ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

東京五輪の “損失”:中止 < 開催 ?

 2月21日付の当ブログの中で、D.アトキンソン

東京五輪が日本経済の起爆剤になるというのは俗説で、……数週間のイベントがGDP550兆円の日本経済に大きな影響を与えるはずがない。……重ねて言うが、東京五輪やっても、やらなくても、日本経済には中長期的にはさしたる影響はない。」

と述べていることを引いた。氏のその他の発言はごもっともと感じたが、この部分については、「やってもやらなくても、……さしたる影響がない」わけがないだろうと思った(今も思っているが、氏が言うように「俗説」に乗っているだけで確たる根拠があるわけではない)。

 中止したら損失が出るが、開催したら損失がない ―— そんなわけはない。何をベースに「損失」と判断するのかにもよるだろうが、ある試算によれば、中止した場合、損失は約4.5兆円、無観客開催の場合は約2.4兆円だという *。もうすでに数字が独り歩きしているが、「損失」とみなす範囲や期間がちがえば、この額は変わってくるはずだ。

* 2021年1月22日付の関西大学のプレスリリース記事に宮本勝浩氏(関西大学名誉教授)の試算がある。中止による経済的損失を4兆5,151億円、他方、無観客開催の損失は2兆4,133億円などとしている。

 組織委員会がこうした数字を気にしないはずがないが、しかし、中止した方が開催(無観客)するよりも「損失」が大きい、だから、やる、というような乱暴な話ではないだろう。

 日刊ゲンダイの2月20日付記事でもこの件がとりあげられているが、これを読むと、確かに中止した方が経済的損失は大きいかもしれないが、開催を強行した場合の実際の“損失” は、狭い意味での「経済」だけにとどまらないように思えてくる。

【東京五輪】五輪強行開催の損失は“中止で4.5兆円”超えの最悪シナリオ|日刊ゲンダイDIGITAL

……五輪中止ならば約4.5兆円の経済損失(関大名誉教授・宮本勝浩氏の試算)につながるともいわれており、五輪スポンサーの巨大メディアは連日のように、これを引き合いに出している。しかし、一連の報道に異を唱えるのは、スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏だ。
「都や、組織委は『アスリートファースト』と言っていますが、五輪は金稼ぎの道具になっている。金のために国民の命を危険にさらして開催するのは、国際社会において日本の立場をおとしめる行為ですよ。失う国際的な信用を修復させるのは、簡単なことではありません。これは数字に表れる経済損失よりもはるかに大きい損失です」

 強行開催することでむしろ、4.5兆円を上回る損失を被るというのだが、具体的にどんな損失が考えられるのか。
「私も東京五輪に関わっているので、公式回答では『やった方が良い』としか答えられませんが……」と、五輪と経済効果に詳しい専門家は匿名を条件にこう言った。
「経済効果として、五輪開催後の外国人観光客の増加が挙げられます。しかし、そもそもの大前提として『開催がきっかけで観光客が激増する』というわけではありません。まず、大会前には外国人観光客を受け入れる土壌の整備が不可欠です。そして、開催を通じていかに国際交流が大事なのかということを人々が共有し、『大会後も継続していこう』と観光地や地域みんなで努力する姿勢があって初めて、観光業における五輪のレガシーになるのです」

……東京五輪開催が決まった13年は約1000万人だった訪日外国人数が、18年には3000万人を突破。これは政府が当初、30年に実現目標としていた数字だ。増加の要因には格安航空会社の普及も含まれるが、外国人観光客を受け入れる現場の努力に下支えされてこそのものだ。
「観光業における経済効果の面で安心安全な大会を成功できるなら、五輪はやるに越したことはない。感染者を出さず可能な限り大会を盛り上げて『コロナ禍でもできるメガイベントのモデルケース』となれば、世界に向けた大きな宣伝につながるからです」(前出の専門家)

とはいえ、森前会長の言った「コロナがどういう形でも必ずやる」では、「安心安全」という大会運営の根幹が崩れかねない。五輪を強行開催し、選手たちから感染者が出たら、あるいは、開催後にコロナ感染者が増加したら国民感情はどうなるか。五輪が直接的な原因かは別として「やっぱり外国人が来たから」と思うはずだ。この専門家はそこから引き起こされる最悪のシナリオを憂慮している。
「インバウンド振興が潰れかねません。先ほど、『五輪後の努力も大事』と言いましたが、コロナ禍がひどくなった状況下で政府や都が観光事業を推し進めようとしても、骨組みである民意や現場の協力は得にくくなる。負のレガシーだけが残って観光立国の計画が停滞し、インバウンドの土壌が激減したら、本末転倒です。中長期的に見たら(五輪中止で試算される)4.5兆円よりもはるかに大きな経済損失を招く可能性があります。そもそも4.5兆円にしても、マクロ経済の視点で見ると、それほど大きな金額ではありません。『開催しないと日本崩壊』という論調も耳にしますが、まやかしです。損をする業界はごく限られています。コロナや経済などさまざまな側面がありますが、正直、今年は無理に開催しなくても……。どうしてもやるなら、無観客ですかね」

前出の谷口氏は「現状、外国では感染が拡大している地域もありますし、ワクチン確保の問題ひとつを取っても国同士の貧富の差が可視化されている。それなのに『自国だけ良ければ』と開催するのは身勝手すぎる考え方ではないでしょうか。五輪の存在意義ともかけ離れてしまう」と危惧する。


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