ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

防衛費を増額しないと笑いものになる「世界」

 5月16日付の東京新聞に最近“舌”好調の元総理の発言の一覧がありました。

「核共有」「防衛費倍増」「日銀は子会社」…安倍元首相の相次ぐ持論発信に党内から戸惑いの声:東京新聞 TOKYO Web

時系列で並べかえ、今月分を加えるなど、若干手直しすると、

 ① 2月27日、フジテレビの番組で、 核の共有
 ② 4月 3日、山口市の講演で、   敵の中枢攻撃 
 ③ 4月14日、派閥の会合で、    国債で防衛費
 ④ 4月21日、都内のシンポジウムで、防衛費の倍増GDP2%
 ⑤ 5月 9日、大分市の講演で、   日銀は政府の子会社
 ⑥ 5月17日、派閥の会合で、    新型コロナを2類から5類へ 

マス・メディアが寵児扱いして何を言ってもとりあげるので、本人もいい気になってしゃべりまくるという、相乗効果(悪循環)もあろうかと思います。このうち、④の4月21日のシンポジウムでは、こう話しています。
安倍元首相「防衛予算増やさないと笑いものになる」 講演要旨 | JAPAN Forward

……中国の武力行使を防ぐために、われわれが何をなすべきかということが大切だ。
台湾と中国だけではなくて、日本と中国の軍事バランスも大きく崩れている。日本自身も努力をする必要がある。「戦略3文書」に関する自民党の提案に、防衛費について5年以内にGDP比2%を達成することが書き込まれると期待している。
自民党はオープンな政党だから、いろんな議論をする人がいる。たまたま私が2%と言い出した。誰とは言わないが、私が言うと反対する人がいる。「まず数字ありきではなくて積み上げでなければならない」という人がいる。政治家の発言とは思えない。財務省の主計の補佐みたいな発言だ。では積み上げていって5%だったら5%にするのかという話だ。国家意思を示すべきだ。
NATO北大西洋条約機構)加盟国は1カ国の例外もなく2%にしていくと合意した。平和と安定をつくる負担を、それぞれの国々が、その規模によって背負っていこうという中で、日本も当然、負担を背負っていくべきだ。
日本は米国はじめ多くの国々に、もっと軍事的なコミットメントを増やしてもらいたいと要求してきた。それに応じ、米国はもちろん、英国やフランス、カナダ、ドイツ、オランダも艦艇などを(インド太平洋に)派遣している。地域の平和と安定に世界の協力が必要だと言っている日本自体が、予算をほとんど増やさないといったら、みんな驚くだろう。笑いものになるといってもいい。……

 東京新聞には、「……あえて物議を醸す発言をすることで、保守層の支持を固め、自らの影響力を誇示する狙いもありそうだ」とありますが、小生の周りにいる「保守的」な人の中に、防衛費を2%に増額すべきだ(しかも、国債を発行してまで?)と、これに賛同する人は見当たりません。元総理の発言に、そうだ、そうだ、と思う人たちは「保守層」でも、かなり特殊な人たちだと思います。

 地域の平和と安定のため、日本が防衛予算を増やさないと(世界の)「笑いものになる」との発言には、評論家の古賀茂明さんから別の見方が示されています。5月17日付、AERA dot. の記事です。

ウクライナも尊重する憲法9条 古賀茂明(1/2)〈週刊朝日〉 | AERA dot. (アエラドット)

……私は、これとは全く異なる見方をしている。ウクライナのゼレンスキー大統領の日本国会での演説にそのヒントがあった。彼は、世界各国の議会での演説で必ず武器提供を要請した。だが、G7の一角を占め米国の同盟国でもある日本に対してはなぜかこれをしなかった。その理由について、駐日ウクライナ大使は「われわれは(戦力不保持などを定めた)憲法9条や政治環境を認識している」と語っている。日本の憲法9条や「政治環境」、すなわち、戦争に加担することに非常に慎重な日本の世論を尊重したのだ。
 日本の平和主義が憲法9条を通して世界に発信され、それが尊重されるというのは、単なる理想ではなく、現実に起きていることがわかる。そこで私は、先日会ったウクライナ人とその支援者の話を思い出した。日本に一番期待するのは何かと聞くと、ウクライナ人は日本が大好きだからこそ、戦争への協力ではなく今すぐ必要な人道援助と息の長い復興支援を期待するという答えだった。
 そこには、防衛費を増額しないと「世界」の笑いものになるという世界とは全く異なる「別世界」がある。安倍氏の言う「世界」とは、欧米諸国の権力者たちの世界。各国の世論を作る国民の評価ではなく、バイデン米大統領らが「よくやった」と言ってくれるかどうかが基準だ。だが、それで日本の平和国家のイメージが傷つけばどうなるか。
 中国との対立が激化した時、「あの平和主義の尊敬すべき日本」が中国に脅かされていると世界が見るのか、「あの米国のポチ日本」なら中国に敵視されるのは当然と見られるのか。それによって、中国の出方は全く異なってくるだろう。

 憲法前文が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と宣言し、9条で戦争放棄と戦力不保持を定めたのは、単なる理想主義ではない。国民の命と権利を守るには、その方が、強い軍隊で戦争による紛争解決の準備をするより有効だという極めて「現実主義的な選択」をしたのである。
 安倍氏が理解できない憲法9条を、今まさに戦火の中にあるウクライナの人々が理解し尊重しようとしていることを日本人は良く知るべきだ。
週刊朝日  2022年5月27日号から)

 アフガニスタンで亡くなった中村哲さんも「憲法9条があったから、日本人だから、命が救われたという経験を何度もした」と言っていました。
中村哲さんの一周忌に寄せて - ペンは剣よりも強く

 防衛予算を倍増させ、憲法9条の平和主義を変えるというのは、外交努力よりも手っ取り早く軍事力でかたを付けるという意思表示になるでしょう。元総理は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」するという憲法前文を「いじましい」(見苦しく哀れ)と嘲笑しましたが、世界の多くの人々にとって「いじましい」のはどちらでしょうか。



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