ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

エールの送り方 星野・上間対談を読んで

 昨晩、弁護士の郷原信郎さんが発信している動画「日本の権力を斬る! #115」を見た。沖縄の名護市長選挙のことが話題となっていて、来年のことだと思っていた選挙も、1月23日投開票なので、年が明け、あと3週間あまりしかないことに改めて気づかされた。
【重要局面「辺野古移設問題」、2022年1月名護市長選挙に全国民が注目を!!】郷原信郎の「日本の権力を斬る!」#115 - YouTube

 沖縄は今年は「選挙イヤー」だ。同じ1月23日には南城市の市長選もある。2月27日には石垣市長選挙、4月24日は沖縄市長選挙、7月の参院選をはさんで、9月には名護市の市議会議員選挙、宜野湾市議・市長選挙、そして、県知事選も控えている。5月15日に「本土復帰」50周年を迎えることもあり、沖縄にとって2022年が大きな節目の年であることは確かだろう。
 しかし、「全国民が注目を!」という動画のタイトルには、ややひっかかりを覚えた。これは、四半世紀以上前の1995年10月、アメリカ兵による少女暴行事件に抗議して開かれた沖縄県民大会に、「本土」から駆けつけたと思われる人が持っていた幟の文言「沖縄よ負けるな!! 東京から応援に来たぞ!!」を連想させた。認識に似たものがないだろうか。
 辺野古基地問題がある名護市だが、市民にとっての問題は基地だけではないはずだ。生活課題に直結した市政を取り戻したいと切実に感じている人も多いと思う。米軍基地の辺野古移設については、もう何度も何度も意思表示がなされた。沖縄県民は総意としてはNO!だと繰り返し言ってきた。それなのに国は、本土は、顔色ひとつ変えずに無言で基地を押しつける。他のことだってあるのに、基地が常に縛りをかける。市長選挙は確かに大事だし、日本中が注目していると言われればそうなのかもしれないが、そんなに気になるなら、いいかげんみんなで何とかしろよと。小生など、当事者でもないのに言えた立場ではないが、基地問題はもう勘弁してくれ、と言いたいところに、「本土」の人間のこの「視線」にはうんざりだという人は多いと想像する。うまく表現できず、もどかしいが…。

 こんな思いも、12月11日付朝日新聞星野源さん上間陽子さんの対談の記事を読むと、少しは和らぐ。エールの送り方というか、人の信頼をつないでいくありかが垣間見えるように思える。

星野源さん×上間陽子さん対談 沖縄の人々の思いや沈黙に気づいた:朝日新聞デジタル

 星野 …僕は20代前半に、東京・中野の沖縄居酒屋でアルバイトをしていたり、仲良くなる人がたまたま沖縄出身の人が多かったりして、勝手に沖縄に縁を感じていたんですが、上間さんの本(『海をあげる』ほか)を読んで、知らなかった沖縄の様々な側面や、生活している人々の想(おも)い、そして沈黙やその理由も知ることができました。
 上間 そう言っていただき、ありがとうございます。
 星野 ちょうど、「不思議」という楽曲を作っていた時で、それが、都会的な若者の恋愛ドラマの主題歌だったんですね。この本を読んでからは、キラキラした都会だけに響く歌ではなくて、本に登場するような沖縄の夜の街や人にも響くにはどうしたらいいんだろう、と考えながら制作するようになりました。
 上間 星野さんがオールナイトニッポンでそう話されたこと、沖縄のマスコミで大きく取り上げられたんですよ。沖縄は暗いことばかりなので、みんなが喜ぶ顔を久しぶりにみました。大学のゼミの卒業生や院生たちがすごかったですね。「一日中、星野さんの曲を聞いてた」とかたいへんな騒ぎでした。
 星野 それはよかった……ありがたいです。上間さんの文章って、いつも目の前で起きていることや動いているご自身の感情を淡々と丁寧に描写されていますよね。それがとても好きです。感情を文字にぶつけるのではなく、淡々とした文章の行間に、怒りや、悲しみ、苦しみ、食べ物の味や安堵(あんど)まで、とてつもなく強烈な感情を感じるんです。それに読んでいる方も心を突き動かされる。
 読むと、人に伝えたくなります。「感動するから読んで」でもなく、「重い本だから薦められない」でもない。「とにかく読んでみて、素晴らしい本だから」って色んな人に言いたくなる本だなあと思います。

