ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

弁護士・指宿昭一さんの話

 米国務省は世界各国の人身売買に関する年次報告書で、人身売買との闘いに貢献した人々を「人身売買と闘うヒーロー」として表彰しているそうです。昨年7月1日に発表された2021年版報告書では、日本人弁護士の指宿昭一(いぶすき・しょういち)さんが選ばれ、「揺るぎない献身で外国人の人権を守り、日本と世界で問題の認知度を高めた」とその功績を讃えています(米民間団体ではなく国務省というのがちょっとひっかかりますが…)。
 指宿さんは、名古屋入管の収容施設で亡くなったスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんの遺族に付き添ってきた弁護士なので、世間でもよく知られた存在となりましたが、日本における外国人問題にずっと関わってきた人です。その指宿さんのインタヴュー記事を共感をもって読みました。2月17日付朝日新聞より一部引用させてください(聞き手は桜井泉記者)

ウィシュマさん、技能実習生…外国人の人権 「活動家弁護士」は闘う:朝日新聞デジタル

 ――なぜ、外国人の問題に関わるようになったのですか。
 「これも労働問題でした。弁護士になってすぐの2007年、岐阜県の縫製工場で働く中国人技能実習生の賃金未払い問題を引き受けました。時給300円の残業が深夜に及び、休みは月に1度あるかないか。旅券は取り上げられていました。実習という名の下で、労働者の権利が守られない。今も続くこの制度をすぐにやめるべきだと考えるようになったのは、この時です」

 ――昨年、政府が提出した出入国管理法の改正案については、早くから問題点を指摘し、反対の先頭に立ちました。結局、廃案に追い込まれましたが、問題の本質は何だったと考えますか。
 「法案は、国が外国人を敵視する姿勢の表れでした。政府は、様々な事情で送還を拒んでいる外国人を、強制送還の強行で減らそうと躍起になっています。今は、難民認定を申請すると、結論が出るまで送還されません。これを改め、3回目以降の申請では強制送還できるようにしようと、もくろみました。日本は、先進国の中で群をぬいて難民認定が厳しい。彼らが本国に送還されれば、命の危険にさらされます」

 ――スリランカ人のウィシュマさんをはじめ、入管施設では07年以降、17人の外国人が病気や自殺などで亡くなっています。なぜ、こうしたことがいつまでも続くのでしょうか。
 「入管施設は本来、在留資格がない外国人が出国するまでの短期間、待機するためのものです。しかし実際には、強制送還を望まない人たちを長期間、閉じ込めて精神的、肉体的に追い詰め、意思を変えさせようとする手段として、収容が使われてきました。しかも、入管当局は裁判所の審査を受けることなく、自由な裁量で外国人を無期限に収容できます。こうした現状では、収容された人の命や人権が、顧みられないのは当然です」
 「国は、守られるべき人権について、日本人と外国人とで違いがあるのが当たり前だ、と考えているのでしょう。1978年の『マクリーン事件』の判決で、最高裁は『外国人に対する憲法基本的人権の保障は、在留制度の枠内で与えられている』と述べています。在留資格制度が憲法よりも上にあり、在留資格のない外国人には、憲法の人権保障は適用されないということです。これは裁判所だけでなく、入国管理行政に染みついた考え方といえます」

 ――こうした入管行政の根底には何があるのでしょうか。
 「歴史を振り返ると、取り締まる側に外国人を敵視する見方が一貫してあるのが分かります。戦前戦中は、特別高等警察が、日本の植民地だった朝鮮の人たちを厳しく監視し、独立の動きを摘発しました。戦後になっても、入管行政の最大のターゲットは朝鮮人でした。密入国の取り締まりや治安維持のためなどとして、罪を犯していないのに指紋を採り、徹底して管理しました。在留資格のない外国人は、それだけで犯罪者のように扱われる。その考え方が、今も続いています」

