ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「#わたしも投票します」

 著名な芸能人が衆院選への投票を呼びかけている動画――非常によい企画だと思う。小生もテレビで見た。最初は若い芸能人たちが同世代に呼びかける内容かと思っていたら、そうではなかった。誰とは言わないが、若干「老世代」の方に近いか、足を踏み入れているような方も見受けられる(笑)。

www.youtube.com

 小生たちの属する「老世代」に比べ、若い世代の投票率が低い*と話題にされることが増えていて、確かに数字上は低いのかも知れないが、そもそも日本全体の投票率自体が低いのだから、「世代の差」なるものを繰り返し嘆いているより、こうした取り組みにかかわる方がよほど前向きで意義がある。

* 総務省によれば、4年前の前回の衆議院議員選挙の投票率は、10歳代が40.49%、20歳代が33.85%、30歳代が44.75%…。全年代を通じた投票率は53.68%。
 2年前の参議院議員選挙では、10歳代が32.28%、20歳代が30.96%、30歳代が38.78%…。全年代を通じた投票率は48.80%

総務省|国政選挙の年代別投票率の推移について

 ところが、この動画に対する反響の一部には嫌な気持ちにさせられる。リテラの10月24日付の記事より。

菅田将暉ら「投票呼びかけ動画」参加のローラに「日本国籍なのか」「参政権あるのか」と差別バッシング! 作家の柳美里にも|LITERA/リテラ

 菅田将暉二階堂ふみら芸能人が衆院選への投票を呼びかける動画が大きな話題になっている。
 コムアイ渡辺謙秋元才加など以前から、政権批判も含め政治問題に積極的に発言してきた人だけでなく、これまで目立った政治的発言がなく政治とは無縁な印象を持たれていた菅田将暉や橋本環奈などのメジャーな芸能人たちの呼びかけには大きなインパクトがあり、テレビや新聞でも大きく取り上げられている。低投票率が問題になるなか、意義のあるアクションだろう。
 ところが、呼びかけ人の一人であるローラに対して一部でバッシングの声が上がっている。

〈ローラって投票権持ってんの?外国の方は政治に参加できませんけど?〉
〈著名人の選挙へ行こうの動画にいるローラ日本人でもない外国国籍の者が選挙に行くと嘘をつくな!〉
〈ローラは、参政権が有るのか?【内政干渉】〉
〈ローラ、選挙語ってるけど、日本で投票権あんのか…?〉
〈モデルのローラって、日本国籍なの? 投票権持っているってことは日本国籍なんだろうけど、なんか???〉
〈そもそもローラ、ロス在住でしょ! 本当に投票に行くの?〉
〈ローラって選挙権あるんだ…?? アメリカから帰ってきた??〉
〈ローラって 彼女、日本の選挙権あるの?差別するつもりはないけど生い立ちからみて限りなく外国籍っぽいし、しかも今アメリカ在住?カッコつけでいっちょかみされたくないんだけどなぁ〉

 とんでもない的はずれな攻撃としか言いようがない。まずアメリカ在住であることを問題にしている人がいるが、「在外選挙制度」によって国外に居住する人の選挙権行使の機会は保障されている。ただし、今回総理就任から解散までの期間が史上最短となったため、在外投票が間に合わないかもしれないという危惧がSNSで多数見られる。もし、投票できないとすれば、重大な問題だが、これは言うまでもなく岸田首相の問題であって、ローラになんの非もない。
 また「日本国籍じゃない」「選挙権あるのか」という反応も差別まるだしだ。ローラはバングラデシュ人の父と、ロシアと日本のクォーターである母との間に生まれ、幼少期の数年はバングラデシュで過ごしているが、生まれたのは日本でまた日本で長く育ち仕事もしてきた。プロフィールなどで国籍について言及はしていないが、日本国籍を有していても不思議ではない。
 何十年も前に日本国籍からアメリカ国籍になっている人を「日本人がノーベル賞」などと持ち上げていたくせに、なにを言っているのか。多様なバックグラウンドを持っているというだけで、反射的に「日本人じゃない」とか「選挙権あるの?」などとあげつらうのは、「純血主義」「ハーフ差別」以外の何ものでもないだろう。
……
 さらにいえば、仮にローラが外国籍で、今回の総選挙に選挙権がないとしても、投票を呼びかけることはなんらおかしなことではない。
 言うまでもなく、日本社会で生活しているのも、日本社会を支えているのも、日本国籍の人間だけではない。選挙権は労働や税金の多寡で決められるものではないが、多くの外国籍の人が日本で働き日本人と同じように納税もし、日本社会を支えている。
……
 日本国籍を有しない人が、自分に選挙権がないとしても、投票を呼びかけるのは何もおかしなことではないし、いやむしろ選挙権がないからこそ、選挙権のある人たちに「投票に行ってほしい」「○○に投票してほしい」と訴えるのは当然だろう。選挙に関しては、彼らにはそれ以外に方法がないのだから。
 俳優でモデルの水原希子は、インスタのストーリーズに、連日、投票を呼びかける画像を投稿している。若い世代に向け投票方法など解説する「選挙の教科書」や、パタゴニアの「私たちが本当に必要とするこれからの政府をつくる」「私たちの地球のために投票しよう」という呼びかけ。さらにイラストレーターやデザイナー、漫画家などがそれぞれ投票を呼びかけるポスターを制作した「#投票ポスター2021」からも複数のポスター画像を投稿。その一つイラストレーターのサラ・ガリー氏のポスターには、「選挙に行こう 投票できない人たちのために」という言葉が書かれている。

 在日コリアンの作家・柳美里氏は、10月22日ツイッターでこう呼びかけた。
〈わたしは日本における参政権が無いので、投票をしたことがありません。
日本という国は日本国籍を有する人だけで構成されているわけではありません。
参政権を持っている人には、持っていない人の境遇や立場を、頭と心の片隅に置いておいていただけると、うれしいです。〉

 そして続けて出入国在留管理庁の「令和2年6月末現在における在留外国人数について」というデータをリツイート。今年6月末の在留者外国人数は、288万5904人だ。
 この柳氏のツイートにも、「それなら帰国すれば」などという差別リプがたくさんついている。
 昨年の「大阪都構想」をめぐる住民投票でも、大阪市民の5%に当たる150万人もの外国籍市民の投票権が認められないことが問題になった。また2018年には国連・人種差別撤廃委員会から在日コリアンに地方選挙権を認めるよう勧告を受けている。そもそもこのまま外国人参政権を一切認めないままでいいのかという問題もある。

……<略>

 排外感情のことはおくことにするが、柳さんが言うとおり、日本という国は日本国籍を有する人だけで構成されているわけではない。現状、衆院選挙で在留外国人288万人超の声を直接代弁する立候補者はいない。しかも、在留外国人は国政にかかわる一票を持たないが、国にしっかり税金はとられている(はず)。他方で、投票する権利をもちながら投票をしない日本国籍を有する人が半分くらい(約5千万人)いて、彼らもまた、どんなかたちか、税金を払っているだろう(おそらく)。

 これで選挙後、たとえば、膨らみきったオリンピックの莫大な負債に国の税金を注ぎ込むという決定がなされるのだろうか。他方、子ども食堂や弁当配付に感謝する外国人家庭の映像などを見て、個々の日本人の善意をかみしめるのだろうか。…

 四六時中そういうことを考えているわけにはいかないが、選挙の時は、自戒を込めて、想像力を働かせないといけないように思える。実際、小生の近くにも投票権をもたない「隣人」がいるのである。



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