 上間 ありがとうございます。

<中略>

 星野 本を書かれて、大学でも教えられていて、この間、仕事に対する気持ちや、人に対する気持ちは変わりましたか。
 上間 あまり変わらないですが、絶対的な仕事量が増えました。仕事が増えると、すべてをきちんと仕上げるのって難しくなりませんか。星野さんも、お仕事の量ってすごいじゃないですか。同時に仕事にかかわる方の数自体、ものすごく多いですし。そういう中で、「ちゃんとした人」でいる、ってすごく難しいと思うんですよね。どうやってバランスとっているんですか。
 星野 あまりバランスがとれているとは、思ってなくて(笑)。ただ、「ちゃんとした人」でありたいといつも気を付けています。頑張れば頑張るほど、うまくいけばいくほど、チヤホヤされてイエスマンが増えていくんです。それがすごく嫌なので、なるべく身近なスタッフみんなが好きに意見を言える環境をいつも模索しています。仕事量に関しては、「好き」っていう気持ちがなくなったらつらいと思いますね。音楽が好き、芝居が好き、文章が好き……。そうじゃなくなったら精神的におかしくなると思います。
 上間 「好き」って星野さんのキーワードですね。星野さんのエッセー『いのちの車窓から』を読むと、「好き」が原動力になって、明るいほうへすべてを引っ張っていく点が、やっぱりアーティストなんだなと感じました。
 星野 小さい頃から、自己肯定感が低かったことがあるのかもしれません。何かを好きになったり、楽しいものを見つけたりすると、たとえば好きなテレビ番組に出合ったりすると、「あと1週間すればまたあれが見られる」という気持ちでやっていけるんです。
 以前、「源さんは宇宙人みたいな人ですね」といわれたことがあって。宇宙人が地球に来て、「自分は普通だ」と思っていたのに、周りがみんな違うから、一生懸命それになじもうとしてるって。自分の普通が周りの異常であることが多くて、それに折り合いをつけながら生きてきたという感じです。そういったことを「普通じゃないからやめなさい」って言われるのが嫌でしたね。ほっといてくれという感じでした。

 上間 それはだれに、ですか?
 星野 例えば学校や、周りと同じ考えでないと居心地の悪い環境にいる人ですね。社会的な通念とか、同調圧力とか、そういうものに対する怒りのような感情がありました。「なんでみんなと違う考えの人をほっといてくれないんだろう」と思っていました。
 上間 そうでしたか。わたしは今は「怒り」が生きるモチベーションになっている気がします。本当は何もしないで生きていきたいんです。でも、沖縄にいると不当なことが多すぎて、なんでこんなに不当なんだ、と。怒っているから生きていられるのかもしれないです。
 星野さんはスターだから、明るいほうへ、優しいほうへ、みんなを引っ張っていくんですね。暗い世の中で、輝かないといけない、というところを引き受けている感じがします。

 ――上間さんは受賞スピーチで、ネットの言葉が人を傷つける世の中になってしまっていることに触れ、「日本中を覆う匿名性を担保にした悪意の言葉が、どれだけ人を削り、奈落の底に突き落とすのか」「私たちが見たかったのは、本当にこういう社会なのでしょうか」と語った。伝えたいのに伝わらないもどかしさ。2人は、それぞれの作品が、ひとりでも多くの人に届くように、伝わるように、心を砕いている。

