ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「プロメテウスの火」

 昨日散歩をしていたら微かに焦げくさいにおいがしました。野焼きをした辺りの農道を歩いていたせいかもしれません。それで、父親の話を思い出したのですが、生前、父親は、稲刈り後の枯れた二番穂を燃やしていたら、誰かに通報されてしまい、警察から注意を受けたというのです。テレビで野焼きのニュースを見るたびに、「何でこいつらはよくて、自分らはダメなんだ」と不満たらたらです。農家仲間の「〇〇ちゃん」も野焼きをしていたら、やっぱり警察に通報されて、それでも止めずに密かに続けていたら、ついに警察に呼ばれて(略式起訴されて?)罰金まで払わされたということです。
 そういえば、小生の同僚にも、落ち葉を集めてたき火をしてたら火が大きくなって、消防車が出動する大騒ぎになったと言っていた人がいましたが、今の時代、個人のたき火や野焼きはダメで、やるなら農家組合みたいな団体が消防署に届け出て許可を得た上でやらなければならないようです。ゴミの焼却も同じで、学校でも1990年代くらいまでは、教務手帳や成績会議の資料など、個人情報が入った「危ない」書類を年度末に焼却炉で燃やして処分していましたが、今はすべてシュレッダーです。有害ガスの問題はあるでしょうが…。
 子どもの頃は落ち葉を集めてたき火をし、近所の子どもたちで焼き芋を食べたことがありましたが、それも遠い遠い夢物語です。今は家の中で煮炊きはできても、外では自由に火を使えないわけで、我々は公的空間では火(を私的に使う自由)を奪われたも同然です。ギリシア神話で、ゼウスから火を取り上げられてしまった人びとに、密かに火を届けたというプロメテウスでも現れないものかと思ってしまいます。

 思いつきで言いますと、「刀狩り」というのにも似たものを連想します。刀狩りは兵農分離を決定づけたとして秀吉のやったものが特に有名ですが、戦闘のプロと食料生産のプロという役割分担を明確にしたというより、実際は農民反乱の予防と(支配者側の)治安目的だったという方が適切です。もちろん刃物は刀だけではありませんし、これで反乱や犯罪が防げるわけではありませんが、武士と農民の線引きによって「農民としての分」をわきまえろ、という心理的効果は派生します。真の狙いはそこにあったのだと思います。

 昨日、れいわ新撰組の大石あきこ衆議院議員橋下徹氏から「たびたび攻撃的な表現行為を繰り返している」という理由から「名誉毀損行為」「社会的評価を低下させる行為」で訴えられたと知りました。
大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員(大阪5区) on Twitter: "ちょ、待て
橋下徹 @hashimoto_lo にうったえられたんだが

#パニック訴訟
#大石あきこ橋下徹に訴えられたってよ… "

 菅直人元首相の「ヒトラー発言」でも話題の人となった橋下氏(と維新)。テレビでも(小生はフジテレビの類いは見ませんが)「寵愛」されているようですが、弁護士や公人(首長・議員・大学教授…)が誰かに向けて「ヘイトスピーチ」とか「名誉毀損」とかというフレーズを発すると、法律に疎い我々は「そういうものか」と思いがちです。しかし、矛先を向けられた言動をよく見てみると、「攻撃的」な批判どころか、単なる皮肉や嫌み、揶揄、ブラックジョークに過ぎないものが多々あります。そういうものにまで、「ヘイトスピーチ」とか「ハラスメント」とか「人格攻撃」などというレッテルを貼り、それをメディアやネットが迎合・増幅して罵声を浴びせる様には辟易します。これは要するに、すべてをひっくるめて相手を批判してはいけない、批判=人格攻撃だからダメ、訴訟とか損害賠償とか面倒なことに巻き込まれるから止めよう、…という空気を醸成しているように思います。これは、この国のメディアが政権や元総理の所業に対して、今もこれまでも、長年にわたってずっとやってきたことです。「批判ばかり」と言われることを気にする泉・立憲はまんまとそれに乗せられたかたちです。
 その一方で、亡くなった石原慎太郎氏はじめ、森喜朗氏や麻生太郎氏など、数々の暴言・妄言は、「ヘイト」であろうが「ハラスメント」であろうが、「石原節」や「森節」、「麻生節」といった調子で「許容」されることが多く、最終的には、日本は「和の国」ですから…というところに落とし込まれます――この非対称性は何なのでしょうか。

 刀はともかく、火が管理され、批判的言説も管理され、最後は、「分をわきまえろ」、日本は「和の国」だと――神話の世界ではプロメテウスが救ってくれますが、さて今後、プロメテウスのような神(人)が現れて我々に “火” を届けてくれるでしょうか。それより、“種火” を消されないようにあちこちで頑張らないといけないように思います。



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