東京都の英語スピーキングテストまであと一週間となりましたが、ここに来てもなお「異論」の噴出が止まりません。都教委は「着実に準備」「確実に実施」と説明していますが、業者に委託した試験監督のアルバイト募集からして杜撰な感じです(文言が与える印象だけの問題ではないでしょう)。中学3年生や保護者にとって、入試はどんなに完璧に準備・実施されたとしても不安は消えません。実際上、テストが「アルバイト」に頼らざるを得ないとしても、これではますます不安になります。中で実務を担わされる職員もそれは同じで、良識的な職員であればあるほど、「着実」「確実」などと空威張りな言葉を発する、この間の都教委上層部の姿勢は耐えがたいのではないかと想像します。
朝日新聞の11月19日付の記事より。
27日のスピーキングテスト、運営に指摘続く 都教委「着実に準備」:朝日新聞デジタル
「大量募集なので採用率もup」「履歴書不要」
求人サイトに載ったアルバイト募集の告知。記者が15日、サイトの問い合わせ先に尋ねてみると、同テストの試験監督を募集している告知だと分かった。
都教委によると、試験監督などのスタッフは、都教委からテストの運営を委託された通信教育大手ベネッセコーポレーションが確保する。8万人という受験予定者数は大学入学共通テストの都内志願者数と同規模。1日の都議会では、募集サイトの文言を問題視する声があることを念頭に、都議が「この段階になって募集広告についていろんな指摘がされている。きちんと確認すべきだ」と都教委にただす場面があった。
……円滑な運営を担えるスタッフの確保について取材すると、ベネッセは「答えられない」という回答だった。一方、都教委の担当者は「事業者が適切に確保する」と答えた。「初めてなので万全な態勢で臨む」とし、当日、運営状況を確かめる目的で職員約700人を会場に派遣する。最寄りの駅やバス停から会場への案内役もするという。
10月31日に記者会見した教育社会学などに詳しい大学教授らは「問題漏洩(ろうえい)のリスクがある」と指摘した。テスト会場では受験生が2グループに分かれ、時間差で同じ内容の問題を解く。大学教授らはこの点を問題視した。これについて都教委は、生徒の動線を分ける▽休憩時間を別にする▽携帯電話やスマートフォンを事前に回収する――という対策を説明している。
朝日新聞が情報開示請求で入手したプレテスト(昨年度)の最終報告書によると、前半グループのテストが終わった時点で、試験監督が誤って受験生を解散させた事例があった。本来は、後半が終わるまで前半の受験生も会場内で待機する。都教委は取材に対し、「(本番で誤りが)ないように、と事業者に伝えている」と話した。
報告書によると、機器の不具合を訴え、別室で受験した生徒が187人いた。都教委によると、生徒が問題を読んだり解答の音声を吹き込んだりするタブレット端末やイヤホンなどの機器に不具合があった場合、準備時間中に生徒から申告を受けてスタッフが別の機器と交換するという。都教委は「プレテストで解答を録音できなかったケースは1件もない。準備時間も十分あり、生徒が不具合を訴えた場合は迅速に対応する」としている。
会場は都立高校や民間施設など約200カ所。生徒は通学校から「所要1時間以内」という基準で会場を割り当てられた。
会場に関する情報は、都教委から1日に区市町村教委に通知された。当初は「10月上旬には知らせる」としていたが、調整に時間がかかったという。……
同10月20日付記事より。
都立高入試のスピーキング、研究者「不合理」 都教委は「問題ない」:朝日新聞デジタル
……言語学が専門の大津由紀雄・慶応大名誉教授や、英語教育に詳しい鳥飼玖美子・立教大名誉教授ら5人が都教委に要望書を提出し、(10月)19日に記者会見した。テスト結果の入試への活用見送りを求めた。
テストは、都内の中学3年生が受ける。公立中が中心だが、国立と私立の中学生も希望すれば受けられる。形式は、各自がタブレット端末に解答音声を吹き込む仕組み。運営や採点は都教委から委託を受けたベネッセコーポレーション(岡山市)が担う。来年実施の都立高入試の際に、今回のテスト結果を加点する形で活用するのが特徴だ。
大津氏らは、「不受験者への対応」と「試験当日の運営体制」の2点を問題視した。
都教委は、けが・病気などでテストを受けなかった生徒が都立高を受験する場合、他の生徒のテスト結果から点を算出し、加えることにしている。同じ都立高を受験し、かつ入試の英語の得点が同じだった生徒のテスト結果を平均して算出する――という方法だ。テスト不受験生が都立高入試で不利にならないよう配慮するため、としている。
この方法について、テスト理論に詳しい南風原朝和・東京大名誉教授は、平均点を求める同点者の人数が少ないため、平均が不安定になると指摘。独自のシミュレーションでは、入試の英語の得点が近い者同士を比べるとスピーキングテストの成績と逆転するケースが出たという結果にもふれつつ、「不合理で、不公平が生じる」と強調した。
当日の運営体制については、約1カ月前の時期に試験監督のアルバイト募集が続いていると指摘し、「試験の公正性や機密性が担保できるのか」(羽藤由美・京都工芸繊維大名誉教授)と批判した。
テストの入試活用については、ほかにも指摘がある。受験生約8万人が吹き込んだ音声を、研修を受けたベネッセ関連会社のフィリピンの現地スタッフが評価・採点する。規模が大きいだけに「採点には絶対にぶれが出る」(中学教員)という指摘がある。都立高入試におけるテストの配点は20点満点だが、主要教科の調査書の配点(1教科あたり23点満点)と比べて「大きい」という意見もある。……
たとえこれまで諸々の準備をしてきた「労苦」が無駄になるとしても、公平性に問題があるものを高校入試の合否判定の材料に使うのはやはりまずい。この期に及んでも、都教委はテストを合否判定に利用することを断念し、生徒・保護者ほか関係者に謝罪して、「出直し」を決断すべきではないかと思います。
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