ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「10増10減」について

 今日は短く。
 「一票の格差」が最大2・08倍だった昨年10月の衆院選をめぐる訴訟の判決について、2月1日、高松高裁は四国の11小選挙区について「違憲状態」と判断しました。一方、東京高裁は2月2日、「投票価値が著しい不平等とは言えない」として「合憲」と判断しました。
 以前からだいたいこの格差2倍のラインで違憲(状態)・合憲の判断が分かれてきたわけですが、2016年の法改正により、次の衆院選からは2020年の国勢調査に基づき「10増10減」の新しい区割り(アダムズ方式)によって選挙が行われ、格差は2倍未満で収まることになっています(2倍未満だからOKというのも本当はおかしいのですが…。1・9でも、1・1でも差があったら平等ではありませんから、1・0に近づけるよう努力がなされるべきなのですが、あまり機械的硬直的にやると対処しきれなくなるから、こんなところで許容してください、というだけの話です)。
 1月24日付奥藤裕子さんのブログ記事に格好の地図が掲載されています。誤字がありますが、わかりやすいので借用させてください。

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アダムズ方式とは?仕組みや導入の経緯を解説 | スマート選挙ブログ

 ところが、「ゆるい」司法判断に便乗するかのように、自民党内に「10増10減」案の見直しを求める声が上がっているそうです。「そら、おいでなすった」という感じです。「地方軽視」とか「被災地域への配慮」とか「民意の適切な反映」とか、もっともらしい理由をくつけてみても、すべて “エゴ” “自己都合” なのは明らかです。地図を見ると、定数減になるのは、元首相や前幹事長らを選出している県(選挙区)ですから、話としてはわかりやすい。
 そもそも2016年に、他にも格差を是正するよい案はあったのに、10年ごとの見直しで、かつ、端数を切り上げるという、いちばん緩いアダムズ方式でやろうと言って決めたのは自民党ですから。6年たったらそんなことは知りませんでは通りません。

 以下、毎日新聞山田孝男氏の1月31日付コラム「風知草」から引用させてください。

風知草:「1票の価値」バトル=山田孝男 | 毎日新聞

 今年の国会の火種の一つに、1票の価値を公平に保つための、衆院選の定数配分の見直しがある。
 選挙区の人口が増減すれば、客観的なルールに従って議員定数を見直す。当たり前のようだが、日本はそうなっていない。
 だから、ちゃんとやろうという政府に対し、自民党を中心に反発が広がっている。これはただの内輪もめではなく、歴史的な意味を帯びた攻防である。

      ◇
 日本の選挙は公正に執行されている――とほとんどの日本人は信じているだろう。だが、1票の重みの公平さ、人口移動に伴う不均衡是正のしくみ――という点では、西欧型の代議制民主政を採るG7(主要7カ国)の下院の中で唯一、原則を欠いている。まな板の上のコイであるはずの利害関係者(議員)が自ら包丁を握り、コイが集まって決めており、公正で客観的な運営を疑わせる。

 この問題を国際的、歴史的に掘り下げた本が昨年の暮れに出た。「一票の較差と選挙制度」(ミネルヴァ書房)である。著者は政治学者の岩崎美紀子・筑波大名誉教授。以下、同書の主張を尊重し「格差」を「較差」と表記する。
 岩崎によれば、2022年は「政治家のための選挙から国民の政治参加の装置としての選挙へと向かう日本の選挙制度分水嶺(ぶんすいれい)」になる。国民本位の較差是正へ変わるか、政治家本位のままか――。現実政治を眺めて考えてみる。

      ◇
 政府は、首都圏などで定数を10増やし、自民党の有力者がひしめく人口減少県で10減らす「10増10減」の是正案を準備している。そうせざるを得ない。この案は安倍政権の中期、16年の選挙関連法改正で導入された定数配分の計算法「アダムズ方式」により、必然的に導き出される。
 昨年11月30日、総務省が20年国勢調査の確定値を発表。同時に「10増10減」案も明らかにした。
 すると、自民党選挙制度調査会で異論が続出(12月16日)。細田博之衆院議長は立場を越えて「地方の政治家を減らし、東京や神奈川を増やすだけが能ではない」と言った(20日)。
 二階俊博・元自民党幹事長は「定数が減れば地域の課題が細かくくみとれなくなる」「腹立たしい。迷惑な話」と憤慨した(今年1月10日)。自民党内では細田私案とされる「3増3減」案が出回っている。

      ◇
 欧米は1票の較差に敏感で、計算式がいくつも編み出された。地域(日本は都道府県)の人口を基準値で割って議席数を決める。小数点以下を切り上げるのがアダムズ方式。ざっくり言えば、他に切り捨て式と四捨五入式がある。
 端数が0・1でも切り上げ式なら1議席プラス。アダムズ方式は合理的な計算式のうち、人口が少ない県に最も有利に働く。19世紀前半の第6代米大統領アダムズの案というが、採用したのは日本だけ。米国でさえ使われなかった。

      ◇
 参院選後、人口減少県選出の自民党有力者が「10増10減」案を覆す可能性がささやかれている。
 アダムズ方式を機械的に運用すれば地方選出議員は減る一方――という批判は理解できる。にもかかわらず、定数是正への政治介入を排した16年改正法は重要である。要は議会制民主主義の土俵がフェアかどうかという問題であり、フェアであることを内外に示す必要がある。


 こんな具合に自分たちで決めた法律さえ守ろうとしない人びとです。憲法「改正」とか、何をかいわんやです。公務員の憲法遵守義務などというレベルではなく、最近の彼らお得意の言い方で言えば、「人としてどうなのか?」という話です。
衆院憲法審 幹事懇談会 日程めぐる協議折り合わず 継続協議に | NHKニュース

 なお、付論すれば、小生、首都圏の千葉県の住民とはいえ、辺境で生活する者としては、定数減によって地方の声が届きにくくなるという話を全否定するつもりはありません。しかし、そのためには参議院を抜本的に改変するとか、最適な方法を考えなければなりませんし、そうなると憲法自体を変えなければならなくなるかもしれません。これは検討事項です。

衆院小選挙区の定数、2040年には「16増16減」 朝日新聞試算:朝日新聞デジタル
「与党議員を救うために選挙制度をいじるのは…」 区割り審の元委員:朝日新聞デジタル




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