 上間 わたしは原稿をすべて書き終えてから、半年寝かせました。何より、辺野古のことを書いた「アリエルの王国」という章を読んでもらいたいと思って。小さな娘のそばで沖縄を生きる痛みは、どうやったら本土の人たちに伝わるのか。エッセーの並び順をずっと考えていました。巻頭に「美味(おい)しいごはん」という、最初の結婚が破綻(はたん)した時、心に負った傷の話を置いたのは、「人生にはいろいろある。でもなんとかなるし、生きていたらいつか許すこともできる」という思いを冒頭に持ってきたかったからです。
 でも、そのような生活の延長線上に、どんなにがんばってもどうにもならない地平が、権力によって現れてしまう。だから後半に、辺野古の章を置きました。目の前のあなたの問題だと、読んでもらえるためのたくさんの仕掛けを考えました。星野さんはどうですか。エッセー『いのちの車窓から』を読むと、「普通」ということを大事にしておられますね。
 星野 何をしても傷つく世の中だなと思います。楽しく朗らかに生きるって、こんなに難しいのかと。だれもが普通でいられない。異常に鈍感でないと普通でいられないというか……。その人がそのままでいられるように隣にいることさえ難しいような……。でも、そうできるとかっこいいなと思います。がんばらないとできないですけどね。
 上間 10月の選挙の前に、星野さんはオールナイトニッポンで、荻上チキさんをゲストに招いて、ふたりでお菓子を食べながら選挙についてきいていましたよね。あれは部活感覚みたいで、政治の緊張感のレベルをめちゃくちゃ下げていて、すごくよかったです。
 星野 選挙の話をするということも、今の自分にとっては普通のことなので、工夫すれば、そういった感覚をメディアでも広げられるんじゃないかと。音楽についてもそうなんですけど、僕がふだん聞いてる音楽って、周りで聞いてる人が少なかった。で、自分が好きだと思う音楽を制作したり、レコメンドしたりして「僕にとっての普通の音楽はこれだよ」とどんどん出していく、当たり前のものとして存在させる……。そうやって、自分が思っている「普通」を増やしたいなと。
 上間 自意識のそぎ落とし方がすごいですね。さっきわたしは「仕掛け」という言葉を使いましたが、星野さんは「工夫」という言葉を使うじゃないですか。多くの人がいやじゃない言葉を自然に選んでいます。徹底しているなあと。
 星野 なるべく波風立たない言葉を選んでるのかもしれないですけど(笑)。戦略を全面に押し出すことを称賛する人があまり好きではないからかもしれないですね。音楽の話で思いだしたことをもうひとつ話してもいいですか。『海をあげる』の最後では、読者は、上間さんから「海をあげる」と、とてつもない「海」を渡されます。その章に何かを感じた人は、また別の人に「海」をきっと渡す……。そうやってバトンのように人から人へ伝わっていくのではないかと。僕は以前、「POP VIRUS(ポップウイルス)」というアルバムを作ったんですけど、それは、自分の思うポップという感覚が、周りと全然違うことに怒りがいっぱいあって、それで、自分の音楽でそれを変えたいと思ったんです。アルバムをきいたら、ポップウイルスに感染して、それをまただれかに伝えたくなる。そうやって広げられたらいいなと思って制作したんです。それを思い出しました。
 上間 「海をあげる」の章は、果たし状のつもりで書きました。少しでも多くの人に果たし状を受け取ってほしい。それが広まって、この絶望の状況が少しでも止まるといいなと思います。崖っぷちにいるけど、踏ん張っている人たちがいるから、まだ奈落の底に落ちてはいない。いまは「しのぐ時期」なんだろうなと思っています。ノンフィクション本大賞は、沖縄の踏ん張っている人たちみんながもらった賞だと思っています。そして、この本を選んでくださった方々が、辺野古や沖縄の問題に、エールを送ってくださったということだと思っています。




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