ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

二つの「勝利演説」

 アメリカの大統領選挙で当選を確実にしたジョー・バイデンが11月7日夜(日本時間では翌8日午前)、地元のデラウェア州ウィルミントンで演説した。

 こういうときに人々に何を訴えるか―—人々が言ってほしいと思っていることを言葉に乗せられるかどうか、それこそ政治センスが問われる。ライターは別にいるにしても、次期大統領として発信する言葉だ。同じ言葉であっても重さがちがう。……そんな思いをもちながら、バイデン氏の「勝利演説」を聞いた。

 以下、11月8日付「日本経済新聞」より。

「分断でなく結束めざす大統領に」バイデン氏勝利宣言全文 (写真=ゲッティ共同) :日本経済新聞


<前略>
……トランプ米大統領に投票した人々は今夜、落胆しているだろう。私自身も(大統領選への立候補で)2度撤退している。今度はお互いに機会を与えよう。暴言をやめて冷静になり、もう一度向き合い、双方の主張に耳を傾けるべきだ。前に進むために、互いを敵とみなすのはやめなければいけない。私たちは敵ではない。私たちは米国人だ。

 聖書は全てのことに季節が巡っていると教えてくれる。立て直し、稲穂を刈り取り、種をまき、傷を癒やす時だ。米国の傷を癒やす時が来た。
 今や選挙戦は終わった。人々の意志は何か。私たちの使命は何か。私は、米国民が私たちに、品位と公正の力を導くことを求めたと信じている。私たちの時代の大きな戦いのなかで、科学と希望の力を導くことを求めた。ウイルスを制御し、繁栄を築き、あなたたちの家族の健康を守るために戦う。
 この国の人種的平等を達成し、構造的な人種差別を根絶するために戦う。環境を守るために戦う。品位を回復し、民主主義を守り、この国のすべての人に公正な機会を与えるために戦う。

 <中略>
 私は誇り高き民主党員だが、米国の大統領として統治する。私に投票しなかった人々のためにも、私に投票した人々に対するのと同じように一生懸命働くつもりだ。
 この厳しい悪夢の時代に今ここで終わりを告げよう。民主党員と共和党員が互いの協力を拒否したのは、われわれの制御が及ばない不思議な力によるものではない。全ては決断であり、私たちの選択に尽きる。私たちは協力することを選択できる。
これは米国民から私たちに与えた使命だと確信している。彼らの利益のために協力することを望んでおり、それが私の選択だ。私は議会、民主党員、共和党員に対して、私と同じ選択をとることを呼びかけていく。

 米国の物語は、ゆっくりと着実に、チャンスを広げている。間違いをおかしてはならない。多くの夢はあまりにも長い間かなわなかった。私たちはこの約束を、人種や信仰、アイデンティティー、障害に関わらず、全ての人にとって現実のものにしなければならない。
米国は常に、私たちが何者なのか、何を目指しているのかという難しい選択を下した際に転換点を迎えてきた。これまでのリンカーンルーズベルトケネディ、そしてオバマといった歴代大統領が証明している。「Yes We Can(われわれはできる)」。
 私たちはいま、転換点に立っている。絶望に打ち勝ち、繁栄と目的のある国を築くチャンスがあり、それができると知っている。私たちは、米国の魂を取り戻さなければならない。米国は、天使と悪魔の絶え間ない戦いによって形作られてきた。今夜、私たちの天使が勝つ時がきた。全世界が米国に注目している。私たちが模範となって、導かなければならない。

 私は常に、米国を一言で定義できると信じてきた。「可能性」だ。米国では全ての人が夢をかなえる機会が与えられるべきだ。この国の可能性を信じ、常に先を見据えている。自由で公正な米国、尊厳と敬意を持って雇用を創り出す米国、がんやアルツハイマーなどの病気を治す米国、誰も置き去りにしない米国、決して諦めない米国に向かっていく。素晴らしい国で素晴らしい人々がいる。これが米国だ。私たちが力を合わせれば、不可能なことなどない。
 投票日までの最後の数日間、私と私の家族、そして亡くなった息子のボーにとって大きな意味を持つ賛美歌について考えていた。それは私自身を支える信念であり、米国も支えると信じている。今年、恐ろしいウイルスで愛する家族を失った人たちの慰めになるよう願う。私の心はあなた方一人ひとりに向けられている。この賛美歌があなたの慰めになることを祈る。
 「(賛美歌を引用して)神はあなたをワシの翼で持ち上げ、夜明けの吐息で支え、あなたを太陽のように輝かせ、そしてあなたを神の手のひらの上で抱きしめる」――。そして今、ともに「ワシの翼」で神と歴史が求める仕事をしよう。
 心を込め、しっかりとした足取りで、米国とお互いを信じ、国への愛と正義への渇望を持って、私たちが目指す国を作り上げよう。国は団結し、強くなり、そして癒やされる。子どもの頃、祖父に言われた。「ジョー、信念を貫け」。祖母が生きていたときは、「ジョー、信念を広めよ」と。米国に神のご加護を。神が私たちを守ってくださいますように。ありがとう。

(米州総局=白岩ひおな、野村優子、大島有美子)


 アメリカ大統領選とは関係ないが、昨日8日に新潟県三条市市長選挙も投開票が行われ、34歳の弁護士・滝沢亮氏が当選を果たしている。調べてみると、前の市長も2006年初当選時は同じ34歳なので、市民の間にこういう若い方に市政を託そうとする空気があるのかも知れない。

https://www.niikei.jp/45784/

 注目すべきは、滝沢氏の当選が決まった直後の挨拶である。記事によれば、

「私に投票してくださった方、対立候補の)名古屋氏に想いを託した方、投票なさらなかった方、三条市に住む全員の想い、気持ちを私の両肩に、そして小さな体に受け止めて、これからの4年間走り抜きます。皆様4年間サポートお願いいたします。」と、これからの意気込みと感謝を述べた。

 とのこと。

 これをバイデン演説と重ね合わるのは強引かもしれないが、二つの演説には今後の政治のトレンド(趨勢)が示されているように思える。一部の人々を優遇して利益誘導を図る政治は、過去にあっては、経済が右肩上がりだったから、まだ大目に見てもらえたかもしれない。しかし、今や国も地方も「パイ」は限られ、その中でやりくりしなければならない時代だ。あからさまな不公平や不公正を力づくで押し通すような政治を多くの人々は望んでいない。また、政治家も「一部」の代表ではなく、支持者・不支持者・その他を含めた「みんな」の代表である。政治は「向き」を変えなければならないはずだ(ずっと言われ続けてきたことだが……)。

 滝沢氏がどういう方なのかは知る由もないが、氏は世の空気を自身の言葉に自然な形で体現させたように思う。是非とも、有言実行を望む。そして、この国でも、こうした感覚をもった首長や議員があとに続いていくことを願う。




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