ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「二正面作戦」の違和感

 「二正面作戦」。ふつう片方が「正面」であれば他方は「背面」か「裏面」である。「二正面」だから両方が「正面」になるというわけだが、戦争で言えば、両方向からの攻撃に向き合い、それぞれ別個に戦わなければならない状況だ。
 第一次世界大戦時、ドイツは、西にフランス、東にロシアを敵に回して戦わなければならなかった。これはドイツにとっては「挟み撃ち」になるわけで、本来は避けなければならない事態だが、にもかかわらず現実化した。それでも机上ではうまくやり通せるはずだったが、果たせずに結局ドイツは敗れた。
 「二正面作戦」は以上のごとくネガティヴな話に発展する語でもある。しかし、なぜか最近スガ首相(補佐官?)はコロナ抑止の対策にこの語を用いている。しかし、聞いていると、その中身は全然「二正面」ではないし、「作戦」にも値しないことに無理な命名をして、内容のなさをごまかしているように思える。報道関係者の中にこれを疑問に感じる人はいないのだろうか? 話に内容がないのは今始まったことではないからスルーしているだけなのか?
 
緊急事態宣言延長決定 菅首相「2正面作戦で」|TBS NEWS

 スガは会見で緊急事態宣言を6月20日まで延長することを発表した。曰く、「(これからの3週間は)感染防止ワクチン接種という二正面の作戦の成果を出すための極めて大事な期間と考えている」と(※太字は当方が施した)。
 「感染防止」? 具体的にこの語で何かを念頭においているかも知れないが判然としない。そもそも「感染防止」は「作戦」なのだろうか? PCR検査を徹底的にやるというのなら「作戦」(手段)かもしれないが、「感染防止」というだけでは何も「手段」を示さない。これは「目的」と称すべきことばだ。
 また、「感染防止」と「ワクチン接種」についても、「相手(敵)」がそれぞれ別個にいるわけではない。「敵」はひとつであり、これも「二正面」という形容は全くそぐわない。要するに、政府にとって「作戦」に相当するものは「ワクチン接種」だけで、他にカードがないことを「粉飾」しているように思える。

 こんなことが通ってしまうのは、政権の内も外も、一方通行(通達)に慣らされて(馴らされて)、立ち止まって自分の頭で考えるとか、広く英知を集めて最適解を導き出そうとか、そういう気持ちがないからだろう。その典型がスガ記者会見である。

 以下は5月28日付西日本新聞の記事。

「追加質問はお控えください」更問いを認めない首相官邸(西日本新聞) - Yahoo!ニュース

菅義偉首相の記者会見は、じっくり聞いてもなかなか理解が深まらない。理由はいくつか考えられるが、最も大きいのは記者に追加質問、いわゆる「更問い(さらとい)」をさせないようにしていることだろう。
 答弁が質問の趣旨とずれていたり、不十分だったりした場合、記者は更問いすることでより深く、具体的に考えを引き出そうとする。それが充実した質疑につながり、国民の理解を促すことになるからだ。本紙を含む内閣記者会の一部加盟社は、更問いを認めるよう再三、官邸に求めているが、7日の会見でも事務方が冒頭に「追加質問はお控えください」と述べていた。
 更問いはアドリブなので、事前に回答を準備できない。官邸が応じないのは、首相が想定外の質問に応える自信がないからなのか。新型コロナウイルスの脅威に直面している今、政治家の言葉は重みを増している。首相は逃げずに、心に届く言葉を語ってほしい。

 5月28日の記者会見で質問に立った東京新聞の清水記者も次のように発言したが、スガは全くスルーした。

...なお、記者会見での総理の御回答が正面からお答えいただけなかったり、曖昧なものが多くて、見ている国民の方が不満を抱いていたりしています。是非明確にお答えいただけるようお願い申し上げます。
令和3年5月28日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ

 以前にも、4月末の記者会見の質問の折、指名されなかった京都新聞が書面による質問で「会見は1人1問で、不明な点を再質問できないため、会見を見ている国民はすっきりしない」と指摘したが、これも無視された。

 こんな恥ずべき記者会見をする総理大臣は他国にも例を見ないと思う。いや、外国と比較するまでもなく、会社で、官庁で、最高責任者が取材の「更問い」に答えないとか、「更問い」を認めないとか、そんなことを大まじめにやるところがどこかあるだろうか? しかし、総理大臣がやればそれは周りに波及していく。「お答えは差し控える」、「コメントする立場にない」、「仮定のことには答えられない」、云々... 。こうした国会用語はすでに各所に蔓延している。それだけ、双方向のやりとりや合意形成がないがしろにされているということだ。

 「えーっ! そんなのあり?」と文句を言いつつ、それを許しているうちにこんな状況になった。いったん歯車が回ると元に戻すのは容易ではないが、何とか押し戻していかないといけない。国政からも、地域からも...。それこそ「二正面」で、と思う。




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