ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

スガ長男の総務官僚接待の件

 千葉県選出の小西洋之参議院議員は総務官僚から転じた人で、退官前には「総務省情報流通行政局衛星・地域放送課」の課長補佐を務めていて、今回のスガ長男(東北新社)による接待問題の当事者たちの中には当時の上司も含まれているという。2月22日放送の「ABEMA Prime」に出演した小西議員によれば、当事者たちは違反だと分かっていても断れなかった、それは相手がスガの息子だからで、東北新社もそれを見込んで長男に接待をさせていた節があるとのこと。断れば「左遷」(?)、受ければ「処分」覚悟……という一種のダブルバインドにおかれた官僚の心理をよく説明していると思う。同情はしないが…。

 小西議員の発言を拾ってみる。

「今の時代、誰もこんな接待は受けていない。しかし総理の長男の誘いは断れない。それが今の霞が関だ」総務官僚時代に放送行政にも携わった小西洋之議員 【ABEMA TIMES】
報道リアリティーショー#アベプラ【平日よる9時~生放送】 - 企画 - 総理長男からの接待は日常?元総務キャリア官僚「違反だと分かっていたはず」 | 【ABEMAビデオ】見逃した番組や話題のニュースが無料で視聴可能


 1998年に大蔵省接待汚職事件が起き、2011年(ママ 平成11年?=1999年)には国家公務員倫理法というのができて、供応接待は全面的に禁止され処分の対象となった。もちろん業界の方とは良い意味で仲良くするし、懇親会にも参加する。しかし全てを割り勘にするのがルールだし、度を越したものはダメだ。割り勘でも、一人1万円以上の場合は報告義務がある。だからお誘いをいただいた官僚は常に警戒する。例えば私もNHKさんの国会担当の方のお誘いを受け、事前に“絶対に割り勘ですよ”と申し上げていたのに、実際には“いや、今日は…”と言って聞かないということがあった。“法律に基づいて対応しますから”と言って職場に報告し、最終的には割り勘にした。そういうことは企業の皆さんも知っているはずだし、特に許認可事業である放送業界の人が知らないわけがない。

 ところが、“割り勘で”と言うと“なんだお前、俺の顔を潰すのか”というのが永田町的な感覚でもある。つまり菅総理の息子さんが奢ると言っているのに“割り勘で…”とは、官僚は言えない。後で半額を戻そうとしても、そういうことをする政治家の息子さんからのお声がけであれば、官僚としては断れない。かつての上司だからかばうわけではないが、今回名前が挙がった4人の幹部のうち、2人は私の元上司だ。能力的にも人間的にも本当に尊敬しているし、供応接待を自ら受けるはずはないと思う。しかし内閣人事局が強権的に人事権を振るっているし、菅総理総務大臣時代、私もいた放送政策課の筆頭課長を更迭もしている。そういうことをする政治家の息子さんからおのお声がけであれば、官僚としては断れない。そういう霞が関になってしまっているということだ。

 菅総理の息子さんでなければあり得ないという根拠は、総務省が22日に公表した資料からわかる。
 菅総理の息子さんは部長クラスの方だが、そうであれば総務省の最高幹部である審議官以上の官僚がサシで会うなんて、あり得ない。現時点での調査結果を見ると、名前が挙がっている4名がいる会の“長男率”は約80%だ。逆に、それ以外の会には25%くらい。つまり菅総理の息子さんは、まさに社長などが最高幹部に会うために使われていたと考えられる。……かつて私も担当した業界なのであえて言う。贈賄の罪に問われる危険もあるにも関わらずこのような供応接待を繰り返していたということは、何かがあるはずだ。はっきり言うが、東北新社および東北新社メディアサービス側も何のためにやっていたことなのか、説明する責任がある。

 名前の出ている官僚たちは、誇りを持って日本の行政を引っ張ろうと頑張っている立派な方々だ。自らそんな所に喜んで行く方はいらっしゃらないはずだし、無念で悔しい思いで供応接待に応じていたのだと思う。そういう方々を、ああいう場に落とし込んでしまった責任は重い。また、菅総理の息子さんは、菅総理総務大臣時代に政務秘書官も務めている。だから“別人格だ”と言う説明も、筋が通らないと私は思う。まさに第二次安倍政権以降でなければなかったような違法状態で、端的にこれは政治の責任だ。


