ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「フェミニスト嫌い」について

 「ジェンダー平等」は、ジグザグや波はあったとしても、世界的な潮流であることはもはや否定しがたい。デモクラシータイムスを見ていたら、出演者の望月衣塑子さん東京新聞記者)が、自身の著書が原作になっている映画「新聞記者」について、こんな話をしていた。

 創作の現場でのジェンダー平等を目指す「表現の現場調査団」が文化芸術の各賞審査員や大学教員の男女比などを調べた結果を公表したんですね(12月9日)。で、結果、大学の美術系学部で男性教授の割合が8割を超え、映画や演劇の審査員も男性が8割を占めるなど、いまだに表現の現場におけるジェンダーバランスの構造的不均衡があると。このデモクラシータイムスでも、出演者をなるべく男女半々にしようと試みていると聞いてるんですけど、それを審査する場でも男女比が平等になっていないと、改善を求めたということなんです。今、韓国の映画、世界的に大ヒットしています。「イカゲーム」とかもあります。あそこで描かれている女性像は、非常に自立していて、独立心もあり、指導者としてどんどんいろいろなことをしていますが、こういう表現の場でも、日本と韓国を比べるとだいぶ違うなあと思っていて、「新聞記者」という映画、あれヒットしたんですけど、かなりの女性たちから文句を言われたのが、松坂さんが演じる官僚の妻役の本田翼さんが、「たっくんはお仕事だけ頑張ってくれればいいのよ」という台詞があったんですね。やっぱりこれ、ジェンダーの格差を変えていくためには、この一言は止めるべきだったんじゃないかという批判をいただいて、私もざっと脚本を見させていただいたことがあったんですけど、そこまで関心が及ばなかったんですね。そういうところからジェンダー問題をとらえて、変えていこうという意識が大切かなあと思います。
岸田政権、票ほしさのクーポン愚策 「維新」に馴らされるな! WeN20211211 - YouTube
美大教授や審査員、8割は男性 表現の現場、男女不均衡(共同通信) - Yahoo!ニュース

 しかし、若年男性に「フェミニスト嫌い」が増えているという記事もある。小生はジェンダー平等への一つの反動と見るが、窪田順生氏の12月10日付「プレジデント」の記事から。

「フェミニストが嫌いだ」そう断言する若年男性がジワジワと日本でも増えているワケ 「低賃金で結婚できない」という苦悩 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

若くなればなるほど「フェミニズム憎悪」が強まる
 11月16日、電通の社内シンクタンク電通総研」が発表した「男らしさに関する意識調査」によれば、若い男性ほど「女性活躍推進に反対」「フェミニズムが嫌い」という傾向があるというのだ。
 国内18~70歳の男性3000人に「女性活躍を推進するような施策を支持する」という質問をしたところ、「まったくそう思わない」「そう思わない」と回答した51~70歳が21.2%であったのに対して、18~30歳は37.2%、31~50歳もほぼ同じ38.4%。意外や意外、「男は外で仕事、女は家を守る」という時代を生きてきたシニア世代より、若い人たちの方が女性活躍に後ろ向きなのだ。
 また、「フェミニストが嫌いだ」というズバリ直球ストレートの質問に対しても、「とてもそう思う」「そう思う」と回答した51~70歳で31.7%、31~50歳が39.1%、18~30歳は42.8%と、若くなればなるほど「フェミニズム憎悪」が強まるという結果となった。
 では、なぜ若い男性ほど女性活躍やフェミニズムに否定的な人が多いのか。研究者などによれば、男社会の恩恵を受けてきたか、そうでないかの「世代間格差」ではないか、という分析が多い。

「昔のほうが男にとっては楽しそうじゃん」という妬み
 50代以上の人たちが若者だった時、女性を採用してもいずれ寿退社するという理由から、「男」というだけで就職は有利だった。会社に入っても、女性はお茶汲みや酒のお酌をさせられたり、下ネタに付き合わされるという精神的苦痛が多かったが、男は上司に媚を売っているだけでも定年まで会社にしがみつけた。社会も寛容で、オフィスでヌードグラビアを見ることもセーフだった。
 つまり、50代以上は男社会を120%堪能してきた世代なのだ。だから、女性活躍やフェミニズムという時代の変化にも、「昔はよかったなあ」と文句を言いながらも渋々受け入れることができる。しかし、50代以下、特に若い世代にとってこんな時代はドラマや漫画の世界の話だ。「昔のほうが男にとっては楽しそうじゃん」という妬みしかない。当然、この古き良き時代を壊した人々に怒りを向ける。それが、男性中心社会を否定し、#MeToo運動などを呼びかけるフェミニストの皆さんだというのだ。
 非常に納得感のある説だが、個人的にはもっと本質的かつシンプルな原因もあるのではないか感じている。それは「低賃金」だ。

