ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

厚労大臣とワクチン大臣

 昨晩(1月20日田村憲久厚生労働大臣は、アメリカの製薬大手「ファイザー」と年内に新型コロナウイルスのワクチン約1億4400万回分の供給を受けることで正式に契約を結んだと発表した。スガが「ワクチン担当」なる新部署を立ち上げ、その大臣に河野太郎を就けたと思ったら、厚労大臣がこのような発表をするのは「越権」とも思えるが、そもそも河野は現段階でこれから “お勉強“ しなければならない身だから、行きがかり上これでしょうがないということか? しかし、河野は河野で、「一般へのワクチン接種が5月になりそうだ」と政府関係者やNHKが見込みや「行程表」を示すと、Twitterで「まだ想定していない」「勝手にスケジュールをつくるな」と不快感を露わにするなど、こちらも存在感のアピールに余念なしだ。

 厚労省がやればいいはずのワクチン接種に、わざわざ別の統括部署を新設する政治的思惑は何か? 支持率が下がる一方のスガによる国民の目を引きたいがためだけの “奇策“ とか、毎日新聞世論調査で次期首相候補のトップに浮上した河野に対する牽制(忠誠心を試しつつ、接種が遅れて国民の反発を招けば責任を被せられる?)とか、厚労省所轄の「利権」剥がし? あるいは「利権」誘導、とか……、想像力をめぐらせばいろいろと思いつくことはある。

 しかし、この局面で、ワクチン接種に行政上二つの指揮系統ができるのは好ましいことではない。平時であれば、時間をかけて業務の仕分けとか円滑な役割分担などを考えられるかもしれないが、この非常時にそんな余裕はない。ふだんにも増して「慎重かつ万全」でなければならないことに、行き違いが生じて、ほころびが重大事故に発展しかねないのだ。大臣からしてこんなつばぜり合いみたいなことをしていて、実務を担う人々にとっては、いい迷惑だろう。どっちでもいいから責任者は一人に決めてくれ! とでも言いたいところだ。平井デジタル大臣のワクチン接種のマイナンバー紐付け提案など、まったく論外である。

 アーレントの『全体主義の起原3』を読んでいて、こうした「二重行政」というか「二重権力」というか、組織の重複は国民にとっては結局のところ組織がないのと大差なく、ただ無法な権力と人々の法規範の軽視、公共心の麻痺、……要するに「無政府状態アナーキー)」を招くもののように思えた。


 第三帝国(ナチ政権のこと)の初期には、ナツィ(ナチ)は多少とも重要な官庁はすべて二つ設けて、同じ職務が一つは官吏によって、もう一つは党員によって執行されるようにすることに熱心だった。………党員が国務大臣になったときにもナツィは決して役職の二重化をやめなかった……。………国家意識と国会機構に対する敬意とはドイツ人の伝統にしっかりと根差していたため、厳粛に発布された法律によってそれらをあらたに記憶によみがえらせるためには特別の努力は要らなかった。「非常によく変わるものであるにもかかわらず...やはり、結局は人々が望んでいる秩序の表現」である法律一般を無視する全体主義者は、自らの無法性を際立たせる最上の対照物を………ヴァイマル憲法のうちに見た。そして彼らの意見によれば憲法や法律は<瀕死のデモクラシー>と国家形式の最もあきらかな徴表だったから、そのようなシステムは無力であり無効であるという彼らの信念を弘めるためには、現行法とか確定した国家の権威とかというものは存在することはするが、しかしそれは見かけだけの存在にすぎないという確証を住民に時々刻々見せつけるのが最良の方法だったのである。
 ………結局この支配機構の特徴としては無構造性しかないことになる。………法律的もしくは国家的な構造などはすべて、ますます速度をはやめながら一定の方向へ動いていく運動にとっては障碍でしかないということである。………ファサード(表向きのお飾り)と真の権力との鬼ごっこがくりかえしくりかえし、しかも絶えず趣を変えて演じられる……。
 第三帝国の住民は……これらの権威のうちのどれがファサードを、どれが真の権力をなしているかが……わかったためしはなかった。全体主義の国の住民たちは或る種の第六感が急速に発達してしまうのだが、もっぱらこの第六感によって彼らは誰の命令に本当に服さねばならないか、誰を無視していいかを知ることができた。他方また、指導部……の命令の……執行に当る人々(精鋭組織)も、本質的に住民よりましというわけではなかった。そのような命令は大抵「……わざと不明瞭な形で」与えられた。………住民と精鋭組織との相違といえばただ、精鋭組織は……「暗示」から「言葉で言われている以上のものを読取る」ことを学んでいたということだったのだが。

(大久保和郎・大島かおり訳 154-160頁)


 これは「空気を読む」とか「忖度する」ということだ——話が大きくなり過ぎたという気がしなくなってきた。




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