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日常と世相の記

エリザベス女王に「試練」の'90年代あり

 他人の財布に興味はありませんが、昨日の毎日新聞に、亡くなった英国のエリザベス女王の遺産の話があって、ふーんと思いながら読みました。調べてみると、9月17日付の日経にも同じ趣旨の記事があります。
質問なるほドリ:英女王の遺産どうなるの? 城や競走馬など610億円、相続税は免除され継承=回答・五十嵐朋子 | 毎日新聞
エリザベス女王の莫大な富、相続税は免除 新国王が「遺産」継承: 日本経済新聞

 「遺産」の話を紹介する短い記事にあれこれ盛り込むことはできないのでしょうが、女王の収入源としては、所有する不動産や金融商品の類に加え、王室助成金があることにも触れた方がよいのでは、と思いました。
 * 王室助成金:女王とロイヤルファミリーの公務を援助するため、政府から支給される。クラウン・エステート(国王の公的不動産)と呼ばれる独立した不動産業から上がる収益が一度政府に支払われ、その一部(15~25%)が助成金として女王に戻されるかたちをとる。

 全体として、税金ネタに言及して「何かが発火」しないよう注意を払っている感じも受けますが、日経の記事の末尾にはこうあります。

財務省によると君主は相続税だけでなく、所得や資産の売買差益(キャピタルゲイン)にも納税の義務がない。だがエリザベス女王1993年以降、一般市民と同じように自発的に納税してきたという。
(※太字下線は当方が施したもの)

 「一般市民と同じように……納税」という部分こそを強調したいのかも知れませんが、これはかえって疑念を招くでしょう。というのは、エリザベス女王は、「1993年以前」は、相続税はおろか所得税も納めていなかったことになるからです。そう言われると、この頃、英王室は国民から批判にさらされ、話が王制存続論にまで及んでいたような記憶があります。調べてみると、「婦人画報」に渡邉みどり氏の2022年3月13日付記事がありました(元記事は『婦人画報』2013年8月号)。引用をお許しください。
王室の贅沢に国民から批判が噴出!王室コストの削減を決めたエリザベス女王

試練の’90年代。王室のダウンサイジングを決めた女王
思い返せば ’90年代はエリザベス女王にとって試練の連続であった。 
御存知の通り、この時期、子ども達の結婚生活が次々と暗礁に乗り上げるのを見ていた女王は心が重かった。特にチャールズ皇太子とダイアナ妃のスキャンダルは女王にとって頭痛の種だった。じつは1995年のクリスマス直前、女王はダイアナ妃とチャールズ皇太子に「離婚をするように」とそれぞれに手紙を書いた。ヴェールの奥に秘されていたはずの王室の恥部があれこれ暴露され、英国王室の権威を維持してゆくためには、未来の英国王夫婦に離婚を決断させるしかない、と悩みぬいた末の苦渋の決断だった。受け入れるもなにも、そうするしかない切羽詰まった状況にまで追い詰められたのだ。

その3年前にさかのぼる1992年にも、女王が「アンヌス・ホリビリス(ひどい年)」と呼んだ出来事があった。それは、女王45回目の結婚記念日当日11月20日に勃発した。 
エリザベス女王主宰の結婚45年を記念する祝賀の真最中に、バッキンガム宮殿から50〜60キロ離れたウィンザー城から出火。火元は修復作業中のランプだった。火はカーテンに燃え移り、ミサの控室であるセント・ジョージ・ホールのはりまで黒焦げになった。ウィンザー城焼失の被害総額はおよそ6000万ポンドと発表された。
不幸中の幸いは、たまたま滞在していた次男・アンドリュー王子が消火作業を指揮できたことだった。火災発生の折、夫のエディンバラ公は公務でアルゼンチンに出張中だった。知らせを受けた女王は、パーティの終了後、スカーフをかぶりレインコート姿で火災現場を見てまわった。アンドリュー王子によれば、「女王は完全にショック状態」だったらしい。女王はこの城をこよなく愛していた。

