今日は短く。
2年前に公開された映画「新聞記者」を見た。モリカケや山口敬之の逮捕状もみ消しなど、アベ政権時代の「現実」が幾つも重なり、虚実ないまぜになっているが、率直に言ってよくつくったなと思う。主演の松坂桃李さんとシム・ウンギョンさんの二人も、内面から滲み出る心情をよく表現していて、引き込まれるシーンが何度もあった。さらにカメラアングルも絶妙で、しばしばはっとさせられた。
あまり前情報もなく見たので、当初はシムさんが韓国人であることに気づかなかった(途中から「あれ?」と思い、ああ、そうだ、と)。役どころを、ニューヨークで活躍したジャーナリストの娘で母親は韓国人という設定にしたのは、出演が決まってからの苦しい後付けだったのだろうか。それにしても、なぜ、シムさんなのか、と。誰か日本人の女優で引き受ける人はいなかったのだろうか、と素朴な疑問をもつ。あとで調べたら、「アサ芸」にこんな記述があった。
ヒロインの女性記者・吉岡エリカ役に抜擢されたシム・ウンギョンは日本映画デビュー作となるが、この抜擢には理由があるという。
「実は、最初は女優の宮崎あおいや満島ひかりにオファーしていたんです。しかし、この映画に出演すると“反政府”のイメージがついてしまうため断られた。大手事務所に所属の女優さんは誰もやりたがらなかったんです。だからしがらみのない韓国人の女優さんに決まったというのです。役柄も日本人の父と韓国人の母の間に生まれ米国育ちの設定になっています」(映画ライター)
映画はフィクションだが、公文書偽造にかかわった官僚が自死したり、総理のお友達のもとに莫大な学部新設利権が転がり込んだりする場面が収められるなど、現実を彷彿させるような「事件」がいくつも盛り込まれている。
「映画のキャストとしては登場していませんが、原作者の望月記者や元文部科学省事務次官前川喜平氏が、劇中でテレビの討論番組のパネリストとしてスクリーンに映っています。確かにこれでは人気女優のイメージダウンを怖れて事務所サイドが躊躇するのも納得かもしれません」(前出・映画ライター)
そうした状況の中で松坂が本作に主演した意味は大きい、という。
「人気俳優の松坂がこの映画の出演をよく承諾したと映画関係者の間では話題になっています。映画の中でも正義と職務の間で葛藤する官僚の役柄をみごとに演じている。役者としても一皮むけたと思います」(前出・映画ライター)
(出所:松坂桃李主演映画「新聞記者」の女性記者役決定が超難航した“理由” (2019年7月3日) - エキサイトニュース)
いくら客商売とはいえ、「反政府のイメージ」云々というのもどんなものかと思う。でも、これが今の「力関係」であり、この社会の狭量さ、端的に言って、差別性の現れなのか。
関係ないが、今の立憲民主党の代表決めの様子を見ていても、西村智奈美氏が手を挙げたとはいえ、女性候補擁立の気勢はなかなか上がらなかった。一気に局面を転換させる好機なのに、と残念な思いがする。最後は女性の勇気と意志に期待するしかないが、こういうのが性にかかわらず、この国、この社会の生きづらさを再生産していることに気づかなければいけない。
しかし、映画の内容はフィクションとはいえ深刻だ。「国家意思」などという仰々しさは、国家機構を私物化して弄んだ男の無恥と軽薄さで吹き飛んでしまいそうだが、現実には、映画の中のようにみんながこの得体の知れない「意思」に振り回され、組織の中で眉間に皺を寄せながら働き、苦悩している。それが痛いほど伝わる。中でも松坂さんが尊敬していた元上司役が亡くなるシーンには、誰もが森友問題で「犠牲」になった赤木俊夫さんと奥さんの雅子さんのことを連想する。
映画に底抜けに笑うようなシーンはほとんどないのだが、ただ一人、桃李さんの奥方役の本田翼さんだけは、何があってもいつも笑顔でマイペース。常に桃李さんのことを気にかける「良妻」ぶりで、ささいな喧嘩のシーンさえない。このコントラストは制作側の意図なのか。余計に映画の内容の異常性が浮き彫りにされる。
JIGPIX on Twitter: "#望月衣塑子 #新聞記者
「この国の民主主義はカタチだけ良い…」#内調
見応え十分是非是非!! https://t.co/9kYwsWoOzT"
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