ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

五輪ボランティアのこと

 映像で見ると、東京五輪のボランティアはみんなTOKYO 2020の文字の入った青色のポロシャツを着ている。このユニフォームを着て縁の下の力持ちとしてオリンピックを支えている。そのことに誇りを感じていたはずだ。今はどうなのだろうか。

 あるボランティアの男性は、宿舎から出るときには必ず「アクレディテーションカード(資格認定証)」を外してくださいと言われたという。理由を尋ねると、「五輪関係者が泊まっていることがわかると、批判されるから」と説明されたとのこと。
 また、6月の事前説明会で、自宅から会場までは青色のユニフォームを着て移動するようにと言われたボランティアの中から「嫌がらせされないか心配」という声があがったという話もある。

 周囲の視線を気にしなければならない境遇に立たされるとは想像もつかなかったにちがいない。辞めていった人も少なくない中、それでも、あと一週間、あと5日と、最後までやりきろうというのがボランティアの多くの方の気持ちではなかろうか。
 近況を伝える記事を2つ読んだ。

 8月1日付朝日新聞デジタルより。

(コロナと五輪)五輪ボランティア、曇り顔 配車で混乱、役員に詰め寄られ:朝日新聞デジタル

「オリンピック・ファミリー・アシスタント」(OFA)
 東京都心の高級ホテルに滞在する国際オリンピック委員会(IOC)や各国・地域のオリンピック委員会(NOC)役員の案内や通訳などを務めるボランティアはこう呼ばれ、ホテルから会場まで同行する。
 「私の車はまだか」。ある案内役は、NOC役員が自国選手の激励のためにホテルから競技会場に向かう際、送迎車の到着が30分~1時間遅れ、案内役にこう詰め寄る光景が日常茶飯事になっていると証言する。
 遅れの原因は、大会組織委員会が案内役らに貸与したスマホで使う配車アプリ「T―TOSSティートス)」で、作動しないことがあるという。

 ■現場に丸投げ
 役員らの行き先は選手の勝ち進み方で当日朝にしか決まらない。そのため案内役は、朝から紙で台数や行き先を集約していたが、連絡の行き違いで配車ミスが続発した。7月25日からは組織委のパソコンで共有ファイルに書き込んで配車を管理することになったが、上書きができてしまうため、間違いが多いという。
 送迎車は各国の選手団の人数などによってランクがあり、役員によって車種やサービスが違うことも配車作業を複雑にさせている。
 ある案内役は組織委に対し、NOC役員らにアプリのトラブルを公式に説明するよう求めたという。だが、明確な説明はないといい、「説明も苦情対応もすべてボランティアに丸投げだ」と批判する。
 トラブルが続いたため来なくなる案内役もおり、あるホテルでは滞在する役員数に対して必要な案内役が4分の3しかおらず、案内役なしで車を送り出したこともあるという。
 案内役らは、NOC役員の行動に夜まで振り回されることもある。ある案内役によると、NOC役員らは金メダル獲得を祝う会に出かけることがあるといい、夜も配車を求められるという。案内役は1日最大9時間までとされており、超えれば現場を離れられるが、「お祝いだから」と言われると断りにくいという。


 もうひとつ、8月3日付毎日新聞の記事(※年齢などは省いた)。

厳戒下の祭典で:ボランティア、笑顔消え 観客誘導のはずが球拾い/不慣れな運転・道、ストレス | 毎日新聞

 東京都の女性会社員は観客を案内して「復興五輪」を支えようと福島での活動を希望した。ソフトボールと野球が無観客で開かれた福島市の県営あづま球場で任されたのは、近くの小学生が育てたアサガオの手入れとスタンドのボール拾いだ。ほとんどの時間を球場外で持て余し、「福島に貢献できなかった」と心残りをにじませる。

 茨城県取手市のパート女性は有明アリーナ(東京都江東区)で観客の手荷物検査をするはずだった。これまでに一度も活動はなく、大会組織委員会から新たな役割の連絡もない。
 2000年シドニー五輪で観客を案内し、笑顔で感謝を伝えあう雰囲気にひかれた。東京開催が決まった時から参加を決め、仕事は時間の融通が利く業種を選ぶほど待ち焦がれた。
 それほど大会に期待していただけに、今は政府と組織委に対する不信感を抑えられない。なぜワクチン接種を早く進めなかったのか、とりあえず競技ができて良かったと思っていないか……。「周りが置いてけぼりになるような五輪は悔しい」と声を絞り出した。

 予定通り活動に取り組めたボランティアも疑問を抱えていた。都内のある女性は大会関係者を車に乗せて競技場や練習場に連れて行く運転手役を務めている。選手村にある部屋では当初、40~50人ほどのボランティア運転手がパイプ椅子に座って待機し、テレビすらない中で密の状態が長く続いていたという。
 2日にはボランティア運転手の男性が首都高速道路で追突事故を起こし、そのまま走り去っていたことが報じられた。当て逃げはあり得ないと感じながらも、女性は事故が起きたことには驚かなかった。組織委は運転手が足りないと多くのボランティア応募者に伝え、都心の運転に不安があると答えた人には「カーナビに従うだけなので大丈夫」などと安全性に欠ける説明をしていたからだ。
 事前研修は築地市場跡(中央区)で30分ほど運転するだけ。「職業ドライバーではない私たちが不慣れな道を走るのはストレスが多い」。英語に不慣れな運転手もいるのに、行き先を指定するアプリにも不具合が続いていたという。
 女性にとっての五輪は思い描いたものとまるで違った。「辞退はできるけど全員辞めたら大会が成り立たない。参加する理由が責任感だけになってしまった」と力なく語る。

 太字は当方が施した。

 首都高の当て逃げ事故の件は、最初は何ということをしているのかと思ったが、事情が見えてくると、「五輪ファースト」の輩の不遜ぶりが目に余る。
 善意を踏みにじられながら、何とか「任務」をまっとうしようとする人々。それにひきかえ、責任感に乏しく、現場任せ、人任せのこの国のトップの面々…。自分のことではないのに何か怨念さえ覚える。



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