ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「NHK改革」のこと

  11月12日の衆議院総務委員会で、武田良太総務大臣がNHK受信料の値下げに言及したが、これを歓迎する声が多いわけではないようだ。
 J-CASTテレビウォッチの11月13日付の記事より。

「NHK受信料値下げ」を求める武田総務相に総スカンの声!「論点が違う」「契約した人だけが見られるスクランブル放送にして」「見たくもないのに徴収されるのは理不尽」: J-CAST テレビウォッチ【全文表示】


武田良太総務相は12日(2020年11月)の衆院総務委員会で、「コロナ禍の現状を考えると、NHKは国民のために受信料を下げるべきだ」と発言したことがネットから総スカン状態になっている。いったいなぜか?
武田総務相は、岡島一正議員(立憲民主党)の質問に答える形で、
「(NHK改革に関連し、NHKの)余剰金の問題などコロナ禍において国民のために何ができるか。家計負担を減らす受信料の値下げから着手するのが、公共放送のあるべき姿だ。携帯電話料金の値下げの問題に取り組んでいたとき、多くの国民から携帯電話よりNHKの受信料を考え直すべきだという意見が寄せられた」
とも述べた。

電気、水道の公共料金は家計が苦しい時、利用を少なくすれば減るのに、受信料は見なくてひたすら取られるだけ...
これに対してネット上では、「論点はそこじゃない。受信料値下げ云々の前にスクランブル放送にしてくれ」という意見が圧倒的に多かった。スクランブル放送とは、契約した人だけがテレビを視聴できるシステムのこと。日本ではWOWOWなど、BSやCSの一部チャンネルで実施されている。
こんな意見にあふれた。
「見たい人だけが受信料を払って見る。当たり前のことをなぜしない?受信料値下げよりも国民が望んでいるのは、見もしない放送を強制的に契約させられる理不尽さだ。スクランブル化することこそ望んでいるのであり、たとえ値下げしようと国民の理解は得られない。NHKは観たい人だけが契約すればいい。公共放送と名乗ってはいるが、もはや情報が多様化した現在は負の遺産。これこそ既得権益以外の何者でもない」
「公共料金のほとんどすべては、家計が苦しいとき、利用を制限して節約できます。電気代、水道料金の基本料でさえ、簡単に契約停止や再契約が可能です。ところが受信料は利用(NHKを見ること)を減らしてもひたすら徴収されます。もう黙って耐える人にはなりたくありません」

<以下略>


 NHKはすでに8月に、来年度から「3か年の経営計画案」をまとめ、業務を見直すなど大幅な支出削減を行い、「スリムで強靱なNHK」にするとしている。これに武田総務大臣は収入面からの見直しを迫ったかたちだ。
 それにしても、なぜ11月の今こんな話が出てくるのか。10月まで国会が開かれていなかったからか……。念のため、12日の衆議院総務委員会の質疑の様子を確かめてみた。質問に立った岡島議員は、NHKを改革する上で受信料の値下げに異論はないが、受信料制度も含め、公共放送の独立性と使命を併せて考えなければならないと強調していた。しかし、武田大臣は、公共放送の使命も大事だが、今のコロナ禍に国民にとって家計負担の削減が最も望まれると力説した。すれ違いということはないが、力点の置き所は明らかに異なる。

 実は今NHKにはもうひとつ心配事が生じている。10月26日にスガ首相が生出演した『ニュースウオッチ9』(『NW9』)の件だ。小生はこの時間帯にテレビニュースはほとんど見ないので、報道があるまで、この件を知らなかったのだが、この日、菅首相は『NW9』で日本学術会議の任命拒否問題について、キャスターの有馬嘉男氏に同じ質問を繰り返されて激高したらしい。で、「週刊現代」によれば、その翌日、NHK報道局に内閣広報官から電話がかかってきたというのだ。
「総理、怒っていますよ」
「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」

 以下、11月12日付「リテラ」より引用する。

菅首相が生出演『ニュースウオッチ9』の質問に激怒し内閣広報官がNHKに圧力!『クロ現』国谷裕子降板事件の再来|LITERA/リテラ

<前略>
菅官邸によるNHKへの報道圧力を報じたのは、「週刊現代」(講談社)11月14日・21日号。菅官邸が問題視したのは、菅首相所信表明演説をおこなった10月26日に生出演した『ニュースウオッチ9』(『NW9』)だ。
 この日、菅首相は『NW9』で日本学術会議の任命拒否問題について、有馬嘉男キャスターが「国民への説明が必要」と突っ込んだことに対し、キレ気味にこう述べていた。
「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」
 つまり、信じがたいことに総理大臣が「説明できないことをやった」と自ら公共放送でゲロったわけだが、問題はこの放送の翌日に起こったと「週刊現代」には書かれている。
〈その翌日、報道局に一本の電話がかかってきた。
「総理、怒っていますよ」
「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」
 電話の主は、山田真貴子内閣広報官。お叱りを受けたのは、官邸との「窓口役」と言われる原聖樹政治部長だったという。〉
 山田真貴子内閣広報官は、総務省出身で安倍政権下の2013年から2015年まで広報担当の首相秘書官を務めた人物で、新政権発足で菅首相が官邸に呼び戻した“子飼い”だ。そんな人物が、番組の内容に「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う」とクレームをつけ、「総理、怒っていますよ」と言い放つ―—。無論、この「総理、怒っていますよ」というひと言のインパクトは絶大で、NHKが震え上がったことは間違いない。
 というのも、菅首相にはNHKの報道に介入し、圧力をかけた“前科”がある。本サイトでも何度も取り上げてきたが、代表的なのが『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスター降板事件だ。国谷キャスターは2014年7月の『クロ現』生放送で当時官房長官だった菅氏にインタビューしたのだが、当時、閣議決定されたばかりの集団的自衛権容認について厳しい質問を繰り出したことから、放送終了後に菅官房長官が激怒。この菅氏の怒りが、後の国谷キャスターの番組降板へとつながることとなったのだ。ちなみに、NHKへの直接的な圧力を担ったのは、学術会議問題でもキーマンとなっている杉田和博官房副長官だと言われている。

