ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

10万円給付という公約

 自民党の総裁選が終われば総選挙がやってくる。10月か、11月…? そのときコロナ感染はどうなっているか。中にはもうGO TOに前のめりになっている人がいるという話も聞く。確かに第5波は8月20日頃をピークに下降線をたどっているように見える。が、喉元過ぎると常にこういうことを言い始める人々の頭の中には儲けやばら撒きのことしかないのだろうか?

 「ばら撒き」と言うと語弊があるが、衆院選の公約で、「10万円給付」を打ち出す政党が相次いでいる。立憲民主党、国民民主党公明党共産党…。しかし、その対象はというと、国民民主は全国民、公明が18歳以下、立民が「低所得者」、共産が「生活困窮者」と違いがある。

国民民主党「10万円給付」など重点政策を発表(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
公明 山口代表 “子どもに一律10万円給付を” コロナ長期化で | 新型コロナウイルス | NHKニュース
低所得世帯に1人10万円給付 立民、新型コロナ対策で緊急提言:時事ドットコム
困窮者に一律10万円給付 共産、衆院選の経済政策発表(時事通信) - Yahoo!ニュース

「10万円」という額が、そもそも「適正」なのかどうか、単に前例にならっただけでない金額的根拠も是非示してもらいたいと思うが、それ以上に気になるのが、その「対象」(限定の仕方)だ。特に、立民と共産の「低所得世帯」「生活困窮者」という範疇、というか、線引き。現に困っている人たちの立場に立って支援しなければならないという気持ちはよくわかる。しかし、この範疇を連呼するのは政治的に言ってあまり得策ではない気がする。そう呼ばれる側からすると、お金が支給されることは十分ありがたいし、実際に必要でもあるのだが、何か素直に喜べないものを感じる人がいるということ。つまりは、プライドという琴線に触れる話なのだ。

 社会学者の西澤晃彦氏はかつてこう書いていた。

 貧困という体験は、それぞれの意識・無意識、ふるまい、生活、取り結ばれる関係、そして思想に刻印される。そのような刻印は、それぞれがその体験を重ね合わせることによって文化として現実化する。だが、この60年以上の時間は、そうした共有の機会が狭められていく過程であった。
 …貧困という体験が、場を共有する人々の中で隠しきれないものとして相互に示されることによって、共感を生み交流を作り出し、その結果として文化を結晶させることはあったし、これからもあるだろう。近現代の時空間においては、貧困体験は「恥ずかしい」「隠したい」「忘れたい」ことであり続けてきたし、それもまた当面の間は変わらないかも知れない。それゆえに、共感や交流といっても、できれば触れられたくないことを抱えたままの接触であるので、どこか距離をおいてなされるものにならざるを得ないかもしれない。

<中略>
 現代社会は、あまりに個人化され「自立すること」が至上の価値となってしまっており、しかもそれは貧困層を含め全域的に浸透している。…経済的に「自立」が困難になった人々の貧困状態は、能力の欠如と怠惰によって説明づけられ、悪の烙印が押されることすらある。それに対して、一般的傾向に従って十分に個人化された貧者も、滑らかにそのような貧困認識を受け入れてしまうところがある。それゆえ、近現代の多くの貧者は、強力な自己否定の感情を伴って貧困を体験している。
……
 自責の感情に浸され貧困の恥辱から身をよじって逃れるために、彼ら彼女らは、自分自身がより自立した存在であることを示す何かを見い出そう、あるいは作り出そうと試みる。それぞれが超えてならない「一線」を設けて、それを自覚しつつ振る舞おうとする。たとえば、野宿者に見られた営みをいくつかあげれば、炊き出しの列に並ぶことをあえて拒絶してそれを自立の証にする、アルミ缶を集めて売るという割りの悪い仕事を続けつつ絶対に飲食店やコンビニエンスストアのごみには手を出さないと誓う、そんな風に「自立した私」の構築が追求されるのである。

<以下略>
西澤晃彦『貧困と社会』、2015年。167-180頁。)

 格好付けて研究者の文章を引用したが、お金持ちに肩入れしたりシンパシーを感じる人でなければ、こういう心情(信条!)は容易に想像できる話だと思う。

 近づく衆院選の票集めではなく、心底経済的支援が必要だと思うなら、まず国民全員一律給付である。その後、「コロナ対策特別措置」という名目で当座支援が必要ではなかった人から税徴収(回収)すればいい話だ。ことさら「貧困者のため」「困窮者のため」とうたった給付策が、逆に、貧困者や困窮者から敬遠されたら、片思いの悲劇である。

 枝野さん、志位さん、政権交代するなら、そういうセンスが必要だと申し上げたい。是非お考え合わせいただきたいと思う。




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