ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ある「署名」のこと

 知人から憲法「改正(改悪)」に反対する署名を頼まれました。他の人と普段憲法のことを話したりはしないので、これを機会に少し話してみるのも悪くないと思い、署名してくれませんかと何人かに話しかけてみました。
 最初の人。これはどこの組織がやってる署名かということを気にしていました。取り扱い団体名を見る限り「党派性」は不明ですが、自民党案に反対することは明記されています。昔の同僚だった人から頼まれた署名だということは伝えましたが、当人は何となく感じるものがあったのでしょう。申し訳ないけれど…と断られました。これはほとんど「門前払い」といった感じです。
 次の人は、自分は憲法を変えること自体には反対しないが、どこを変えたらいいのかは、よく分からないという話でした。小生は、そこはひとつの問題で、「改正」に賛成する人は「変えるべきだ」とは言うが、「変える」ことが先行気味で、どこをどう変え、どうして変えた方がいいのか、その結果どうなるのかといった説明は後付けになっていて、そのときどきで世間ウケしそうな話をつまみ食いしている感もある。でも、一番変えたいのは9条だろうし、何かひとつ変えれば、そこを「突破口」にして他のところも一気に変えて、今とはちがう国になってしまうかもしれない……という話をしました。でも、その方は、このご時世だから、コロナにしても政府が非常事態で強い権限をもてるようにしないといけないのではないかと思うと、言いました。小生との「関係」もあるので、長考していましたが、無理に署名する必要はありませんから、とこちらから言いました。

 そんなに多くの人と話したわけではありませんが、なかなか難しいです。保守地盤が強固な土地柄であることを理由にしたくはありませんが、世論調査の状況*を考えても、そんなにみんなおいそれと賛同してくれるわけではありません。憲法が日々の生活と直結していて、変えたらこういう世の中になるとわかれば(想像できれば)いいと思うのですが、こちらの説明力不足もあります。普通に暮らす中では、正直なところよくわからないという反応はある程度はやむをえないという気もします。
* 昨年10月の朝日新聞の調査では、憲法9条を「改正」し、自衛隊を明記することに「賛成」は47%、「反対」は32%。同年5月の読売新聞の調査では、憲法を「改正する方がよい」56%、「改正しない方がよい」40%。

 署名と言えば、思い出すのですが、むかし学校に勤めていた頃、原発事故で福島から千葉県に避難していた人たちが、2013年に事故原因や東電と国の法的責任を明らかにしたいと、集団訴訟を提起しましたが、これに関して裁判所に公正な裁判を求める署名というのがあり(もう正確な名称はおぼえていませんが)、上とは別の知人からその署名集めを頼まれたことがあります。念のため強調しておくと、これは裁判所にふつうに裁判をやってほしいと要請する署名で、それ以上のこと、たとえば、政府や東電の事故の責任がどうのという立ち入った話は書いてなかったと思います。しかし、職場の同僚たち(教員たち)の反応には意外なものもありました。

 頼むと、だいたいの人が「ああ、いいですよ」と署名してくれました。ちょっと調子に乗って、教頭さんのいる部屋にも行ってみたのですが、趣旨を話したら、「わかりました」と意外にも(笑)あっさり署名してくれました。でも、同室にいた中堅どころの先生は、無言でさーっと部屋から出て行きました。
 その次の部屋にはこの年、新規採用になった先生が一人でいて、どうかなあと思いながら説明すると、この先生、「そういう署名は親からしないようにと言われていますので」と言うのです。「はあ?」と思いましたが(あなた、小学生じゃないんだから、「保護者」の許可がないと署名できないって、なに?)、まあ、無理強いしてもしょうがないので、はいはい、じゃあまた…と、言って部屋を出ました。後で、別の同僚と、このことを話していたら、その人曰く、「ああ、その先生、親が校長らしいよ」と。それを聞いて何か余計に情けなくなりました。この若い先生もそのうち校長におなりになるのでしょうか。まあ、他の人に署名をお願いしますと頭を下げないで暮らせる人生が送れるようにと祈ります。

 全員が賛同してくれるとも思っていませんが、一部とはいえ、こういう物言いをする人がいたことを思い出すと、そのうち学校内で署名などまかりならん、などという時代になりはしないかと心配になります。デモはやらない、ストもだめ、署名もしない――個人の自由な意見表明や意思表示ができない、躊躇する「空気」は、ボーッとしていると、いたるところで醸成されていくようです。これと向き合っていくのは楽ではありませんが、関係を大事にしながら少しずつ「理解」を広げていくしかありません。そう自分に言い聞かせつつも、次の選挙結果次第では、危うい状況になる、そういう焦りもあります。




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