 国会で武田総務大臣は「(放送)行政がゆがめられた事実は確認されていない」と答弁し、「利益供与」の事実が「立証」されなければ、関係者の処分だけしてこのまま流すつもりのようだ。共産党大門実紀史参議院議員は、

 武田大臣の「行政がゆがめられた事実は確認されてない」という発言は問題の本質を理解していない。企業が役人を接待する目的の第一は「情報収集」。利益供与の有無だけで判断すると見誤る。総務省幹部が総理の息子の企業だけ特別に「情報」提供していたことが問われている。
https://twitter.com/mikishi_daimon1/status/1364186234382295043

tweetしているが、文春が報じた音声記録にも、確かそういう場面があった。


 格好だけ処分しても、森発言や組織委員会と同じで、ニュースが「消費」されて終わりになってしまう。文春頼みの民主主義ではスキャンダルを越え出ていかないと思う。




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東京五輪の “損失”:中止 < 開催 ?

 2月21日付の当ブログの中で、D.アトキンソン

東京五輪が日本経済の起爆剤になるというのは俗説で、……数週間のイベントがGDP550兆円の日本経済に大きな影響を与えるはずがない。……重ねて言うが、東京五輪やっても、やらなくても、日本経済には中長期的にはさしたる影響はない。」

と述べていることを引いた。氏のその他の発言はごもっともと感じたが、この部分については、「やってもやらなくても、……さしたる影響がない」わけがないだろうと思った(今も思っているが、氏が言うように「俗説」に乗っているだけで確たる根拠があるわけではない)。

 中止したら損失が出るが、開催したら損失がない ―— そんなわけはない。何をベースに「損失」と判断するのかにもよるだろうが、ある試算によれば、中止した場合、損失は約4.5兆円、無観客開催の場合は約2.4兆円だという *。もうすでに数字が独り歩きしているが、「損失」とみなす範囲や期間がちがえば、この額は変わってくるはずだ。

* 2021年1月22日付の関西大学のプレスリリース記事に宮本勝浩氏(関西大学名誉教授)の試算がある。中止による経済的損失を4兆5,151億円、他方、無観客開催の損失は2兆4,133億円などとしている。

 組織委員会がこうした数字を気にしないはずがないが、しかし、中止した方が開催(無観客)するよりも「損失」が大きい、だから、やる、というような乱暴な話ではないだろう。

 日刊ゲンダイの2月20日付記事でもこの件がとりあげられているが、これを読むと、確かに中止した方が経済的損失は大きいかもしれないが、開催を強行した場合の実際の“損失” は、狭い意味での「経済」だけにとどまらないように思えてくる。

【東京五輪】五輪強行開催の損失は“中止で4.5兆円”超えの最悪シナリオ|日刊ゲンダイDIGITAL

……五輪中止ならば約4.5兆円の経済損失(関大名誉教授・宮本勝浩氏の試算)につながるともいわれており、五輪スポンサーの巨大メディアは連日のように、これを引き合いに出している。しかし、一連の報道に異を唱えるのは、スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏だ。
「都や、組織委は『アスリートファースト』と言っていますが、五輪は金稼ぎの道具になっている。金のために国民の命を危険にさらして開催するのは、国際社会において日本の立場をおとしめる行為ですよ。失う国際的な信用を修復させるのは、簡単なことではありません。これは数字に表れる経済損失よりもはるかに大きい損失です」

 強行開催することでむしろ、4.5兆円を上回る損失を被るというのだが、具体的にどんな損失が考えられるのか。
「私も東京五輪に関わっているので、公式回答では『やった方が良い』としか答えられませんが……」と、五輪と経済効果に詳しい専門家は匿名を条件にこう言った。
「経済効果として、五輪開催後の外国人観光客の増加が挙げられます。しかし、そもそもの大前提として『開催がきっかけで観光客が激増する』というわけではありません。まず、大会前には外国人観光客を受け入れる土壌の整備が不可欠です。そして、開催を通じていかに国際交流が大事なのかということを人々が共有し、『大会後も継続していこう』と観光地や地域みんなで努力する姿勢があって初めて、観光業における五輪のレガシーになるのです」

