ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

昭和の報道 令和の報道

 「降る雪や 明治は遠くなりにけり」とは俳人中村草田男の句だそうです。彼がこの句を詠んだのが昭和6年(1931年)で、明治45年(1912年)から20年しかたっていません。間の大正が短かったせいもありますが、新しい元号になって6、7年というのは、以前の時代に共感的に目が向く頃なのかも知れません。昭和が終わってから今年で36年。令和になって7年。確かに昭和もかなり遠くなってきたような気がします。

 先週でしたか、夜、何気にTVを見ていたら、令和世代の若者が昭和のテレビCMを見ていて抱く違和感をクイズ形式で当てるというような番組があって、何かおもしろいことをやってると思いながらしばらく眺めていました。
 令和の若者は昭和のCMのどこに違和感をもつのか――たとえば、昭和のCMでは、お菓子から車や冷蔵庫などの大物に至るまで、やたらと画面に値段が表示されていましたが、最近のCMでそういうことはほとんどない、と。確かに。あるいは、亡くなった女優の八千草薫さんがヘルメットをかぶってスクーターに乗り、風を切って走るCMでは(懐かしい!)、今は車のCMは見るけれど、バイクに人が乗るシーンをCMでは見たことがないというのです。はぁ、なるほどと思いました。
 「昭和の常識」でものごとを見ていると、ついつい世代差に気づかずに済ませていることが多いのですが、若い世代は同じように見ているわけではないという当たり前のことを改めて考えさせられました。もちろん「昭和」といっても、戦前・戦中を知る人と戦後世代のギャップの大きさは看過できず、決して一括りにはできませんが、それでも戦後の高度経済成長からオイルショックを経て、バブル経済を共通の経験(下地)としてきた人々と、非正規労働者が4割の世で全般的にコスパ意識の高い人々が主流の世代が同じになるはずもないなと思います。
 しかし、「昭和の常識」にしても、「昭和レトロ」という趣向があるくらいですから、決してマイナス面ばかりではないのでしょう。もし、同じことをCMでなく報道番組について、令和の若者が何に違和感を覚えるかを調べたらどうなるかなあと想像します。単純に比較するのは難しいですが、たとえば、民放の夕方のニュース番組は、今やほとんどニュース・バラエティで、2、30分程で収まる内容を4時前から始めて7時まで延々と3時間近くも放送しています。他方、昭和の夕方のニュース番組、たとえばTBSのニュースコープなどは6時30分開始で7時まで、30分くらいだったように記憶しています。今のニュース・バラエティを「当たり前」ととらえる世代にとっては、昭和のニュース番組はキャスターも内容も堅過ぎると。それに、どうしてゲストがいないのかと思うかも知れません。逆に、「無駄(遊び)」がないというか、直球的で簡潔だと思う人が、中にはいるかもしれません(そもそも論で、若い世代はテレビでニュースなど見ていないでしょうから)。小生としては、形式面よりも、報道の姿勢そのものに違いがあったことに気づいてほしい気がします。

 そんな昭和の空気が感じられる数少ない報道番組に、今もTBSで土曜の夕方に放送されている「報道特集」があります。2020年7月から5年間、この「報道特集」の編集長を務めた曺琴袖(ちょう くんす)さん(本日7月1日付けで情報制作局長)にインタヴューした記事を読みました。一部引用させてください。
番組への誹謗中傷、自身への殺害予告…TBS『報道特集』元編集長がそれでも「調査報道」を続けた理由(FRaU編集部) | FRaU
「ポスト真実」時代にマスメディアが信頼を取り戻すには? TBS『報道特集』元編集長・曺琴袖に聞く(FRaU編集部) | FRaU

――兵庫県知事選においては、SNSでいわゆる「犬笛」を吹かれた人々により、百条委員会の委員県議たちが名指しで誹謗中傷を受けていました。自分たちもこうした攻撃の対象になることを恐れて報道することを躊躇したメディアもあったのではないでしょうか。

 :そうですね。実際に、知事選後の3回目の放送(「YouTubeの拡散指示が…」“支持者LINEグループ”の登録者に聞く 斎藤元彦氏再選の舞台裏/2024年11月30日放送)で選挙戦の裏で起こっていた誹謗中傷やデマの拡散について報道すると、立花氏の『報道特集』に対する攻撃が始まり、さらに番組スポンサーに対する攻撃も過熱していきました。
 年明けは、しばらくこの問題に関する報道は控えようと考えていました。知事選を前にマスメディアが横並びで行った過熱報道についての検証ができていなかったし、選挙期間中に何があったのかについてもちゃんと追いたいという思いもあったからです。そんななか、1月18日に竹内さんが自殺されたんです。

