ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

雨宮処凛さんの話

 作家の雨宮処凛さんが先週末のデモクラシータイムスに出演していた。初出演ということだが、「反貧困ネットワーク」の世話人をつとめ、「社会的弱者」と直に接する立場から、このコロナ禍の「直撃」を受けている人々の声をいろいろと届けてくれていた。以下に、彼女の発言だけ抜き書きしてみる。ちなみに、他の出演者は、ジャーナリストの北丸雄二さん、新聞記者の望月衣塑子さん。司会は鈴木耕さん。

https://www.youtube.com/watch?v=_QJXeDkWCZw&t=2s


 この年末年始、困窮者支援の中で会った人たちの中に、自分で宿泊施設をやっている人がいて、外国人をターゲットにしてたから毎月マイナスがものすごく出ている。けれども、オリンピックやるんだったら続けようかなと、すごく悩んでいる人がいるんです。オリンピックをやる、やらないで、すごく左右される人がいるので、本当に早く決めてほしいと思うんです。私は厳しい、無理かなと思ってるんですけど、それならそれで、早く決めれば決めるほど、「傷」が浅くて済むのに、その決断が先延ばしにされているのが「生殺し」みたいだと、そういう声を聞きますね。


 私も「年越しおとな食堂」というところに、1月1日と3日、出てたんですけど、3日の後半は外国人の人が大半でしたね。詳しいデータはないんですけど、私が3日、10人くらい相談を受けたんですけど、後半6人は全員外国人で、エチオピアとかナイジェリアとか、ヴェトナム、イランとか……。私が会った人の中に難民申請中の人がいて、難民申請の仮放免だから就労は禁止されているけど、彼らはセーフティーネット生活保護とかの対象にならないから、もうどうにもならない。で、そういう人はコロナ以前から生活は苦しいわけで、クルド人だったらクルド・コミュニティだとか、いろいろなコミュニティで就労資格のある人が働いて支えるという体制ができていたらしいんですけど、それがコロナでどこの現場も一気に潰れて、働ける人の仕事もなくなってしまって、もう支えきれない。なので、去年の11月1日、川口駅の前でクルド人たちの相談会をやったら300人くらい来ましたね。所持金が中央値で確か2,000円とかで、それは11月の話で、私が1月3日に会った外国人の人は所持金ゼロが大半で、ほとんどが1,000円以下でした。6畳一間に6人住んで、全員外国人、アフガン、イラン、………。そういうかなり過酷な状況でしたね。


…………大みそかに池袋で臨時相談会をやって、1月1日と3日がおとな食堂、年末年始の6日間、どこかで相談会をやってる体制をつくろうということでやってきたんですけ。コロナ相談むらの方は344人来たんですけど、うち61人が女性だったんですね。これ18%です。(12年前のリーマンショックのときの)年越し派遣村のときは6日間で505人来て女性は5人だけだったんです。1%以下ですよね。コロナ禍が始まってからとにかく女性からのSOSがすごく多いんです。よくよく考えてみると、コロナ禍の直撃は最初はサービス業だったので、飲食店とか、旅行会社の添乗員の方とか、観光の会社とか、販売……。百貨店とかデパートとかみんな休みになった、そういうところの女性をまず直撃した。リーマンショックのときの年越し派遣村は、製造業派遣の中高年齢層の男性が中心だったけど、今回は女性、風俗業とかキャバクラとか……。私は貧困問題にかかわって15年になるんですけど、風俗、キャバクラの人から相談が来たことはなかったんですね。今まで、こっちに来なかった、自分は「貧困」だと思ってなかった人たちからたくさん相談が来ています。あと住宅ローンを組んでた人が払えないという相談を去年からけっこう受けていて、それも初めてですね。今まで私が受けていた住宅の相談は、住宅がないというのと家賃を払えないというので、住宅ローンを組める正社員の「安定層」はある意味貧困とは関係がなかったので、そういう今まで関係がなかった層の人たちがどんどん来ているというのに驚いています。


 私たちが出会える人たちは、(ネットで)検索して支援団体があるということを発見してメールをしてくれた人たちなので、困窮している人全体の数パーセント以下だと思うんですね。もちろん男性でも、路上生活か自殺かとすごく悩んだという人もいて、SOSを出している人は、アパート追い出されてホームレスになって荷物を全部持って出たけど、もう生きられないと思って、身分証明書も全部処分して、それでも死にきれなくて連絡をくれた人がいるんですね。男性の場合も女性の場合も、どちらも抵抗あると思うんですけど、女性の場合だと、これは推測ですけど、路上に行く前に命を絶ってるケースがあるかも知れないと思います。たとえば、去年の10月だと、女性の自殺者が8割以上増えているんですよね。そういう中には非正規女性の困窮があるんではと思いますね。


