確か関東は6月6日頃梅雨入りしたことになっているのですが、ここ連日の猛暑とこの先の天気予測から、気象庁はおそらく24日に遡ってすでに梅雨明けしましたと発表するのではないか、と思っています。
2022年梅雨明け予想 異例に早い6月下旬か 猛暑による熱中症と水不足に警戒を(気象予報士 牧 良幸 2022年06月24日) - 日本気象協会 tenki.jp
今年の夏は10年に一度の猛暑となるとの見通しから、今月初め、電力需給が逼迫するおそれがあると表明していた政府与党が、まさかこの梅雨明けの展開を予想していたとは思えませんが、参院の選挙戦最中のこのタイミングで、「猛暑」が襲来し、国民に異常な夏を肌で実感してもらうという意味で、これを「天佑」というか、しめしめと思っている関係者は少なくない気がします。
エネルギー政策は必ずしも参院選の主要争点とは言えませんが、再生可能エネルギーをできるだけ稼働させつつも「安全性の確保された原子力を最大限活用する」と言って譲らない政府与党にとって、この早すぎる梅雨明けは、原発再稼働への疑念や批判を封じ込めるのに都合のよい環境ができたことになります。これは最大の争点の(はずの)物価問題の裏面としてじわじわ効いてきそうな感じです。
実際、新潟県知事は「安全なものを、動かせる環境にあるものを動かすというのは、それはあらゆる危機を回避するための手段として、使えるものは使っていくということは合理的だと思う」と、政府発表の直後にフォローを入れていました。
今夏の電力需給対策 安全確認された原発活用に花角知事「合理的な判断」【新潟】 県内ニュース | NST新潟総合テレビ
政府が国民に節電を呼びかけ、電力不足という認識が広がれば広がるほど、脱原発へ向けたエネルギー転換の意志は挫かれます。原子力に依存しない方がいいけど、電力不足は一番困ると……。かくして原子力利権は温存され、国としてますます世界の潮流から離れていく。
似たような構図は、日本の花形産業と言われて久しい自動車産業にも感じます。
政府が6月7日に閣議決定した例の「骨太の方針」の、新しい資本主義に向けた重点投資分野に、下記のような記述があります。
……2035 年までに新車販売でいわゆる電動車(電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車)100%とする目標等に向けて、蓄電池の大規模投資促進等や車両の購入支援、充電・充てんインフラの整備等による集中的な導入を図る……。
(「経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」、9頁)
ロイターの取材によると、自民党が日本自動車工業会(自工会)に配慮(忖度?)して、ハイブリッド車(HV)も「いわゆる電動車」(「電気自動車」とは書かれていません!)に含めるよう文案を修正したというのです。山崎牧子記者による6月24日付記事からの引用です。
自動車業界に配慮し文案修正、今年の骨太方針 HVも電動車と明確化 | ロイター
……欧米や中国メーカーが純粋な電気自動車(EV)に舵を切る一方、水素やバイオ燃料などと組み合わせれば内燃機関も脱炭素技術として活用でき、充電インフラなどが整っていない国や地域には必要だとする多くの日本車メーカーの主張を反映した形。最大手のトヨタ自動車はEVだけでなく、内燃機関とモーターを組み合わせたHV、外部から充電可能なプラグインハイブリッド車(PHV)、水素を燃料に使って発電し、モーターを回す燃料電池車(FCV)を揃える方針を掲げている。
一方、一部の海外投資家や環境団体からは日本勢の対応は遅いなどと批判が出ている。トヨタに対しては、EV化の流れを遅らせようとしているとし、各国当局へのロビー活動を見直すよう求める声もある。
ロイターが確認した自民党会合でのやり取りによると、甘利明・前幹事長が6月3日の政調全体会議で、HVは合成燃料を使うと完全なクリーンエネルギー車になると説明。「それがちゃんと伝わらないと、自工会は命がけで反対する」と述べた。「昨日もちょっと豊田章男会長と話をしたけれども、HVを否定するような政権はまったく賛同できないとおっしゃっていた」とも語り、政府側の出席者に文案の修正を求めた。
政府側が示していた文案は「2035年までに新車販売で電動車100%とする目標等に向けて」とした上で、電動車の部分に脚注を付け、「電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車」と説明していた。
会合を経て7日に閣議決定された文書は、電動車の意味がEVに限定されないよう「いわゆる」という表現を追加。さらに脚注の説明を本文に移し、「いわゆる電動車(電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車」と修正された。
ロイターは会合のやり取りを文書と音声で確認。甘利氏本人に見解を求めたところ、本文しか読まない人が電動車はすべてEVだと誤解しないよう、「いわゆる」という言葉を追加することを提案したと説明した。それ以外の修正は求めていないとした。
自工会の豊田会長と電話で話したことは認めた。「ハイブリッドと合成燃料で動かせば環境に良い、燃費はものすごく良い、それを否定するのは自分としては憤まんやるかたないということは(会長から)言われた」と述べた。
自工会の広報はロイターの取材に対し、「ゴールはカーボンニュートラルであり、特定の技術に限定せず、選択肢を広げて取り組むことが重要」と書面で回答。「各国、各地域のさまざまな状況・お客様のニーズに合わせて対応していくことが必要であると考えている」とした。自工会はかねてから、電源構成に占める火力発電の割合が約7割超と高い日本ではEVが必ずしも環境にやさしいとは言えず、政府に対してエネルギー政策の転換を求めてきた。……
HVをすぐに除外されるのはトヨタにとっては痛い、何とか時間と資金を稼げるようにという配慮(忖度)を働かせたということでしょう。しかし、これでは日本の自動車産業も今後アメリカのように斜陽化し、日本の「ラストベルト」などと呼ばれるところが出てくるのではと、暗い予感がしてきます。こうなると、「新しい資本主義へ」と題した「骨太の方針」の副題:~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~ も何だか色あせてきます。「新しい資本主義」とは、古い「エンジン」を再利用して、既得権益の持続可能な経済をつくること、かと。
関係ありませんが、政官財が互いの利権を守ることに執着するこの国で、「他人の心情を推し量る」というプラスの意味で使われる(べき)「忖度」という語は、彼らのおかげで、今やすっかり「グルになる」とか「つるむ」という意味に成り果てた感じがします。
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