所得税を支払っていなかった女王に批判が噴出
火災直後、ウィンザー城修復の費用は国庫、つまり国民負担で支払うと発表があった。しかし国民世論は厳しい。『デイリー・メール』紙は「女王は、国民の多くが景気低迷で苦しんでいるとき、なぜウィンザー城の修復費を全額国民に負担させるのか。女王は所得税すら払っていないのに」と一面で問題提起をした。 
火事から4日後、女王は即位40年記念の昼食会で演説した。ウィンザー城の煙を吸い込んだことが原因で風邪を引いた女王の演説は原稿を読みながら悲しげな雰囲気をたたえていた。演説で女王は国民からの批判に対し、「近々税金を払いましょう」と意思表示をしたのだった。しかし、国民はそんなことでは納得しない。
『デイリー・ミラー』の社説はこう述べた。
「我々は女王に同情する。しかし、国民のほとんどが苦しんでいるのも事実だ。今年はひどい年だったという人は多い。収入を得る手段を失ったり、住んでいた家から追い出されたりした。女王は所得に対して税金を払うべきである。さらに、王室経費から支払いを受ける人数はもっと少なくてもいいだろう〈以下略〉」 
火災から6日後の11月26日メージャー首相は、
「女王と皇太子から所得税の支払い申し込みがあった」
と下院議会で発表した。ついでに女王は王室メンバーの王室経費を返上する考えであるとも伝えた。アン王女、アンドリュー王子、エドワード王子、マーガレット王女の経費が一切返上されたのである。
 

女王が国民の批判をかわす目的で所得税を支払うことを決めたのは、「王室ダウンサイズ」への第一歩であった。 
1993年初頭に発表された『ギャラップ』の世論調査によれば「王室メンバーの多くが贅沢でご機嫌な暮らしをしている」と5人に4人が回答、つまり「国民の80%が呆れている」という結果が出た。それなのに当時の王室メンバーは国民の鋭い視線に気が付いていなかった。
この時、王室は初めてて経済状況を明かすことを余儀なくされ、それまで秘していた年間経費の約5000万ポンド(95億円)の使途について情報公開せざるを得なくなった。王室予算のうち、女王個人に充てられた790万ポンド(約15億円)、夫のエディンバラ公と母君クイーンマザーがそれぞれ50万ポンド(約9千500万円)、宮殿の維持費などには204万ポンド(約2億2千万円)が充てられていたことが初めて国民に公開されたのだ。
<以下略>

 このあと、エリザベス女王は、火災のあったウィンザー城の修復費用を賄うために、バッキンガム宮殿の公開を打ち出したほか、王室専用列車の廃止、王室専用ヨット(ブリタニア号)の売却、王室専用ジェット機廃止など、果敢に費用削減に取り組み、「金食い虫」と揶揄された王室メンバーの生活を、女王自らの手で改革したことで、2000年代以降の人気の回復につなげた、とのこと。この90年代があったればこその「今日」だったことがわかります。

 日本の皇室関係者も、国民からの視線に同じく細心の注意を払っているでしょう。ある意味、「血の優位」で特権身分に座る者たちの象徴的存在が天皇家です。国民の不信を招かないよう、華美にならず、慎ましくあることは上皇の代からも徹底されています。
 しかし、皇室ほどに注意を払えない(払う気がない)のが、政界の「サラブレッド」たちです。その最たる存在が亡くなった安倍晋三氏でしょう。来週「国葬儀」が予定されていますが、安倍氏の場合、現職の総理大臣でもありませんし、エリザベス女王とは立場が違いますが、その遺産(純粋に資産のみ)については、公人の第一人者の立場にあった者として、相応の調査が必要ではないかと思います。何と言っても、安倍氏の近くにいて、多大なる影響力を保持してきた森喜朗氏に、今五輪汚職の捜査が及んでいます。安倍氏がまったく無縁とは思われません。
 エリザベス女王国葬が「最悪」の1990年代を忘却させたように、安倍氏の「国葬儀」も過去を押し流すのは目に見えています。


 



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