GWにニューヨークから一時帰国したという日経ビジネス・池松由香氏の体験談(5月18日付記事)を読むと、日本の「水際対策」が「抜け穴」だらけであるように思える。縦割り行政の弊害はもちろんあるだろうが、小生には、携わっている公務員が全般的に「公」に対する関心度合いを下げているように思えた。と言うと、大上段で大袈裟な感じがするが、それぞれ自身の守備範囲を決めて粛々と仕事に取り組みながらも、それとコロナ対策という目的がつながっているという認識が薄いか、あるいは認識していても、「上役の人間」が決めることだと思うからだろうか。水際対策として不十分なことがわかっていても、そのまま通ってしまう。あるいは、自分だけ言っても(やっても)しょうがないと諦め、黙っていたり、考えないことにする。これはここ十数年の自己責任論の横行が招いた(公的)責任回避、無責任の姿のようにも映る。
以下、池松氏の成田空港到着後から始まった一連の「水際対策」のリポートからの引用。
一時帰国してみたら……日本のコロナ水際対策は穴だらけ:日経ビジネス電子版
成田空港に到着後は、まず他国への乗り継ぎの搭乗者、次に筆者を含む日本滞在者が機外に案内された。出ると係員が待ち受けており、同じ便に搭乗かつ日本滞在予定の4人が一緒に、長い道のりを歩いて水際対策の手続きをする空港内の別の場所に移動した。重い荷物を抱えて十数分間は歩いたように思う。
まずは健康チェックだ。機内で書いた書類の一部と出国72時間以内に受けたPCR検査の結果を窓口の担当者に提出する。担当者は5~6人いたように記憶しているが、驚いたのはその「密集具合」だ。空いた窓口から順に呼ばれて列の先頭にいる搭乗者がそこへ行くと、左右の窓口で処理をしている別の搭乗者と両肩がぶつかるほどに近かった。窓口の担当者との間に透明の仕切りはあったが、搭乗者同士の間には何の仕切りもなかった。
「日本にソーシャル・ディスタンスの概念はないのか? 健康チェックをする窓口なのに搭乗者の安全確保への配慮は?」と疑問を感じざるを得なかった。
この1年強、ニューヨークでソーシャル・ディスタンスを気にしてばかりの日々を送ってきていたため、違和感しかなかった。正直、先が思いやられた。
次に案内されたのが唾液によるCOVID-19検査だ。仕切られた場所(仕切りは四方のうち三方のみ)は電話ボックスよりも狭く、壁に梅干しやレモンの写真が貼られていた。唾液を出すための写真だと日本人なら分かるが、果たして海外出身者はどうか……。「梅干しを食べたことのある人はどれだけいるのかな」などと考えたら、ちょっと笑えてきた。
検査結果を待っている数十分の間に進めなければならないのが、自主隔離中に日本政府に居場所などを知らせるアプリのダウンロードだった。
担当者による支援は懇切丁寧だ。数十人がスタンバイしていて、必要に応じて手取り足取り手順をサポートしてくれる。中国語の話せるスタッフが多かったように感じた。
ダウンロードしなければならなかったアプリは次の3種類(グーグルマップも含めると4種類)だ。
(1)位置情報確認のためのOEL(Overseas Entrants Locator)アプリ
(2)ビデオ通話による健康状態確認のためのSkype(スカイプ)またはWhatsApp(ワッツアップ)アプリ
(3)コロナ陽性者との接触確認アプリ「COCOA(ココア)」
このうち(1)と(2)はすぐにダウンロードできたが、ココアだけはソフトウエアを最新にする必要があった。これが難関だった。筆者は日本で使用していたスマホを米国滞在時はほぼオフにしていたため、ソフトウエアの更新だけで1時間以上もかかった。その間、担当者が心配そうに何度も声をかけてくれ、Wi-Fiも提供してくれた。
<略>
その次の工程で、登録したメールアドレスの送信チェックがあった。(1)のOELを使用するには「入国者健康確認センター」から送られてくるIDとパスワードが必要になる。さらにメールによって毎日、健康チェックの連絡も来ることになっていた。メールが届かなければ意味がないのでチェックをするわけだ。
最後、飛行機搭乗前に入手したQRコードを見せ、日本での滞在先や空港からの移動手段を改めて確認される。ここの担当者に聞いたのだが、一連の水際対策は日本政府と地方自治体が手分けして担当しているとのことだった。(1)のOELでの位置情報確認は地方自治体、(2)のビデオ通話による健康状態の確認は日本政府の管轄だという。
この担当者は地方自治体の所属だったのか、こう教えてくれた。
「OELでの連絡は毎日午前11時頃から午後2時頃までの間に行くはずです。でもビデオ通話については、ほとんど連絡が行かないと聞いています。管轄が日本政府なので……。来たら返事をするようにしてください」
筆者には少しシニカルに聞こえた。この工程の後、しばらく待っていると番号を呼び出され、検査結果を受け取った。これでようやく空港の外に出られる!
