ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「国が国民を守らない」——それが何か?

 「石橋湛山賞」というのがある。東洋経済新報社の後援で1980年から始まり、人文・社会科学分野の学術本や論文から選ばれるものらしい。今年は山本章子氏(琉球大学)の『日米地位協定――在日米軍と「同盟」の70年』(中央公論新社・新書 2019年)が選ばれた。10月23日に授賞式が行われ、山本氏があいさつで述べたコメントを琉球大学がホームページで掲載することになったが、その際、文言の一部修正を求めていたことがわかった。その言葉とは

国が国民を守らないので、地方自治体が住民を守るためになけなしの知恵を絞って苦心せねばならない、日米地位協定の現状が改善されることを願って、沖縄で研究を続けていきたい」

の冒頭部分だという。山本氏によると、大学側は「国に対する表現が強すぎる」として変更を求めてきたとのこと。

 以下、「BuzzFeed」11月13日付記事(籏智 広太 Kota Hatachi 氏の署名記事)より引用する。
 ※太字は当方が施したもの。

【独自】国に対して批判的? 琉球大、日米地位協定めぐる准教授コメントの一部を修正要請

日米地位協定に関する著書で「石橋湛山賞」を受賞した琉球大学の山本章子准教授が授賞式で述べたコメントについて、大学側が同大ホームページに掲載する前に、国に対して批判的な文言の一部の修正を求めていたことが、BuzzFeed Newsの取材でわかった。
山本准教授は「研究には問題提起をする役割がある。忖度するべきではない」と批判しているが、大学側は「掲載前の記事については答えられない」としている。

日米地位協定は、1960年に日米安保条約を改定した際に日米間で結ばれた。その運用においては、在日米軍による騒音問題、事件事故が起きた際に日本側に捜査権がない、さらには駐留経費「思いやり予算」の過負担にもつながっていると指摘される。
山本准教授は著書『日米地位協定在日米軍と「同盟」の70年ー』(中公新書)で、時に「過剰な優遇の根源」ともされる同協定について、その歴史や、非公開の「合意議事録」に基づいた運用の実態から、在日米軍の「地位」の実態を紐解いた。

<中略>

「表現が強すぎる」
授賞式は10月23日に開かれたが、この際のコメントについて、琉球大学側は11月に入り、ホームページへの記事の記載を要望。山本准教授自身が、以下のように原稿をまとめた。
授賞式で、「国が国民を守らないので、地方自治体が住民を守るためになけなしの知恵を絞って苦心せねばならない、日米地位協定の現状が改善されることを願って、沖縄で研究を続けていきたい」と述べました。
山本准教授によると、大学側はこの「国が国民を守らない」というコメントについて、「国に対する表現が強すぎる」と、批判的な点を正すよう求めてきたという。BuzzFeed Newsの取材に応じた山本准教授は、こう語る。
「そもそも本の趣旨からして、国の姿勢に批判的です。そこからも外れますし、授賞式で述べ、その後新聞にも掲載されたコメントを変えるのはおかしいと感じています」
琉球大学日米地位協定の問題の当事者です。大学の上空には毎日米軍機が飛んでいて、授業やテストに支障が出るなど騒音被害を受けている。そのような立場にあって、『国に批判的』と忖度するのは、あるべき姿ではないのではないでしょうか」

「忖度」が広がると…
山本准教授は、沖縄の基地問題に関係した研究をすることは、所属する学会のメンバーなどからも「研究者なら客観中立的なテーマにすべきではないか、と助言されることがあります」と語る。
「こうしたことを言う人たちは、決して政府側の人でも、代弁者でもありません。今回の一件も同様ですが、政府に対する忖度が学術の分野においても広がっているのは、怖いですよね」
「そもそも研究というものには、政府の決定に一定のチェックを果たす機能があると感じています。最終的に政治がどう動くかは有権者が判断するものですが、間違っていることに対し、きちんと問題提起する役割がある」
「批判的に声をあげていかないと問題点は見えなくなってしまう。政策が歪み、国民が研究や専門家の見解をヒントに、疑問を持つことすらできなくなってしまいます。このような観点からしても、大学自治の観点からしても、今回の大学側の対応はおかしいのではないでしょうか」

BuzzFeed Newsは11月11日に大学側に取材を申し込んだが、返答はなかった。13日になると、大学側は山本准教授に対し、新たな修正案を提示。「国が国民を守らない」については原文のままで、語尾を「述べました」から「述べられたとのことです」に変える、というものだ。
山本准教授はこれらの対応についても「語尾を変えることで、大学側に責任がないようにしている。何か問題が起きた時に、所属する教員を守らないという姿勢は、大学として非常に残念」と批判している。
その後、大学側は13日午後になって電話での取材に応じたが、大学ホームページに「掲載前である」ことを理由にコメントを拒否した。


 日本学術会議の任命問題にしても、中曽根葬儀の弔意通達にしても、それらには「すそ野」があるというか、根が張っているというか、こういうのを繰り返しながら「歯車」がさらに回転していくことを危惧させる。総理大臣が、いくら違法行為をしようが、論理破綻の説明を繰り返すだけで動こうとせず、事態が打開されないのは、こういう「空気」があるからだろう。
 
 「何か問題が起きた時に、所属する教員を守らない」と言われてしまう大学。「国民を守らない」と言われてしまう国。
で? それが何か? —— と、「受け流す」のではなく「真に受けて怒りだす」(それを怖れよ)というのが今の時代ということらしい。
 まっ、「怒りだす」とすれば 、それはまさしく“真実” ということだろうが……。





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