(扶養照会について)たとえば生活保護を受けようと役所に行ったとします。申請をします。すると、私の親とか兄弟に「あなたの子どもや兄弟が申請に来てるんですけど、面倒を見ることはできないか」という手紙が行くんですね。それが「扶養照会」というんですけど、そういうふうに家族に知られるのが嫌だから、生活保護を受けたくないという人がすごく多くて。今回の年末年始の相談会でも、家がない、所持金10何円で収入のあてもない、コロナで仕事もなくなって、見つかったとしても給料が入るのがだいぶ先、ということでまず生活保護を受けられれば、それでアパートに転宅できるし、住所があれば仕事も見つかりやすくなるんで。生活保護をつかわせたいわけじゃないんですけど、住まいがないと生活保護しかつかえる制度がないんですね、貸付金とかもほとんどつかえないので。でも、それを勧めても、「自分は生活保護だけは絶対嫌だ、そこまで落ちぶれてない」みたいな抵抗がある。年越し派遣村のときとは比べものにならないくらいそういうのが強いんですね。だから、貧困と無縁だった人、そういう人の中には元経営者のような人もいるんです。今、野宿している人の中に、去年、2年前にはバリバリ稼いでいたイベント関係の会社の社長とか、飲食店の社長とか、そういう人たちがこの1年で借金まみれになって路上に投げ出されてるんですね。そういう人たちは、自分が困窮化していくスピードに気持ちが追い付いてない。会社を立て直したいから事業向けの貸付金を紹介してくれ、生活保護とは関係ないから、と言うんですけど、でも野宿してるんですよね。……困窮者支援の団体が年末年始にアンケートをとったんですが、165人のうち、生活保護を利用していない人が128人いて、何で利用してないかと聞いたら、34%以上の人が家族に知られるのが嫌だからと答えているんですね。やっぱり、「扶養照会」がすごく壁になっている。「扶養照会」がどれだけ実績があるのかを調べると、いろいろな区のデータがあるんですけど、全部1%以下なんですね。「あなたの息子さんが生活保護の申請に来てますが、支援できませんか」といって「できます」と答えたのが年間でゼロ件とか。2019年の足立区だと新規で2,000件以上の申請があって、何らかの援助ができますという回答が7件。だから、0.3%以下で、これ1%未満なんだから、事務作業の大変さを考えたらやらない方がいい。だから、「扶養照会」をやることによって生活保護を受けさせないような作用になっている……。だから、福祉を利用することによって、家族との関係を断ち切るような……。実際それがきっかけで縁を切られたような人も多いですし……。コロナのあいだだけでも「扶養照会」やめてくれということはずっと政府交渉で言ってるんですね。それでも止めてない……。


 去年の3月にドイツの大臣がコロナ禍に生活保護を受けてくださいみたいなことを訴えたんですね。安心して、恥ずかしがらずに……。それすごく大きくて、日本でもそういう呼びかけが厚生労働大臣とかから、「それはあなたの権利だから」とあったら、ここまで自殺者が増えてなかったんじゃないかと。ところが、同じ頃に日本でやっていたのはお肉券とかお魚券なんですね。すごいなと思って。かたや百万世帯の人が困窮するだろうと、どんどん審査もきびしくなく(支援を)やりますよって言ってるのに、こっちでは、お肉券、お魚券、身内の利権みたいな……。この落差に愕然として。それ以来、一年近く、政治家から安心する言葉を一回も聞いてないです。ずっと綱渡りな感じがしていて、たとえば、住居確保給付金というのも、去年の年末で切れるはずだったんですね。それが12月になってからやっと3カ月延びることになって、もっと早めにあと半年延びるとかだったらいろいろと生活の設計とかができるだろうに、いつもぎりぎりになって発表されて、来月もう家賃払えないと追い詰められている人、すごくたくさんいるのに、安心させようとするメッセージが全くない。ずーっと精神的に虐待されてるような、弄ばれてるような、そんな感じがしますね。


 昨日1月27日の参議院予算委員会で、国民一律の給付はともかく、せめて困窮者支援のための給付を……と「政府の施策が届いていないことがあれば、総理の責任で即刻届けていただくお約束をいただけますか?」と問われたスガ首相、何と「いずれにしろ政府には最終的には生活保護という仕組みも、最終的にですよ、そういうセーフティーネットをつくっていくことも大事だ」と答えた。(!)
 「最終的?」——何やら「最終的解決」という忌まわしい言葉を連想させる。“スガーリン“ はご存じないのかもしれないが……。



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