ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

スガ総理の記者会見嫌い

 かなりむかしの話、「英語が嫌いな英語教師」と“自嘲”する先生がいた。「俺には英語のことをきくな」と生徒にも言ってるんだと笑っていた。「能ある鷹」の謙遜した物言いならよいのだが、ALT(外国語の授業で教員のアシスタントをする方)が来校する日になると、隣の教科の準備室に「避難」しているのでは、笑いがひきつってしまう。他校の先生から「えっ! 英語なの? 社会科の先生だと思ってた」などと驚かれたこともある。

 「政治が嫌いな政治家」というのも、この国の場合には、何かいそうな感じがする。問題はその「政治」の中身だが、外部からは到底うかがい知れない闇の部分がある世界のこと、普通の感覚の人ではとてもやってられないような気もするが、それはさておき、不特定多数の人を前に話をするというのは「政治家」にとっては重要な「芸当」の一部と思われる。実務には長けているが、話が苦手という人は、政治の「表舞台」より「裏方」に回る方が無難だろう。しかし、そういう感覚が通じないのが永田町の奇怪さだ。

 スガ総理は就任以来、記者会見を好まないという評価がすっかり定着してしまった感がある。しかし、「(一国の総理大臣なのに)記者会見をしない!」と言われるのはさすがに格好がつかないと思うのだろうか、首相官邸のホームページ上では、「ぶら下がり取材」やほんの立ち話程度のものまで「会見」の数に計上していて、先月、ジャーナリストの江川紹子から「会見偽装」だと突っ込まれている(11月25日付「ビジネス・ジャーナル」)。

菅首相は“会見偽装”をやめて、ただちに記者会見を開けーー江川紹子の提言

 菅義偉政権に移行して、2カ月以上になる。その評価はまちまちだろうが、国民とのコミュニケーションに関していうと、前政権より明らかに後退しているといわざるを得ない。コロナ禍が深刻さを増し、対策には国民の理解と納得、そして協力がさらに必要になっている今、菅首相は一定の頻度で記者会見を開き、国民に丁寧な説明を行い、時間をかけて疑問に答えるなど、国民とのコミュニケーションにもっと力を注ぐべきだ。

“会見偽装”という欺瞞
 現政権の発足は9月16日。菅首相は、この日の夜に30分程度の就任記者会見を行って以来、一度も記者会見を開いていない。
 にもかかわらず、首相官邸のホームページを見ると、実に頻繁に「会見」を開いたことになっている。11月は、その数8回に及んでいる(11月23日現在)。
 しかしその内容を見ると、いずれも記者団の前で首相が一方的に語っているだけ。時間も52秒から2分27秒という短いもので、質疑の記録もない。これでは「ぶら下がり取材」ともいいがたい、単なる「発表」「通告」だ。
 そういったものに「会見」のラベルをつけて官邸のホームページに掲載するのは、記者会見の「偽装」としかいいようがない。少なくとも安倍晋三政権では、こうした欺瞞は行われていなかったはずだ。


 そんな中、12月4日、2か月半ぶりにやっと首相記者会見が開かれた。しかし、ここでもスガ総理は、官邸記者クラブとともに「記者会見」を“演ずる”ことに執心していたように見える。質問にはきはきと答え、見栄えよく仕事に取り組んでいる様を国民に見せるためには、あらかじめ記者からの質問を把握し、イレギュラーな質問を発する記者は出入り禁止にすればいい——昨日12月14日付「週刊ポスト」は、菅政権になってからフリー記者の首相会見の参加が前の安倍政権以上に困難になっているとして、次のように伝えている。

菅政権になりフリー記者の首相会見参加が困難に 締め出しか|NEWSポストセブン

菅首相は会見で厳しい質問をされるのが大嫌いだ。官房長官時代、“天敵”と呼ばれた望月衣塑子・東京新聞社会部記者に加計学園問題などで執拗に食い下がられ、感情的に答える場面がしばしばあったが、今回の会見は首相が嫌がる質問が出ないように“厳戒態勢”が敷かれていたという。

『記者会見ゲリラ戦記』などの著書があるフリーランスライターの畠山理仁氏が語る。
「官邸の会見室は120席あったが、コロナ後はソーシャルディスタンスということで29席に減らされた。そのうち19席は内閣記者会、残り10席を専門記者会、雑誌協会、インターネット協会、外国メディア、フリーから抽選で決める。官邸報道室があみだくじで決めているそうですが、申し込んだ本人は抽選に立ち会えない」

 総理会見は官邸記者クラブ(内閣記者会)が主催する。クラブに加盟する新聞社やテレビ局の記者は優先的に参加できるが、フリーの記者は官邸に登録(審査あり)したうえで、会見のたびに参加申し込みが必要だ。その中から抽選に当たってようやく出席が認められる。
 今回の総理会見は臨時国会の閉会を受けて開かれる恒例のものだ。
 ところが、官邸報道室から畠山氏に案内のメールが届いたのは当日の朝9時半。申し込み締め切りは午前11時半、わずか2時間前だった。
フリーの記者は内閣記者会の記者と違って官邸や国会内に常駐しているわけではない。当日、ギリギリで案内が来ても、他の取材日程を入れていることは少なくない。

「菅政権になってフリーが会見に出るのが一層難しくなった。安倍政権時代には、コロナ関係の緊急会見であっても前日の夕方までには案内のメールが届きました。今回は新聞で会見の方向と出ていたので前日に官邸報道室に電話で確認すると、『まだ決まってないんです』という回答。結局、当日ギリギリで案内が届き、参加申し込みの締め切り時間も安倍政権より30分早い午前11時半に設定されていた。急な案内だったので江川紹子さん(ジャーナリスト)は取材で裁判を傍聴しており、案内メールに気づいたときには締め切りが過ぎていたそうです」(畠山氏)

 案内が遅れたのは、厳しい質問が予想されるフリー記者の参加を会見から“締め出し”たかったからではないか。
<以下略>

 自民党石破茂は「野党議員の向こうには国民がいるということを忘れてはいけない」と言っていたが、フリーの記者も同様である。

 もし、「内閣支持率低下 → Go to トラベル一時停止」 という“法則”があるのなら、フリー記者の“締め出し”の他、スガ政権のあらゆることについて、この“法則”は適用可能だろう。当面、世論調査で不支持率を引き上げることが、まともな政治への一番効果的な手段なのかも知れない。


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