ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「現実の肯定」と新聞

 今朝の新聞の一面を見ると、破壊されたガザに関する記事とオリンピックの記事が二つ並んでいます。右上が破壊と虐殺の惨劇、左下が「日本人」選手のメダル獲得の「祝い事」。落差があるというか、不釣り合いでもやもやした気分になります。
イスラエル・パレスチナ:「撤退ライン」ルポ(その1) 破壊のガザ、営み消え | 毎日新聞
ミラノ・コルティナ2026:デュアルモーグル、堀島銀 ラージヒル、二階堂銀 | 毎日新聞

 社会面を開いても同じです。左側に国語の入試問題で有名になった例のパレスチナの詩の作者とそれを出題した灘中を取材した記事、右側にはジャンプの小林陸侑選手の記事です(その右隣には北朝鮮拉致被害者の家族会と支援団体の合同会議の記事もあります)。これらはすべて現実の一部です。それを切り取って並べただけのことで、特に他意もなく、新聞報道としては(新聞でなくとも)日常見慣れた「風景」なのかもしれません。
灘中:パレスチナの詩、灘中入試で出題 「ガザに正義と平和を」 作者からメッセージ | 毎日新聞
最大のライバルは自分自身 ジャンプ小林陵侑、強さの原点 | 毎日新聞

 しかし、一面の左に付された衆院選に関するコラムを眺めていると、何か「現実の受容・肯定」を迫られているような感じがしてきます。先崎彰容(あきなか)氏は、自民党の歴史的大勝となった先日の衆院選について、こう述べています。
解剖・高市現象:「推し活」広げた本音主義と不安の心理 先崎彰容教授が語る高市現象 | 毎日新聞

 衆院選で、保守色の強い高市早苗首相が自民党を大勝に導いたことは、日本の特殊な現象ではなく、資本主義の成熟した国で一様に起きているグローバルな事象だ。イタリアやフランスではずいぶん前から政治の右傾化が進んでいるが、それがゆっくりとした形で日本に入ってきた。
 私たちは国際政治で、むき出しの力を日々見せつけられている。選挙後、トランプ米大統領ソーシャルメディアで「『力による平和』という保守的な政策を実現する、あなたの成功を心から願っている」と高市氏に祝意を示した。「力による平和」に日本も一員として規定され始めた証拠だ。
 日本の政治は今後、高市氏が一種のスタンダード、皮肉を込めていえば「中道」になるだろう。
 大勝の背景に有権者の「推し活」がある。昨年の参院選では参政党が「推し活」の対象になったが、今回はそれが高市氏になり、街頭演説会場で「早苗ちゃん」と歓声が上がった。
 私が注目しているのは「高市政権になってちょっと社会が明るくなった」という言葉だ。それまでは閉塞感があったということだ。有権者からは、高市氏がその閉塞感を壊してくれる人だと見えた。イタリアのメローニ首相と抱き合ったり、トランプ氏の横で飛び跳ねたりした姿もそうだろう。中国に対する発言についても「ちょっとスカッとした」という感覚が有権者にあったのではないか。
 「平和こそ大事であり、戦争に加担してしまう」というリベラルな言葉よりも「日本だってそれぐらいのこと言いたいよね」という本音の方が受け入れられるのだと思う。インターネットの最大の特徴は「本音主義」だ。トランプ氏もそうだが、表面的なきれい事ではなく「本音はそこだよね」という点で人に刺さるかどうかが重視される。
……

 もちろん先崎氏(とその記事)が「現実の肯定」を意図しているかどうかはわかりません。彼は現状分析をして、自民党の歴史的大勝利の背景(の一端)を説明しているに過ぎない。しかし、中には発言の引用元が不明で、首をかしげる箇所もあります(インタビューをまとめた短い記事なのでやむをえない面もあります)。たとえば、記事中に下線  を施した3か所については、典拠となる具体的な事実を小生は存じません。
 「高市政権になってちょっと社会が明るくなった」――前首相の石破氏と高市首相を個人として比較する話は聞いたことがありますが、石破首相在任中の社会の雰囲気と今を比べて明暗のコントラストを分ける話は耳にしたことがありません(誰の言葉、あるいは、どういう調査の結果なのか)。それから「(高市の)中国に対する発言」というのも、高市首相は就任してから(それ以前でなく)、国会でいわゆる存立危機事態発言をし、それを撤回しないと意思表示したこと以外では、中国にかかわる話はだいたい沈黙していた(言及を控えていた)と思うので、何が(一般の人々を)スカッとさせた発言なのか、はてな? です。最後の「日本だってそれぐらいのこと(言いたいよね)」というのも同様で、先崎氏が「本音」という言い方で形容する「それぐらいのこと」とは具体的には何を指すのか?(まさか、日本も戦争に加担するべきだ、ということではないと思いたいのですが)

 加えて、先崎氏の言う「本音主義」や「平和が大事」「戦争に加担したくない」をリベラルな言葉と人々が受け止める(括る)との解釈にも、疑問や違和感はあります。総じて、これは何のための「分析」なのかという点が一番引っかかります。端的に言って、その分析を受けてどう考えるのか、何をどうしようと思うのか、については(禁欲的に!)何も述べていないので、「世の中はこうなってる(と思う)んです」と言っているだけなのです。単に記者から尋ねられたことに答えただけなのかもしれませんが、これは結局のところ、「本音」の是認が世の趨勢の肯定につながる話のように思えてきます。この際「きれい事」はいいよ(いらない)ってことになりかねません。

 今回の衆院選自民党が大勝したことには、先崎氏が言うとおり、「推し活」の影響があったことは間違いないでしょう。しかし、高市首相の人気を有権者の総意と見ることはできません。現行の日本の小選挙区主体の選挙でなかったら、たとえば、中選挙区制選挙だったら、いくら中道改革連合が世の不評を買ったといっても、ここまで惨敗はしなかったでしょう(自民党がもう一回衆院選で負けて、野に下れば、定数はおろか選挙制度の改定にまで進んだでしょうけれど、またしても制度改革への道は遠のいてしまいました)。高市の演説に人々が大勢集まって、まるで彼女はアイドルのようだったといっても、結果自民党の(比例の)得票率は1/3程度なのです。

 今朝の毎日新聞の「読者の声(投稿欄)」の編集者もこう書いています。
読者の声:衆院選結果を受けて | 毎日新聞

 高市早苗首相(自民党総裁)率いる自民が単独で3分の2以上の議席を得た衆院選の歴史的大勝を受けて、読者からはこれまでと少し違った声が相次ぎました。
 千葉の男性は「選挙結果は国民の多数の選択なので致し方ない」としつつ、「メディアはこの結果に臆することなく政治とカネの問題や旧統一教会との関係を追及してほしい」と要望。自民に投票したという東京の男性も「自民のやりたい放題にならないようにメディアがしっかりして」と話しました。別の千葉の男性は「トランプ米政権並みの独断が増えることを危惧します。民意だと投げ出さずに警鐘を鳴らし続けて」とつづりました。……
 ……2024年の衆院選、25年の参院選後の様相とは異なり、国会のチェック機能に対する読者の不安の裏返しと感じます。
……

 先月までとは衆院選挙後の「政治風景」は一変しました。思わぬ落差に危機感を深めた人も少なくありません(小生もその一人です)。先崎氏の言う「本音」には善意も悪意もあります。悪意が優勢にならないよう、新聞も読者もがんばらないとと、記事を読みながら思いました。



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