ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「政治的無関心層」と投票権格差

 哲学系YouTuberのじゅんちゃんさんの動画を見ました。れいわ新撰組NHK党、最近では参政党といったいわゆる「新興政党」はカルト的要素を抱え込まざるをえない土壌があると言っています。「カルト」というと、私的にはどうしてもオウム真理教を思い起こしてしまいますが、しかし、支持者の一部が「信者」の姿に重なって見えるような場面は確かにあります。
 6月17日付の動画より一部概要を文字起こしし、引用させてください。
 
新興政党はなぜカルト化することが避けられないのか - YouTube

 れいわ、N国、参政党という3つの政党は、政策的にはまるで違う考え方をしていますが、ある一点においては共通しています。それは政治的無関心層への呼びかけです。自分たちはいかなる組織にも支えられていないというところに、自らの新しさ、政党としての魅力がある。逆に、既成政党はそれがあって既得権益の代弁者になるからダメなんだと。この組織軽視の姿勢は、地方組織(県連など)をつくらないというところにも現れています。組織ではなく、(既存の)組織から離れた層に訴えかけ、その力によって政治を変えていこうとする。
 これはもちろんマイナスばかりとも言えませんが、しかし、全体主義を生み出すリスクを常に併せもっています。大衆運動によって政治を変えていこうとするのは、全体主義の典型的症例の一つで、たとえば、アーレントは『全体主義の起原』で「ファシスト運動であれ、共産主義運動であれ(右でも左でも)、ヨーロッパの全体主義運動の興隆に特徴的な点は、これらの運動が、政治的には全く無関心だと思われていた大衆、他のすべての政党が相手にならないとあきらめてきた大衆からメンバーをかき集めたことである」と言っています。やはり政治的無関心層を引っ張り出してくるのは、「暴走」と紙一重の関係にある。利害団体・利益団体というのは、ある種の利害で集まっているから、行動原理はわかりやすいし、コントロールもしやすい。しかし、大衆運動は見えないところがある。利害に関係なく、何となく集まっているという人もいる。バラバラなので潜在的に暴発する可能性がある。これが局地的に現れたのがナチです。
 しかし、山本太郎立花隆ヒトラーみたいになるかというと、個人的にはそうは思いません。それは、一つには、日本の政治的無関心層が強固すぎて、彼らに働きかけたとしても、それほど票を上積みできないと予想される。……政治的無関心層というのは民主主義にはつきもので、投票率がもっと上がった方がいいという理想は僕ももっていますが、多くの国で考えても、全体の3割から4割は岩盤で、何を言っても関心がない。1952年の吉田内閣の時代でも、今国会が開かれていることを3割以上の人が知らないというのがあって、今の日本なら3割以上では済まないかも知れません。

 この後、労組や農協など、「中間団体」の取り込みに言及し、少なくとも「集票」のレベルではいかに中間団体の存在が大きいか、連合の切り崩し……どころか、まるごと取り込もうとする自民党のしたたかさにまで話が及び、こちらも興味深いのですが、割愛します。動画をご覧ください。

 しかし、思うに、事態はもはや政治的無関心層に投票を呼びかけるどころではないのかも知れません。彼らはその気になれば投票行動をする、いわば無党派層に連なる存在で、どうにかこうにかして関心を喚起できれば、投票率が上がるというのは、ひょっとしたら幻影かも知れないのです。たとえば、コロナ禍で困窮して路上生活を余儀なくされている人にとっては、政治的な関心があろうがなかろうが、実質的に投票にいくことは不可能かも知れません。まず、投票所の「整理券」など手元には届かないでしょう。「整理券」がなくとも投票が可能とはいえ、投票所に出向き不在者投票制を利用しようにも、住所を問われても答えようがない人に投票ができるのか(認められるのか)? あるいは、その日を暮らすことで精一杯の人が、与野党の対決などと言われて、どこまで心に響き、訴えかけられるものがあるのか。現実には、選挙の投票とは、投票所に行ける人――「毎日」は働かなくともよい人、「休日」が確保されている人、生活に少しは余裕があって、メディアを通じて政治に関するニュースを知ることができるなど、ある意味「恵まれた人々」の「特権」と化しているのではないか。そんな思いがするほどに今「格差」が広がっている、そのことに暗澹たる気持ちがしてきます。
物価高・コロナ影響? 無料弁当に過去最多の列 51歳初の路上生活:朝日新聞デジタル


 都内に住むという26歳の女性を取材した以下の朝日新聞の記事も痛切です。

2年前には貯金90万円あったのに 弁当配布に並ぶ26歳女性の願い [参院選2022]:朝日新聞デジタル

……22日には参院選が公示される見通しだ。ただ、女性は投票所に足を運ぶつもりはない。
 政治判断による緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出や解除が何度も繰り返された。「政治家が判断するたびに私たちの生活は大きく変わるのに、その重みをわかっているのかな。政治には期待できないと思っちゃうんです」
 いまの唯一の楽しみは、応援するユーチューバーコンビの動画を、居候しているアパートで視聴すること。コンビは歌手もしており、CDを買いたいけど我慢するしかない。
 将来は結婚も、出産もしたい。どういう社会になってほしいか――。そう問うと、女性は言った。
 「コロナ禍前のように週5日、働きたい。それだけです」

 まだ若いこの女性の人生がこの国の政治に左右されているのは間違いありません。この国の政治的無関心層がいくら「強固」で「岩盤」であるとしても、すべての人が最初から「無関心」だったわけではないでしょう。




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