菅首相は一体何にキレたのか? 『ニュースウオッチ9』のやり取りを再現
 ようするに、今回伝えられた『NW9』に対する菅官邸からの「総理、怒っていますよ」というクレームは、NHKの現場にとっては『クロ現』事件を思い起こさずにはいられない、紛うことなき“恫喝”にほかならなかったはずだ。
 実際、NHK幹部職員は「この件は理事のあいだでも問題となり、局内は騒然となりました。総理が国会初日に生出演するだけでも十分異例。そのうえ内容にまで堂々と口を出すとは、安倍政権のときより強烈です」と証言している。
 安倍政権のときより強烈な圧力——。いったい、この日の『NW9』で菅首相は何にキレたのか。あらためて振り返ってみよう。

 この日の菅首相の生出演では、『NW9』のキャスターを務める有馬記者と和久田麻由子アナウンサーのふたりのほか、菅官邸からの恫喝を受けた政治部トップである原聖樹政治部長を交えて進行。所信表明演説菅首相が打ち出した「新型コロナ対策と経済活動の両立」や「温室効果ガス削減」などについての質問が飛び、菅首相も淡々とそれに答えていた。
 そして、生出演の終盤に、話題は所信表明演説菅首相がひと言も触れなかった日本学術会議の任命拒否問題へ。菅首相は「総合的・俯瞰的」「民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が大事」などと話したが、この説明に対し、有馬キャスターはこう質問を重ねたのだ。
「総理は国民がおかしいと思うものは見直していくんだということを就任前からおっしゃっていたと思います。で、この学術会議の問題については、いまの総合的・俯瞰的、そして未来的に考えていくっていうのが、どうもわからない、理解できないと国民は言っているわけですね。それについては、もう少しわかりやすい言葉で、総理自身、説明される必要があるんじゃないですか?」

「国民に説明を」と繰り返されてキレた菅首相 国谷裕子のときとそっくり
 しかし、この質問に対して菅首相は「私が任命する105人について、学術会議が選考して持ってきちゃうんです。それを追認するだけなんです」などと強弁。相変わらず任命拒否の理由にまったくなっていない上に、法に則っておこなわれている学術会議側の選考・推薦を「持ってきちゃう」などと言い出す始末で、まさに滅茶苦茶だったのだが、有馬キャスターは粘りを見せ、こう畳み掛けたのだ。
「あの、多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです。ただ前例に捉われない、その現状を改革していくというときには大きなギャップがあるわけですから、そこは説明がほしいという国民の声もあるようには思うのですが」
「多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです」という前置きは明らかにへっぴり腰だが、それでも「国民に説明を」と食い下がった有馬キャスター。だが、この食い下がりに菅首相はキレて、冒頭でも紹介した「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか」という発言を繰り出すことになったのだ。

 お読みいただいたとおり、たしかに有馬キャスターは菅首相がもっとも追及されたくないこの問題でよく食い下がった。「説明できることとできないことがある」という発言を引き出した点も評価されるべきだろう。だが、過去の政府見解から逸脱した「任命拒否の違法性」という問題や、拒否された6人が法案に反対していた学者である点から「政権に批判的な学者を排除したのではないか」という問題など、追及すべき基本的な問題を直接ぶつけることは一度もなく、ただ「国民にわかりやすい説明を」と繰り返しただけなのだ。つまり、食い下がったものの、質問の中身はかなり弱腰だったのである。
しかし、このことこそが菅首相の逆鱗に触れたのだろう。というのも、前述した『クロ現』での国谷キャスターに激怒した際も、「国谷さんが菅さんの発言をさえぎって『しかしですね』『本当にそうでしょうか』と食い下がったことが気にくわなかった」とNHK関係者が明かしていた(「FRIDAY」2014年7月25日号)。今回、有馬キャスターは、手を替え品を替えさまざまな角度から問いただした国谷キャスターのような鋭さも、前のめりで質問するような場面もなかったが、菅首相にしてみれば、追及されたくない問題で食い下がられたことが、よほど腹に据えかねたのではないか。

NHK改革を進める菅首相は安倍政権以上に圧力をかけ「報道の自由」を奪う
 しかし、ただ食い下がっただけで、「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」などと恫喝をかけてくるとは―—。ようするに、当然おこなわれるべき当たり前の質問や、納得のいかない回答に対する追加質問など、菅首相には何もぶつけられない、ということだ。これで真っ当な政権追及などできるはずがない。
 さらに問題なのは、今後のNHKだ。菅首相総務相時代からNHK改革を掲げてきたが、首相となったことでさらに規制改革を進め、NHKの番組づくりの自由を脅かすのではないかとテレビ朝日の玉川徹氏も懸念を示している。しかも、今回「総理、怒っていますよ」とNHKに電話をかけたとされる山田真貴子内閣広報官は総務省出身だ。“下手な報道をするとNHK改革でどうなるかわかるか”という脅しのメッセージが含まれているとNHK側は受け取ったはずだ。

<以下略>

 武田大臣がスガの意向を受けてNHK受信料の値下げを主張したかどうかはわからない。が、ありうる話ではある。 
 11月13日付の毎日新聞では、最高裁での「人事圧力」が報道されている。
学術会議任命拒否 最高裁でも人事圧力 - 毎日新聞

 アベ・スガ政権のこの凶暴性。しかと認識しないといけない。



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