……東京五輪開催が決まった13年は約1000万人だった訪日外国人数が、18年には3000万人を突破。これは政府が当初、30年に実現目標としていた数字だ。増加の要因には格安航空会社の普及も含まれるが、外国人観光客を受け入れる現場の努力に下支えされてこそのものだ。
「観光業における経済効果の面で安心安全な大会を成功できるなら、五輪はやるに越したことはない。感染者を出さず可能な限り大会を盛り上げて『コロナ禍でもできるメガイベントのモデルケース』となれば、世界に向けた大きな宣伝につながるからです」(前出の専門家)

とはいえ、森前会長の言った「コロナがどういう形でも必ずやる」では、「安心安全」という大会運営の根幹が崩れかねない。五輪を強行開催し、選手たちから感染者が出たら、あるいは、開催後にコロナ感染者が増加したら国民感情はどうなるか。五輪が直接的な原因かは別として「やっぱり外国人が来たから」と思うはずだ。この専門家はそこから引き起こされる最悪のシナリオを憂慮している。
「インバウンド振興が潰れかねません。先ほど、『五輪後の努力も大事』と言いましたが、コロナ禍がひどくなった状況下で政府や都が観光事業を推し進めようとしても、骨組みである民意や現場の協力は得にくくなる。負のレガシーだけが残って観光立国の計画が停滞し、インバウンドの土壌が激減したら、本末転倒です。中長期的に見たら(五輪中止で試算される)4.5兆円よりもはるかに大きな経済損失を招く可能性があります。そもそも4.5兆円にしても、マクロ経済の視点で見ると、それほど大きな金額ではありません。『開催しないと日本崩壊』という論調も耳にしますが、まやかしです。損をする業界はごく限られています。コロナや経済などさまざまな側面がありますが、正直、今年は無理に開催しなくても……。どうしてもやるなら、無観客ですかね」

前出の谷口氏は「現状、外国では感染が拡大している地域もありますし、ワクチン確保の問題ひとつを取っても国同士の貧富の差が可視化されている。それなのに『自国だけ良ければ』と開催するのは身勝手すぎる考え方ではないでしょうか。五輪の存在意義ともかけ離れてしまう」と危惧する。


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森発言をめぐって 上野千鶴子さんの話

「Business Insider」にジャーナリストの浜田敬子さん社会学者の上野千鶴子さんにインタヴューをした記事があり、興味深く読んだ。企業組織のあり方に話が及んだ後半の多くは割愛し、オリンピック組織員会の森喜朗退任の件をはじめ、前半を中心にいくつか発言を拾ってみる(要約)。


森騒動とは何だったのか。上野千鶴子氏が語る「男性もイエローカードを出すべきだ」【前編】 | Business Insider Japan
上野千鶴子氏は組織をどう生き抜いたのか。孤立しないためにやった“根回し”【後編】 | Business Insider Japan


 (森発言と反響について)今回、胸に手をあててみると、自分にも思い当たることがある、という人は多かったのではないか。五輪組織委員会の女性理事たちは「わきまえている」という森さんの発言から、「#わきまえない女」というハッシュタグTwitterで広まった。男社会で生きていく中で、いつの間にか「わきまえ癖」を内面化してしまっていて、そのことを反省したという声もあるが、多くの女の人の怒りを呼び起こして、これだけ裾野が広がったと思う。

 報道などを見ていると、五輪組織委は本当に上意下達の集団だ。まず、女性は発言が長いということに証拠はないが、仮にこれが経験的事実だとしても、長くて何が悪いのか。民主主義というのは合意形成コストがかかるもので、議論になれば、発言が長くなるのは当たり前だ。
 さらに呆れたのが、引責辞任する人がさっさと根回しをして後任指名をし、指名された本人もやる気満々だったことだ。結局、組織的な意思決定プロセスを踏んでほしいと指摘されて白紙になったが、これは当たり前の指摘だ。
 もし、森さんの意向のままにことが進み、理事会などで承認されたら、今回の問題は再生産される。日本の組織文化を支えているホモソーシャル(男性同士の結びつきの強い社会)なボーイズクラブによる、根回しと忖度政治が再生産される、このことが実に見事に浮かび上がった。海外から非難されたことも含め、日本の常識は世界の非常識、おっさんの常識は女にとっての非常識ということが見える化したのはよかった。

