ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

都立高入試の英語民間試験導入のこと

 東京都は来年(2023年)度の都立高校入試に英語のスピーキングテスト(ESAT-J 11月に行われる予定のアチーブメント・テスト)の成績を活用することを決めています。しかし、詳細を知れば知るほど、3年前に文部科学省が導入を断念した大学入学共通テストへの英語民間試験(英検など)の活用という入試改革の姿と重なります。先回も今回も関係する民間企業はベネッセ(進研ゼミで知られる昔の福武書店)です。3年前に挫折した夢よ、もう一度、ということでしょうか。しかし、全体として制度設計にお粗末なところがあり、二の舞になる危険性が大です。性懲りもなく、という印象を強くもちます。

 高校入試は調査書(内申書 中学校時代の成績)の点数と学力試験の点数を合計し、合格者を決めるのが一般的です。最近は学力試験(一般入試)とは別に推薦入試を取り入れるところも増えていますが、公立高校入試の主流はなお調査書と学力試験の成績でしょう。東京都の場合、調査書が3割、5教科の学力試験の得点が7割、合計1,000点満点で成績のよい順に合格者を決めているはずです。しかし、来年度はこれに上のスピーキングテスト(ESAT-J)の成績20点が加わり、総合得点は1,020点満点になるというのです。

 学習塾の栄光ゼミナールは、HPで、新たに導入されようとしているスピーキングテストについて、こう説明しています。

スピーキングテスト
東京都では令和5年度入学者選抜(令和4年度に実施する入試)から、スピーキングテスト「ESAT-J」の結果を活用することが決まっています。英語における4つの技能のうち、「話す力」を測れるようにするものです。スピーキングテストの評価はA~Fまでの6段階で調査書に記載され、志願先に提出されます。従来は学力検査700点+調査書点300点で総合得点は1000点満点でしたが、新しくスピーキングテストの点数が加わり1020点満点になります。すべての得点を合計し、点数が高い順に合格が決まります。
スピーキングの力は一朝一夕に身につくものではありません。普段の授業から音読や発表の機会を通して英語を積極的に話すようにしていきましょう。

東京都立高校受験の仕組み~内申点の計算方法や推薦制度を解説~

 これはもちろん都の教育委員会が定めた入試要領に沿った内容を述べているのですが、英語における4つの技能と言われる、読む・書く・話す・聞くのうち、「話す」力だけを特別に他と切り離して独自試験をするということには、20点という配点比率の妥当性を含め、制度面の議論がもっとあってしかるべきです。

 加えて、このスピーキングテストはベネッセという一私企業が行っている英語技能試験(GTEC 英検のようなもの)と類似しているという指摘があり、これには「またか」と思いました。公平・公正な入試制度を担保するための議論をなおざりにして、導入ありきで突き進む東京都教委の姿には、他県の住民ながら疑念と不安をおぼえます。

 以下、スピーキングテストの導入中止を求める「入試改革を考える会」の5月9日付緊急アピールの文書の引用です。問題点が網羅的に述べられていますが、特にベネッセとのかかわりの部分だけ引用させてください。
都立高入試へのスピーキングテスト導入中止を求める緊急アピール|入試改革を考える会|note

……入試の公平性・公正性を大きく揺るがすのが、中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)と民間試験GTEC(ベネッセ)との類似性です。中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)と民間試験GTEC(ベネッセ)は、問題構成と問題傾向、採点基準ともに、とても良く似ています。都教委側も「似ていたとしても違う」(「都立高入試スピーキングの不可解」朝日新聞EduA、2022年3月17日)と発言していることからも、中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)と民間試験GTEC(ベネッセ)が似ていることを認めています。
 東京都内には民間試験GTEC(ベネッセ)を実施している公立中学校と実施していない中学校があります。2022年5月9日現在、練馬区、目黒区、渋谷区、品川区、町田市、多摩市が実施、中央区、文京区、豊島区、千代田区江戸川区江東区墨田区板橋区武蔵野市小金井市、狛江市、稲城市が不実施との情報が入っています。
 中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)を受ける際に、それと類似した民間試験GTEC(ベネッセ)を事前に受けているか否かは、高い確率で点数に影響します。同じ学力の生徒であっても、同形式の試験を受けていた生徒の方が高い得点を取る可能性は高く、このままでは都立高入試で地域・学校ごとの不公平・不公正は深刻となることが予想されます。すでに保護者から入学試験の不公平・不公正を訴える声が上がっています。

 東京都のESAT-JがベネッセのGTECと似ていると噂されれば(別にこれは事実かどうかは関係ありません。もし、事実だったら問題ですから、根拠のない噂話が勝手に広まっているというかたちの方がベネッセにとっては好都合ではないかと思います)、都立高を受験する中学生や保護者はGTECで勉強した方が有利だと思い、当然対策をたてるでしょう。ベネッセの思惑もこの辺りにありそうです。

 英語のスピーキング(話す)能力を高めることが必要だと言われれば、そうなのかも知れませんが、それでも、「読む・書く・聞く」も大切なことは言うまでもありません(英語も「聞く力」は大切でしょ、総理大臣!)。千葉県の田舎に安住していると、別に英語を流ちょうに話せなくてもいいんじゃないかとさえ思いますが(これは老人の戯言です)。栄光ゼミナールの入試解説にあったとおり「スピーキングの力は一朝一夕に身につくものではありません」。もしベネッセにそのノウハウがあるのだとしたら、都教委と「共同」(結託)して入試にかこつけた自社利益の増進(だけ)をはかるのではなく、日常の学校英語教育をアシストするかたちで地道に貢献してくれた方が喜ばれるのに、と思います。

 なお、3年前の大学入試改革で失敗したベネッセにとって、今回のESAT-Jを「民間委託」と言われることは琴線に触れるらしく、都教委はベネッセとの「共同」(委託ではない!)と称しているようです。3年前の「失敗」で反省すべきはそこだったのかな? と思います。

 これで味をしめたら、次は隣の千葉県でも同じことを始めるのではないか。一県民として反対します。


「受けなくても加点…入試としての公平性に疑問」「学校の英語教育が変わるきっかけになる」東京都が11月に実施予定の「スピーキングテスト」に不安と期待(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

大紛糾の「都立高校入試」乱暴すぎる改革の中身 「有利な人」「不利な人」を生む驚きのカラクリ - 記事詳細|Infoseekニュース

都立高入試で問題含みのスピーキングテスト導入へ|東京都教育委員会が来春の都立高入試に民間の英語スピーキングテストの導入を決定。保護者の会と専門家に問題点を聞く(9/29)#ポリタスTV - YouTube



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