ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「大人になったらなりたいもの」

 第一生命保険が全国の小・中・高校生(合計 3,000 人)を対象に行った「大人になったらなりたいもの」の調査結果を公表した。
 比較のために中学生男女の上位を並べてみる。

https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2020_102.pdf

  <女 子>        <男 子>
 ①会社員         ①会社員
 ➁公務員         ➁ICT(情報通信技術)専門家
 ③看護師         ③公務員
 ④パティシエ       ④You-Tuber/動画投稿者
 ⑤教師/教員       ⑤ゲーム制作 


 学校に勤めていた頃、生徒に「職業適性検査」なるものをしていて、その当時も希望する職業に「会社員」や公務員と答える生徒が増えているなという気はしていた(41人のクラスで7,8人が「公務員」と答えていたときのことを覚えている。「会社員」というのも多かったように思うが数字はわからない)。それにしても、高校生の2~3割が男女を問わず「会社員」志望というのはともかく、小学生男子の1位が「会社員」でサッカー選手よりも多いというのは少々驚きである。


 他方、OECD経済協力開発機構)が2020年1月、PICA(国際学習到達度調査)に参加した国の15歳の子どもの将来の職業願望(30歳で就きたい職業)について報告したものがある。それによると、2018年の上位は……

  <女 子>        <男 子>
 ①医師          ①エンジニア
 ➁教師          ➁経営者
 ③経営者         ③医師
 ④弁護士         ④ITエンジニア/プログラマー
 ⑤看護師・助産     ⑤スポーツ選手 

デジタル時代の子どもたちの職業願望(OECD:2020年4月)|労働政策研究・研修機構(JILPT)



 そもそも「会社員」というのは「職業」の一つというよりも雇用のかたちを表すものなので、日本の調査では「選択肢」となっていても、OECDの調査ではおそらく「カテゴリー」自体がなく、ここにも日本的「特殊」を見出せるのではないか。この疑念を、ライターの窪田順生(まさき)氏が次のように述べている。以下、部分引用の要約を付す。

なぜ会社員が「人気職業」1位に?社畜大国ニッポンをつくった学校教育の罪 | 情報戦の裏側 | ダイヤモンド・オンライン

 「なりたい職業」として「ゲーム制作」、「ITエンジニア/プログラマー」、「鉄道の運転士」などが並んでいるが、これらは業種を示すものであり、雇用形態としては「会社員」に属する人も多いはずだ。
 フリーランスが多いような印象のある「eスポーツ選手」「YouTuber/動画投稿者」にしても、「会社員」という立場でたずさわっている人はかなり増えている。また、「医師」も開業医ならば経営者だが、病院の勤務医などは「会社員」と言えなくもない。
 つまり、このアンケートに並べられている職業は、一部を除けば、ほとんどが「会社員」という雇用形態でくくれてしまう。にもかかわらず、これらとは別に「なりたいもの」として「会社員」というジャンルを設けている。かなり細かな職業が並べられている中、なぜか1つだけ雇用形態が紛れ込んで、しかもそれがダントツ1位になっているのだ。
 これはアンケートの設問を設定した第一生命を批判しているわけではなく、みなさんもアンケートや調査などに協力をした際に、「あなたの職業はなんですか?」という設問で、「会社員」というざっくりとした選択肢を目にしたことが、一度はあるはずだ。
 つまり「会社員=職業」と捉えるカルチャーは、我々日本人が知らぬ間に頭に刷り込まれている「常識」のようなものだ。今回の第一生命の調査は1989年に始まって、今年で32回を迎える大変歴史のあるものなので、そんな「日本人の常識」を忠実に反映してきただけに過ぎない。
 なぜ我々の社会では「会社員」が職業のような扱いになってしまったのか。

 その原因を窪田氏は日本の学校教育に求める。氏の所論を乱暴にまとめれば、学校で、個性や多様性を徹底的に潰し、組織に服従することが人の道という「集団主義教育」を延々と続ける「社畜スパイラル」によって、子どもたちが「会社員」という組織人になることが人生の目標になるよう仕向けられたとしても不思議ではない、というのだ。「バカバカしい妄想だ」とまでは言わないが、逆に言うと、7~8割の子どもが「会社員」を選んでいないのだ(実際の雇用形態は多くが会社員なのに……)。この事実をふまえ、より細かな検証と論証を望みたい。

 第一生命の調査では、さらに「選んだ職業になりたい理由」も尋ねていて、自由回答ではないが、「好きだから」「誰かの役に立ちたいから」「収入が良さそうだから」などが上位に並んでいる。もちろん、これだけでは、「会社員」になりたいという回答との相関が不明だ。
 「会社員」になりたいと答えた子どもたちが、具体的に「会社員」として何をしたいと思うのか、自分が「会社員」として働く姿にどういうイメージをもっているのかを問うてみたい気がする。何と答えるだろうか。小生の経験上は、「何となく」とか「そこまではまだ」と答えるような気がする。このコロナ禍に、子どもたちは「会社員」である親のリモート・ワークの様子を間近で見ていただろうが、外面的な作業はともかく、親がしている仕事の中身まではなかなかわからないものだろう。「会社員」という回答は、私企業か否かの違いだけで「公務員」というのと本質的に変わらないのではないかと思う。




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