 私は企業の方たちと話す中で、SDGsの17個のゴールの中で、ジェンダー平等の優先順位が低いという印象を持っている。日本では「男女平等」と言いたくないから「ダイバーシティ」という言葉に置き換えてごまかしているのではないかとしばしば思う。人口の半分いる人たちを、対等に仲間に入れていくことが男女平等の基本の「き」なのに。現状の組織文化を変えたくないという抵抗がすごく強いからだろうか。女性を活用した企業の業績が伸びたという実証データはたくさんあり、すでに効果は証明されているのに、なぜ抵抗するのかと考えると、男性たちにとって居心地のいい組織文化を変えたくないのだとしか解釈できない。

 例えばコロナ禍であぶりだされた人権問題が外国人実習生の問題で、あれを見たら、日本は人権後進国だと思われても仕方ない。それを放置してきたのが日本の政治だ。だから、人権では動かないと。でも、経済合理性ですら動かないとしたら、一体何なのかと。

 ある組織が変わろうとするときには、変わらなければという内発的な動機付けが必要だ。外圧では変わらない。その内発的な動機付けは、危機感によってしか生まれない。だから日本の企業にはまだ危機意識が足りないのだと思う。出口(治明 * 立命館アジア太平洋大学学長 上野さんとの共著ありさんから教えてもらったが、日本はGDPでは世界3位だが、1人当たりGDPは26位(2018年)だという。本当は二流国三流国に落ちているのだ。

 鹿児島県は女性議員ゼロ議会が多い。地元メディアが女性議員のいない議会の議長に「女性がいないことで何か不都合がありますか」と聞いたら、「なんの不都合もありません」と答えた。当たり前ではないか。既成のやり方で物事を決めていたら、そこにいる当事者たちには何の不都合もない。
 もう一つ。立候補したある女性に、後援会長のオッサンが「もう少し控えめに主張しろ」とアドバイスしたそうだ。控えめに主張して(たら)、当選する気があるのかと(なるのに)。つまり、女の分をわきまえろ、ということだ。

 今回すごく変化を感じるのが、「#わきまえない女」というハッシュタグ若い人たちだけじゃなくて、年長の人までも反応してシェアしていること。「こんなことは私たちの世代で終わりにしたい」と、これまで自分たちが我慢して、わきまえてきたことを反省している。これは事件だ、変化だと本当に思った。今回森さんが辞めざるを得なかったのは、世論の力だったと思う。そのときに見過ごさず、その場その場でイエローカードを出し続けることがすごく大事だ。残念なことに女がイエローカードを出すよりも男が男にイエローカードを出すほうが効果がある。だから、男性にも傍観者にならないでほしい。沈黙は同意、笑いは共犯なのだから。

 能力というのはポジションが育てるところがある。女性にリーダーシップがないとしたらリーダーシップを発揮する場が与えられてないだけ。でも、最近は中高大でサークルや部活のリーダーをやって、リーダーシップを持った女性はいっぱいいる。森さんも、一時後任に名前が上がった川淵(三郎)さんも、人脈と金脈がある調整型のリーダーだ。その人脈も金脈も一定のポジションにいたから蓄積できたもので、同じようなポジションに女性がいなかったというだけの話だ。
 でも、今回の後任人事で、私は嫌な予想をしてしまった。危機に陥った組織は、「困ったときの女頼み」で女を使うことがある。特にこういう性差別発言の後は、女は一応クリーンに見えるから。女性をリーダーに立てて幕引きさせて、一番嫌な役をさせる。一番嫌な役というのはオリンピックの廃止も含めて決断しなければならないという役回りだ。
 コロナ禍のもとでの強行開催か、それとも廃止か、こんなにかじ取りの難しい時期に、この困難なポジションに女性をわざわざ人身御供みたいに立たせて、「やっぱり(できない)」とやられたら、汚いなと思う。女性をこのチャンスにというのは、私は賛成しかねる。


 最後の話にはぎくりとさせられる。インタヴューは橋本聖子氏が森の後任に決まる前に行われたものだが、後任決定後、記者から感想を求められたアベ前首相が「火中の栗を拾ってもらうことになった」と述べたことは象徴的だ。火をつけるのは得意だが栗は拾わない、それどころか逃げ足が速いというのがこの男だが、しかし、これは特定の男の話ではないかもしれない。自嘲することがないようにありたいものだが……。



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