 ――ウィシュマさん事件の最終報告は、入管職員の意識改革や医療体制の強化を打ち出しました。
 「それは解決策になりません。いきなり医療体制の強化といいますが、ウィシュマさんの容体が昨年2月に悪化したときに、すぐに入院させ点滴を打てばよかったのです。翌月、亡くなる直前には意識が弱まり体がひどく衰弱していたのだから、もっと早く救急車を呼ぶべきでした。職員が電話1本でできたことです。人の命よりも、帰国しないという本人の意思を変えさせ、強制送還することを重視している。それが問題なのです」
 「法務省の英訳はミニストリー・オブ・ジャスティス、つまり正義省です。法務省は自らこそが正義で、過ちは犯さないと思い込んでいる。問題が起きたら密室で処理してしまい、反省もしない。だから、いつまでも、収容施設で人命が失われていくわけです」

……
 ――日本社会は外国人問題に無関心と言われてきましたが、ウィシュマさんの死をきっかけに、若者をはじめ多くの市民が入管法改正に反対の声を上げました。社会は変化しているのでしょうか。
 「反対の世論が法案を廃案に追い込みました。とくに高校生や大学生ら若者が、市民団体などの集会で積極的に発言し、勇気づけられました」

 ――若い世代は社会的な問題に関心がないのでは。
 「そうは思いません。問題を知る機会がなかっただけです。最近の若者たちは、幼稚園や小学校のときから身近に外国にルーツがある友人がいる中で育っています。そうした友人が、ウィシュマさんのような事件の当事者になるかもしれない。そんなことを考えて反対運動に参加した人もいます」

 ――メディアの反応は鈍かったですが、勉強会や会見を通じて記者に繰り返し訴えましたね。
 「つい最近まで入管庁のレクチャーそのままの記事があふれ、人権の観点から入管の政策を批判する報道は少なかったですね。まるで戦争中のメディアが、大本営発表を垂れ流したのと同じです」
 「ジャーナリストとしての権力批判の精神はどこへ行ったのですか。もっと自分の目と足で外国人が置かれた現場を見て、当事者から話を聞いてほしい、と歯がゆかった。だから記者たちには問題の重要性を粘り強く訴え、オンラインで何度も勉強会を開きました。当事者の外国人や日本人の配偶者にも窮状を訴えてもらいました」
 「これまでも技能実習生の賃金不払い問題など、できるだけ記者会見を開いてきました。『日本で働きたくて来ているのでしょ。報道する価値はあるんですか』と記者から言われ、かちんと来たこともありました。メディアには社会の偏見や差別が反映されています。記者を説得できなければ、市民が理解してくれることもない。関心を持ってくれない、と嘆くだけでは、世の中は動かないことを身をもって知っています」

<以下略>

 これは入管とは関係ありませんが、前に何かの捜査で?警察官が来宅したことがありました(定型の調査があるのでお話をきかせてほしいとのことでしたが、職務質問のようでした)。本当に警察官なのか何か怪しい感じもありましたが、家主さんですかと尋ねられたので、父親が亡くなったことを告げると、では、この欄(父親の欄)は消させていただきますと言って、持っていた家族構成員を書いたカードを訂正し、順を追って、職業や現況のほか、項目に沿った質問や電話番号などの確認をしてきました。詳述はできませんが、小生が、職業や現況についての詳細は、自分にかかわる事件ならば話すけれども、そうでないなら差し控えたいと言うと、なかなか承服してくれません。関係のないところに迷惑がかかると嫌なのでと、二、三度くり返すと、しぶしぶ承知してくれましたが、こいつは怪しいぞ、何か隠しているかも、と思われたかもしれません。これが、外国の人だったら、ますます怪しいと思われたことでしょう。

 指宿さんの話に出てくる「外国人の敵視」で言えば、外国人の人権は守られないけれども日本人の人権は(日本人だから)守られるのか――もちろん程度の問題はありますし、それもひどい話だとは思いますが、日本人だからといって守ってもらえる保証は何もありません。レッテルを貼られたら終わりみたいな空気は世に蔓延しているのですから、その点では日本人も外国人も変わりないでしょう。むしろ、外国人の人権が守られていれば日本人の人権も守られる、という方が蓋然性は高いし、そうあるべきです。いずれ自分にも刃が向いてくるかもしれない。他人事と思うかどうかということだと思います。



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