ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

組織委員会の「公式報告書」を見て

 東京オリンピックパラリンピック組織委員会が6月21日に公開した「公式報告書」はwebでも見られるようです。全体で447頁にも及ぶ長大なもので、全部読み通すのはちょっとしんどい感じです。ざっと眺めてはみたのですが、パートごとに書いた(書かされた)原稿をもちよって誰かが調整・集約したような感じがあります。たぶんよく読めば、細かな部分で整合性のつかないところが出てくるかもしれませんが、全体として、「お手盛り」感というか、「自画自賛」満載の印象です。

https://www.tokyo2020.jp/ja/image/upload/production/%E6%9D%B1%E4%BA%AC2020%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E7%AB%B6%E6%8A%80%E5%A4%A7%E4%BC%9A%E5%85%AC%E5%BC%8F%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%20%E7%AC%AC1%E9%83%A8%EF%BC%88%E5%85%A8%E4%BD%93%E7%89%88%EF%BC%89.pdf

 すでにWeb上では、森喜朗前会長の辞任に関する下りが「肯定的」な内容になっているという指摘がいくつかありました。
女性が多いと「時間がかかる」森発言 組織委が前向き総括?|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト

森喜朗氏の女性蔑視発言が「議論を活発化」?組織委が「幹部の人権に関する言動」を総括 | ハフポスト NEWS

 実際のところどうなっているのかと、報告書の該当部分を探すと、「多様性と調和」「東京2020 大会が残したレガシー」という項に、こう書いてあります。

……大会を間近に控えた時期に起きた組織委員会幹部や関係者の人権に関する言動は、組織委員会ジェンダー平等や多様性と調和の重要さを再認識する契機となっただけでなく、日本社会全体の議論を活発化させることになった。
(27-28頁)

 これだと、「怪我の功名」どころか、森氏ら一連の発言(失言)のおかげで、日本の人はジェンダー平等が大切であることに気づき、議論が活発化した。これは「レガシー(先人の遺産)」だ?ということになります。しかし、日本全体の議論を活発化させることを目的に、森氏らがわざわざ意図的に「失言」をしたわけではないでしょう(もしかしたら組織委の中には、森氏は日本のジェンダー平等に身を捧げた人だと本気でとらえている人がいるのかも知れませんが)。それとも、こう書いとけば、森氏の機嫌を損ねないで済むとでも思ったのでしょうか。そうだとしたら、逆に、森氏は怒らなければいけません。「くだらん忖度などするな! 普通に書けばいいだろ! ばかにしとるんか!」と。

 財務については、大会経費を削減するため、組織委がいかに圧縮や簡素化に努力したかと書かれていますが、どんぶり勘定ではなく具体的な細目を示さなければ、検証のしようがありません。経費の詳細を明らかにすべきという至極当然の声を「東京2020 大会の経費に対して様々な意見はあるが…」で済まし、新たに建てられた国立競技場や都立スポーツ施設についても、今後のレガシーとなっていくというだけで、これから必要になってくるであろう負担の見通しにフタをしてしまっています。

 最後に、ボランティアについての総括にも一言。この総括では、後ろ髪を引かれる思いでやむなくボランティアを断念した人、通訳ボランティアのはずがゴミ拾いをあてがわれるなど数合わせに利用されただけの人、辞退者続出の穴埋めとして人材派遣会社を通じて集められた「有料ボランティア(アルバイト)」を横目に自らの役割を最後まで果たした人、そうした方々の良心や善意があまり反映されていないと思います。特に、ボランティアの立場を悪用して一般の人が入れない試合を観戦したり、選手の写真を撮ったり、という不快な事例をあげつらうのは、中にそういう行為をする者があったかもしれませんが、今までに起こったオリンピックがらみの不祥事に対する組織委の姿勢と他の部分の書きっぷりに比べ、公平性を欠いていないでしょうか。「大事」をとりあげようとせず、「小事」をことさら「大事」にするのはいかがなものかと思います。以下、該当部分の引用です。

ボランティアについて

大会期間中の対応
 東京2020 大会の開催期間中のボランティアに関する最も大きな課題は、「 無観客に伴う役割及び会場の変更 」であった。
 東京2020 大会の開催直前に多くの会場で無観客が決定されたことで、会場内で観客の案内を行うイベントサービスFA(EVS)のボランティアの役割を見直すこととなった。この状況に対して、組織委員会として、「 半日ないし1日程度の活動となる可能性がありつつも、原則、何かしらの活動機会を提供する」方針を定め、ボランティアに対してメッセージを送付し、会場ごとに調整を行った。その結果、再配置の対象となったボランティア全員に対して、何らかの活動機会を提供することができ、新しい役割で積極的に活動するボランティアが多くの会場で見られた。
大部分のボランティアは活動ルールを守り、熱意溢れる活動ぶりであった。一方、許可されていない座席での試合観戦や選手写真等のSNSへの書き込み、シフトが入っていない日の来場といった事例があった場合には、個別に、又は全体に対して注意喚起等を適宜行って適切な対応となるよう努めた。
(太字・下線は当方が施した)

活動後のボランティアの声
 組織委員会では、東京2020オリンピック、東京2020 パラリンピックのそれぞれ終了後に、大会ボランティアに対して任意のアンケートを実施した。アンケートでは活動に参加した理由や仲間に向けてのメッセージのほか、活動する前後の自身の気持ちの変化などをヒアリングした。アンケートへの回答は、東京2020オリンピック及び東京2020 パラリンピック合計で約1万2,000 件寄せられた。
 アンケートでは7割以上のボランティアが当初の「ボランティア活動に参加した理由 」を達成できたと回答し、8割以上のボランティアが東京2020 大会の終了後もスポーツボランティアの活動を続けていきたいと回答した。
 特に、パラリンピック後のアンケートでは、障がい者スポーツの魅力、障がいのある人とのコミュニケーションでの気付きなどが貴重な経験になったという声が多く聞かれ、ボランティア自身が東京2020大会のコンセプトの一つである多様性と調和を実践できたことがうかがえた。これらの取組が将来のオリンピック・パラリンピック競技大会や大規模スポーツイベントなどの参考となり、レガシーとして引き継がれていくことが期待される。……
(287-289頁)

 この報告書には「レガシー」なる語があちこちに散見されますが、都合よく現実が切り取られ、こうして勝手な「レガシー」(や歴史)がつくられていくのをまたしても目の当たりにされたようで、考えさせられます。さあこれで東京は終わり、次は札幌2030だ、というのでしょうか。

 スペイン・オリンピック委員会は、2030年冬季五輪の招致を断念すると言ってますね……。
スペイン・カタルーニャなどが冬季五輪招致断念 | 毎日新聞




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