後は送られてきた連絡に対応するのみだ。検査結果も陰性と分かり、意気揚々と予約しておいた新型コロナ感染予防対策のタクシー車両に乗り込み、千葉の自宅へ向かった。
ところが、問題はこの後だった。
記述の通り、OELのアプリを使い始めるには、入国者健康確認センターから登録したメールアドレスに送られてくるIDとパスワードが必要になる。だいたい翌日に来ると聞いていたので、なぜかドキドキしながら何度もメールを確認して待っていた。
だが、待てど暮らせど来ない。結局、自主隔離期間が終了した5月8日まで政府から何の連絡もなかった。毎日、来るはずだったメールによる健康チェックも、ビデオ通話による抜き打ちの連絡もなし。
<略>
……出入国時の2回の検査も陰性で、ワクチン接種も終えているとはいえ、海外からの渡航者をここまで放置していいものか。ほぼ同じ時期に別の支局の同僚も帰国していたため確認すると、「翌日にIDとパスワードの連絡と、毎日のメールによる健康チェックがあった」とのことだった。だがこうした水際対策も漏れがないようにしなければ意味はない。
自主隔離期間を終えた翌日、水際対策のウェブサイトに掲示されていた厚生労働省の電話番号にかけてみた。
電話に出た若い男性の担当者に事情を話すと、こう告げられた。
「運営は厚労省の管轄ですが、空港での登録作業は空港のある地方自治体の担当になります。成田空港に到着したのなら、成田空港の検疫所の管轄になるのでそちらに聞いてもらえませんか」
たらい回しになるのを避けたかったので、担当の検疫所の電話番号を厚労省の担当者から直接聞き、すぐに電話をかけた。すると、若い女性が電話口に出た。
再び事情を説明すると、「アプリの担当は厚労省になるので、そちらに連絡してください」と最初は突っぱねられた。「その厚労省に電話して、こちらの担当だと言われたので連絡をしています。電話番号も厚労省で聞きました」と伝えると、今度はこんな回答だった。
「健康状態に問題がなかったんですよね? なら大丈夫です」
「真面目に自主隔離をしたので確かに大丈夫といえば大丈夫なんですが、何も連絡がなかったので不安です。海外からの渡航者をこうして放置するのも問題ではないかと思うのですが」
そこまで言うと、「確かに」との返事。「居場所の報告義務を果たさなかったと後で責められても困るので、確認していただけませんか?」とお願いすると、氏名と渡航日を聞かれ、最終的に登録されていたメールアドレスが間違っていたことが判明した。
女性担当者「記入されたメールアドレスが間違っていたのですね」
筆者「ハイフンとアンダーバーがややこしいアドレスなので、空港で送信確認の時にきちんと正しい情報をお伝えし、そこでメールも受信しています。メールを登録するのは、その確認したメールアドレスではなく、手書きからまた再入力しているのではないですか? そうでもない限り間違えることはないと思うのですが」
女性担当者「でも健康状態に問題がなかったのなら大丈夫です」
筆者「でもそれだと意味が……」
女性担当者「上司に確認しますので少しお待ちください」
結局、上司に確認しても、健康状態に問題がなかったのでいいとの結論だった。今回は登録時の問題だったようだが、その後の運営で「おかしい」と気づかなかったのだろうか。
システムの不備で言えば、政府の肝いりで始まった防衛省のコロナ・ワクチン大規模接種の予約システム、実在しない番号を入力しても予約が取れてしまうことが発覚し、岸防衛大臣はシステムの一部を改修することを表明した。それは当然の話だが、驚いたことに、防衛省はシステム上の不備を事前に把握していたのに、5月24日の接種スタートを優先させ、改善を見送っていたというのだ。
不備把握もスピード優先 防衛省、システム改修へ―大規模接種:時事ドットコム
にもかかわらず、このシステムの不備を検証報道した毎日新聞とAERA dot.(なぜか日経は除く)に対して、岸大臣は(その実兄や河野太郎までも…)「悪質な行為であり、極めて遺憾だ。厳重に抗議する」などと息巻いたうえに、抗議文まで送ったという。何をかいわんやである。
Tweetを眺めていたら、このシステム、生年を794年とか645年と入力しても、予約できてしまうようなことが書いてあった(これ、平安京と大化の改新だぞ! いったい何歳の後期高齢者だと思っているのだ!)。それを知っていてシステムを修繕しなかったら、こっちの方が重加算で「悪質」「遺憾」ではないか。防御が薄すぎるから敵軍にやすやすと突破されると前線から指摘されているのに、それでかまわないという指揮官(防衛大臣)などいらない。国が滅ぶ。昭和だったら即刻辞任のレベルだ。
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