じです」と、経済産業省野生動植物貿易審査室長の中野潤也氏は話す。「我々は象牙の国際取引を禁止し、国内取引もごく少数の例外的なケースしか認めていません。(国際取引禁止が決まった)CITES(ワシントン条約)会議より前と、その後2回だけの輸入されたときの象牙です」
外務省地球環境課の滑川博愛氏によれば、日本の問題は象牙の規制ではなくコミュニケーションだという。「日本が他国ほど広報活動に長けていないのは問題かもしれません」と滑川氏は話した。「しかし規制の点では、日本はとても厳格なのです。米国や英国とほとんど同じです」

だが他の国々は、ほぼすべての象牙取引を禁止しているか、禁止を決める途上にある。研究者で著述家のフェルバブ=ブラウン氏は、「日本の象牙販売の規模は、米国や英国と比べると桁が違います」と指摘する。加えてEIAのアラン・ソーントン氏は、日本の当局者が象牙取引規制を米英と同等としていることを「不合理で根拠のない主張」と話す。
一例を挙げると、日本国内で象牙を取引するには登録が必要だが、実際に登録しなければならないのは全形の象牙だけだ。象牙のはんこ、彫刻、小物は規制されていない。切り分けた象牙(カットピース)も同様だ。過去に日本へ向かう途中で押収された違法象牙の貨物に、2つから3つに分割された象牙が多かったのはこのためだと、ソーントン氏は言う。そのようなカットピースがいったん日本に入れば、販売を防ぐ規制は一切ない。
日本の国際郵便制度も密輸業者に有利に働いている。申告価格が2000ドル未満の輸入品は通常の規制から免除されるためだ。こうした貨物から見つかった象牙は押収されず、引き取り手が現れなければ送り主に返される。日本の税関によると、ここ数年で象牙数百点(中国からの彫刻、ナイジェリアとジンバブエからのカットピース、フランスからの牙など)を返送している。
こうした「巨大な抜け穴」のために、と井田徹治氏(共同通信社記者)は言う。「アフリカ諸国からの違法象牙は一切使用していないと、日本は100%自信を持って言うことはできません」
全形の象牙の場合、密輸でなければ日本に入れない。不正な取引業者が国内の法規制から逃れ、象牙を合法にするには、象牙を半分に切りさえすればいい。しかし坂元雅行氏(JTEF事務局長理事)によれば、実際にはその必要性すらない。日本で商業販売のために象牙を合法扱いにすることは、原産地にかかわらず容易だからだ。所有者は領収書や炭素年代分析で牙の年代を証明する必要はなく、実物を検査のために持ち込む必要もない。申請書に記入し、写真を何枚か撮り、友人(または家族でもいい)に「1990年より前に登録者の家でこの象牙を見た」という事実を証明する文書を書いてもらう。このシステムは「公式のロンダリング」と変わらないと坂元氏は言う。……<以下略>

 その他、この記事には衝撃を受けるような事実が幾つも書かれています。

 パナマで開催中のこのワシントン条約締約国会議の話は、個人的にはもっと注目され、できればCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)と同様に大きな記事になってしかるべきと思えます。しかし、COPは一面トップになるのに、CITES(ワシントン条約)は不釣り合いなほど小さいか、あるいは全く皆無です。見た限りでは、上の毎日新聞以外、沖縄タイムス福井新聞北國新聞などの地方紙で記事が配信されていますが、全国紙の記事で該当するものは見つかりませんでした(東京新聞に過去記事はありました)。ここにも報道管制的な力や自主規制などが働いていないか、疑いをもちます。
 こうした話題は、新聞やテレビできちんと報道されれば、日本の人も他国の人と同様の意識をもてると思います。それは、統一教会に関する報道と国民の問題意識の高まりを見れば明々白々で、メディアの責任は重大です。
 象牙取引の件で、日本を見る他国の目には厳しいものがあるようです。このままでは、世界の常識からますますズレていくのではないかと危惧します。




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