ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

総理大臣の「やらせ」記者会見

 高校時代の教育実習生に笑える人がいた。確か慶応の学生と言ってたと思うが、帰りのホームルームかなにかで、「明日の授業、最後なんで、先生方がいっぱい見に来ます。そこで、私がこういう質問をしますので、答えてくれる人、はい、あなた、じゃあ、こう質問をふりますから、こう答えてください。その次は、はい、あなた、こうふるので、こう答えてください…。」などと配役を決め始めた。よくやるなあ、と思いつつ、当日は、みんなニヤニヤしながら彼の授業を受けた。シナリオ通りに事は進み、無難に終わって、帰りのホームルームで、「いやあ、みなさん、ご協力ありがとうございました」(笑)。「それにしても、〇〇さん、質問されても、すぐに答えないで、教科書を読むふりして目を落とすところなんかは、もう、本当、芸が細かかったですねー」(爆笑)。

 今で言う「やらせ」も、こんなのだったら、笑い話だが、総理大臣が常習としている、芸のない「やらせ」はどうだろうか?
 7月8日のスガ首相の記者会見。内容がないのは今始まったことではないが、当初から「やらせ」の疑惑が指摘されてきた。しかし、もはや、これは「疑惑」ではなく、れっきとした「事実」、しかも、失笑、噴飯ものの「失態」と言ってよい。

尾張おっぺけぺー」さんの7月8日付Twitterに、この「やらせ」場面の動画がある。
おっぺけぺーさん、曰く、

幹事者質問後の質疑応答の最初の場面。
挙手をした記者をあてるシステムで奇跡が起きました!
手をあげていない日テレの山崎さん。
それを指名する小野日子内閣広報官。
その質問に質問前に出した紙で答弁しだす菅義偉さん。
やらせですか?

https://twitter.com/toubennbenn/status/1413119488845701121

 記者会見のノーカット版動画を見てみると、この日テレの山崎さん、最初の方で当てられたから(以後、指名されることはないから?)もういいやということなのか、この記者会見では一度も手を挙げている場面がない。
 緊急事態のさなかにオリンピックをやって感染者が増えたら、首相としてどう責任をとるつもりなのか?――国民の多くが抱いている当然の質問なのに、こんな無意味な答えを返されても、その「熱意」(欠乏?)ゆえに、特に気にならないのか。

 山崎日本テレビの山崎です。
 先ほど、総理は東京オリンピックパラリンピックについて異例の大会になるとおっしゃいました。緊急事態宣言下の開催になりますけれども、総理は前回の会見で、東京大会について、国民の安全・安心を守るのは総理としての私の仕事ですから、私が責任を持って行うと明言しました。こういう緊急事態宣言下の開催となるわけですが、感染者が増加した場合の責任について、総理はどのように考えていますか。

 スガまず、緊急事態宣言の中でこれから大会を迎えるわけであります。そうした中に、今回、緊急事態宣言の中に大きな成果を上げてきていたのが、やはり酒類の停止です。飲食店の酒類の停止、ここは大きな成果をこの感染拡大防止については上げてきているというふうに思っています。そうした中で、まず、この緊急事態宣言の中でありますから、そうしたことは当然、酒類は停止になります。また、まん延防止等重点措置のそれぞれの自治体についても、この首都3県ですか、東京以外の、そうしたところにもこれが適用されるというふうに思っています。
 こうしたことの中で、やはり安全・安心ということについて、コロナの感染拡大措置というものも含めてこうしたいろいろな対応、あるいはこれは人流も多くなるんじゃないかと言われていますけれども、これは交通規制あるいはテレワーク、これは大分前から徹底して行ってきていることですけれども、こうしたことによって安全・安心の大会を実現できると、こういうふうに思っています。

令和3年7月8日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ

 しかし、実は、この後、もう一度、挙手してないのに指名されるという「珍事」が起こる。ラジオ日本の伊藤さんが指名される場面である。

https://twitter.com/toubennbenn/status/1413471389873410048

 一回の記者会見で、こんなことが二度も「発覚」するのは珍しい(恥ずかしい!)ことのようだ。伊藤さんの場合は、最初のうちは他の記者たちと同様に挙手していたのだが、なぜか、自分の「順番」が近づいてくると手を挙げるのをやめてしまう。指名する司会の小野広報官も戸惑いが隠せない(伊藤さんを指名しないと、スガに用意されたカンペの順番が狂ってしまい、答弁不能になる?)。「やらせ俳優」のひとりとして、各自がそれらしく「演じて」いただかないと、一座をしきる小野広報官としては困惑ものなのである。

日刊ゲンダイの7月9日付記事にこうある。

【菅義偉】菅首相「ヤラセ会見」疑惑 挙手していない記者が指名される“珍事”の目撃証言|日刊ゲンダイDIGITAL

会見現場に同席した記者がこう言う。
「後ろの席に座っていたから分かるのですが、小野広報官に指名された記者は、呼び掛けられた時点で明らかに挙手していなかった。おそるおそる挙げていたとも思えません。というよりも、下を向いてスマホらしきものをいじっていたのです。ところが、小野広報官から名前を呼ばれると何事もなかったかのように立ち上がって質問し、それを菅首相が待ってました、とばかりに用意した原稿を読みながら答えていた。もう何が何だか……」
 世の中では、こういうのを「ヤラセ会見」という。

 7月8日配信の中日スポーツの記事にはこうある。

記者とかみ合わぬ「首相会見」にSNSでは怒りのコメント「子どもには見せてはいけないもの」(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース

ツイッターでは「Q『五輪開催で感染拡大したら、どう責任をとるのか』首相『酒類停止は効果があった。人流にも気を付けているので安全安心な大会は実施できる』もう完全に壊れてる」「PTAが『子どもに見せたくないテレビ番組』とか発表してたけど、今1番子どもに見せたくないもの、見せてはいけないものは首相会見ではないかな」と怒りのコメントが並んだ。
 また、「『オリンピック・パラリンピックには、世界中の人々の心を、ひとつにする力があります(キリッ)』日本国民をこれだけバラバラに分断しておいて、世界の人の心がひとつになるとか、何の冗談でしょう?」と、あきらめにも似た声も見られた。

 スガ首相も7年もの間アベシンゾ-を眺めていて、「あんなんでいいんだったら、自分だってできる」「やらせてもらえるんなら、自分も一丁やってみるか」と当初は思ったかもしれない。しかし、もう自身でも気づいているのではないだろうか。

 日々変化する情勢と向き合う政治――今も九州では大雨の特別警報が出ていて、河川の氾濫や崖崩れのニュースが続いている。並行してオリンピックは開幕まであと2週間しかないというのに、観客を入れてやるかどうかをようやく判断した段階だ。事はなお流動的で、準備するにも動くに動けない人がまだたくさんいる。本当にこのまま突き進むのだろうか?
 コロナが忖度しないように、刻々と変化する情勢に「やらせ」で対応するのも限界があろう。いずれ決壊するかも知れない 。総理大臣の「決壊」は、自身一人の「決壊」では済まないことに思いを至らせるべきだ。



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