――そんなタイミングだったのですか……。

 :さらに衝撃だったのは、人の死に対して悼んでいないようなコメントがSNS上で多く見られたことです。怖かったですね。一部の人たちによるものにすぎないのかもしれませんが、そのありようを見て、なんとかしなきゃいけないという思いに駆られました。
 竹内さんの存在は、私たちの制作上の気持ちの支えになっていました。そして竹内さんの奥様のインタビュー(「見るに堪えなかった」亡くなった竹内元県議の妻が語った苦悩、誹謗中傷“選挙動画”の拡散を検証/2025年3月22日放送)を放送することが決まり、できるだけ多くの人に見てほしいという思いでXに投稿しました。それがバトンの形でどんどんつながっていき、「報道特集がんばれ」の声をたくさんいただいたんです。

――それがハッシュタグが生まれたきっかけだったのですね。先ほど番組やスポンサーが「攻撃」を受けたという話がありましたが、具体的にはどんなものだったのでしょうか。

 :ネット上の誹謗中傷です。斎藤氏や立花氏を支持する人が番組や出演者などに関する事実ではない誤った印象操作につながる動画をYouTube上に投稿し、それが切り抜き動画としてSNS上で拡散されたりしました。スポンサーに対しては、立花氏が苦情のメールや電話を行うことをXで呼びかけ、支持者らがそれに従ったのです。報道人生30年の中でも経験したことのない、凄まじい勢いの攻撃でした。
 そして私個人に対しては、在日韓国人であることに対するヘイトのコメントの他、殺害予告のメールも来ました。

――殺害予告まで……。犬笛を吹く人々が野放しになっている印象がありますが、会社からはリスクを考慮して、ストップがかからなかったのですか。

 :TBSは、報道現場の意思を現場ではない人たちの影響力で変えさせようということが少ない会社なんです。私たちがやると決めたことに対して、他からのストップはありませんでした。会社から何か取材に制限がかけられるということよりも、殺害予告まであったということで、『報道特集』の仲間が萎縮して、現場に出たくないと言うことが怖かった。その雰囲気が現場に全然なかったのは幸いでした。

――ご自身よりも現場の雰囲気を心配されるとは……曺さんはなぜそこまで強くいられるのでしょうか。

 :同じような思いや憤り、正義感を持っている仲間がいるからだと思います。でも、竹内さんの奥様のように、死後も続く夫への誹謗中傷を日々目の当たりにし、つらい状況にある方のインタビューを放送する際、その放送を受けて、さらに誹謗中傷が殺到してしまったら、精神的に非常にこたえます。

――『報道特集』では、竹内さんに対する誹謗中傷問題についても詳しく調査報道されていますね(追い詰められていた元兵庫県議の竹内英明さん 「でっち上げ」と発言した立花孝志氏は/2025年1月25日放送)。

 東京大学大学院工学系研究科教授・鳥海不二夫さんの調査によると、2024年1月1日から2025年1月18日までにXで拡散された竹内さんへの誹謗中傷の投稿の半分はわずか13アカウントの発信が基になっているとわかっているそうです。
 さらに誹謗中傷の投稿をしている人を取材したんですが(「真実かどうかよりも、極端なコンテンツほどたくさん見られる」選挙期間中に拡散される誹謗中傷や虚偽を含む動画 作成に報酬も…背景を取材/2025年3月15日放送)、その人たちの動機は政治的主張ではないんです。インプレ稼ぎ、金儲けの仕組みにのっかっただけだったんです。
 立花氏の街頭演説の動画撮影や、立花氏や斉藤知事を支持する内容の切り抜き動画の作成などが仕事仲介サイトを通じて何者かから発注されているわけです。そうした仕事を請け負った人のマニュアルなどを精査すると、それ以前に斎藤知事を攻撃する動画の作成・投稿もしていたことがわかりました。

――まったく逆の立ち位置なんですね……。

 :政治的な主張がないからできることですよね。だからこそ、簡単に改心する人も多いんです。竹内さんを誹謗中傷する内容の切り抜き動画を作成・投稿していた人に、竹内さんのご家族が傷ついていると番組のキャスターが伝えたら、自分も子供が生まれたばかりなので、亡くなられた方の奥さんが苦しんでいると知って、もうやめようと思いますと言い、アカウントを閉鎖しました。……<以下略>

 最後の話は、1ヶ月前に『地平』7月号の記事で読んだとおりで、ブログにも引用しました。
ある政治系ユーチューバーの話 - ペンは剣よりも強く

 小生ももちろん「報道特集」を応援したい気持ちを持っていますが、「報道特集がんばれ」というフレーズがひとり歩きしてしまって、どこか他人事のように響く感じが否めないので、まず「自分、がんばれ」を基点にしようと思います。でも、軽薄なもんで、たまに「息抜き」(息継ぎ)をしながらですけど。




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