低賃金で虐げられた若い男性の不満の矛先
 ご存じのように、他の先進国がこの30年で着々と賃上げに成功をしてきたにもかかわらず、日本の賃金は横ばいで、ついに平均賃金(年収)で韓国にまで抜かれてしまった。この常軌を逸した低賃金で最も虐げられるのが「若い男性」であることは言うまでもない。
 日本は年功序列で若者の給料はスタート時ギリギリまで安く抑えられる。また、近年増えている非正規雇用も若者が多い。令和元年分民間給与実態統計調査によれば、20代の平均年収は330万円だ。
 若い男性は世代的に、恋愛や結婚に関心が高い人も多い。しかし、経済的な理由から「断念」をせざるを得ない人々もたくさんいる。そこで想像していただきたい、このよう人々の行き場のない怒り、不満がどこへ向かうのか。
 若者ばかりに低賃金を強いる社会へ向けられるかもしれない。たいして仕事もしないのに年功序列で高い給料をもらう祖父・父親世代が悪いという発想になるかもしれない。しかし、その中には「女性活躍推進」や、「男女平等」を声高に叫ぶフェミニストに憎悪を募らせる若い男性も現れるのではないか。

「低賃金で結婚できない男」が急増中の韓国で起きていること
 かつて欧州に吹き荒れたユダヤ人排斥や、現在のアジア系移民への差別などにも通じるが、人間というのは、自分たちが恵まれない境遇に陥った時、社会の中で存在感を増してきた「新参者」に対して、「お前らがやってきたせいで悪いことが起きた」とスケープゴートにすることがわかっているからだ。
 低賃金で結婚できない若い男たちが、「どうしてこんな世の中になってしまったんだ?」と社会を見渡した時、「男女平等」や「女性の人権」をうたうフェミニストが視界に入ったらどんな感情がわき上がるだろうか。「ああゆう連中が増えせいで、男ばかりが損をしている」などと一方的な憎しみを抱く者もいるのではないか。

<以下、韓国・アメリカの例 略>

日本にも「フェミニズム憎悪」が存在している
 このような思考回路を聞いて思い出すのは、2021年8月6日、小田急線内で起きた無差別刺傷事件だ。加害者の男は、10人に重軽傷を負わせたが、その中で20歳の女子大生に狙いを定めて、執拗に追いかけて背中まで刺して殺そうとした。当時の報道によると、男はその理由について、こう述べた。
 「幸せそうな女性を見ると殺してやりたい」
 「女性なら誰でもよかった」
 韓国やアメリカで起きている「フェミサイド」が日本でも広まりつつあるようにしか見えないが、マスコミや専門家は、何か都合が悪いことでもあるのか、「レッテル貼りはよくない」「無差別殺人者の心の闇に注目すべき」とかワケのわからない論法を持ち出して、まるで日本には「フェミニズム憎悪」は存在しないかのように必死に取りつくろっている。
 しかし、ネットやSNSを見てみるといい。この加害男性のように、女性に憎悪を抱き、フェミニストを罵り、社会を悪くする犯人だと断罪している男は山ほどいる。
 冒頭で紹介した電通の調査を「世代間の意識のズレですな」なんて呑気な話で片付けているうちに、静かにアメリカや韓国のような過激な反フェミニスト運動が広がっているのだ。
 暴力やヘイトは水と同じで、高いところから低いところへ流れる。つまり、弱い立場の人が狙われる。日本は多くの国で憎悪や排斥の対象となる移民がいないため、若い男たちの怒りや不満は、もっぱら中国人や韓国人に向けられてきた。が、今のまま低賃金が続くようなら、新たな「サンドバッグ」も必要になる。
 韓国のように、若い男たちが「フェミニストは死ね!」と叫びだす日も、そう遠くないかもしれない。

 読んでいてゾッとさせられるが、思い当たるところがないではない。これは「フェミニズム」に限った話ではなく、「〇〇のせいだ」「〇〇が悪い」という疑念が、あるときある場面でスッと胸に落ち、目の前の現象の説明がつけば、どんな人にも無縁ではない。しかし、自分の不幸は「女性のせいだ」という感情に支配される男性だとしても(いや、それゆえにだったりするかも知れないが…)、たとえば、女性から「男しか総理大臣をやらないから日本はダメな国なんだ」とか「入試で男子を優遇するから都立高校はダメになった」などと言われたら、おいおいと、それは理不尽だと思うのではないか。立場を逆にしたら通らないような理屈は、やはり自分に都合がよいだけの偏見である。

 暴論や妄想も問題だが、それに暴力がともなうことは、分断と罵りをいっそう強めるだけで、何としても避けるべきだ。窪田氏は、若い男性が「フェミニストは死ね!」と叫びだす日が遠くないかもしれない、と締めているが、こうした「不幸」の原因をつくっている真の「敵」は、批判の矛先が自分に向かず、しめしめと高みの見物をしているのではなかろうか。





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