ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

入管法と難民認定のこと

 もうだいぶ前の話だが、学校に勤めていた頃、受け持っていた生徒の中に南米(コロンビア)出身の女子がいた。夏休み中の保護者面談に父親が来ることになったが、日本語が話せないので、自分が通訳すると言う。それでは聞かれたらまずいことが話せなくなるなあと思ったが、まあそれもしかたない、通訳を介して保護者面談をするなど、おもしろい経験だと妙な期待をして…。でも、よく考えれば、ただの「三者面談」なのだが……。
 当日、親娘二人はニコニコしながら(生徒本人は少しはにかみながら)やって来た。外国出身の子どもが自然なかたちで日本語を習得できる年齢は9歳か10歳くらいまでで、これ以降だと難しくなると言われているが、この生徒は5歳くらいのときに日本に来たということで、日本語を話すことについては、他の日本人の子どもたちと全くそん色なかった。
 「数学の成績はけっこういいんですけど、英語はあんまりよくないですねえ——と、お父さんに言って……」と言うと、生徒は苦笑しながらスペイン語で伝え、父親もまた笑う……そんな和やかな対話が続いた。「将来は何になりたいのか」という話になって、本人はまだよくわからないと言っていたが、小生が軽口にも「通訳になるというのは、どうですか?」と言ったら、父親は「本人のスペイン語のレベルは5歳で止まっているので、子どものスペイン語では無理だろう」ということだった。……まあ、そりゃそうかも。
 日本に来ることになった経緯についてはあまり聞けなかったが、いろいろと事情はあるようだった。生徒も日頃から来日前のことはあまり話したがらない様子だった。入学式には両親だけでなく、おばあちゃんや下の弟、妹など一家総出?で現れて、椅子が足らなくなった覚えもある(笑)。でも、みんなでお祝いしたいというその気持ちがこちらもうれしかった。どんな事情があるにせよ、日本や日本人の伝手を頼って?この国に来たのだ。頼られたらそれに応えるべきだし、その程度の「善意」がなくてどうするのかと思う。

 改めてそう感じたのが、今国会の入管法出入国管理及び難民認定法)改定の話だ。
 日本は「難民鎖国」と言われるくらい難民認定率が低い。日本で2020年に難民に認定されたのは47人、前年の2019年では44人で、その率はわずか0.4%に過ぎない ―—他方、 ドイツやアメリカでは2,3割は認められている。ということは、約1万人の外国人が難民申請をしたとすると、日本では9,950数人が認められないが、国がちがえば、2,000から3,000人は認定されることになる。どうして日本だけこんなにハードルが高いのか。いくら何でも差があり過ぎるだろう。「わけあり」の人々にはなるべく関わりたくないということなのだろうか。それにしても、これは冷たすぎはしないか。

 彼らは入管施設(東日本入国管理センターだと茨城県牛久市にある)に長期間収容されるだけでなく、劣悪かつ非人道的な待遇を受けている人が少なくない。かねてよりこの状況は人権団体や国際社会から改善を求められてきたが、それを逆手にとった今次の改定案は、国外退去の命令に従わない場合の罰則が強化(懲役または罰金)されたり、難民認定申請が3回以上の人は強制送還が可能となり、迫害の恐れのある国に帰されかねないというのだ。これでは事態が余計に悪化すると批判が広がっている。

入管法改正案“改悪” 当事者ら訴え|テレ東BIZ(テレビ東京ビジネスオンデマンド)
アングル:入管法改正案に批判の声、難民申請にも罰則など制度厳格化 | ロイター

 この法案の廃案を求め、弁護士、支援団体、難民申請をしている当事者、賛同する著名人らが、4月7日に共同記者会見を開いた。その模様を、フォト・ジャーナリストの安田菜津紀さんが伝えている。

「仲間ではない人は死んでいい、がまかり通ってはいけない」―入管法は今、どう変えられようとしているのか | Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)

 難民申請をしている人の声を以下に抜き出してみる。

ナイジェリア出身の女性
 すでに日本で25年以上暮らしているが、「仮放免」という不安定な立場にある。
 「仮放免の人は何もできない。仕事できない。自由に移動もできない。難民の人たちにも家族や子どもたちがいることを忘れないで下さい。本当に本当に、心が痛い」
 「今日苦しい思いをしているのは難民の人たちかもしれませんが、明日は日本の人たちだって苦しい目にあうかもしれないんです。今日のことだけを考えてやり方を考えないでほしい」。

トルコ国籍のクルド人の男性
 迫害を逃れ 、2007年に来日。これまで複数回難民申請をし、現在も申請中。2019年、収容されていた東日本入国管理センターの職員から激しい暴行を受けたことで、現在、国家賠償訴訟を起こしている。解放された今もPTSDに苦しみ、この会見の前日に退院したという。
 仮放免の立場では、就労は認められず、健康保険にも入ることができないことから、高額の医療費がのしかかる。体調が万全になったことで退院したのではなく、入院し続けるのが資金的に厳しかったとのこと。
 2020 年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」が、この男性他1名の申立てを受け、日本の入管当局の対応を「国際人権規約に反する」とした見解をまとめたが、政府は状況を改善せず、この見解に背を向け続けている。

 「日本ではクルド人は難民として認められていませんが、アメリカやドイツ、イギリスなど海外では、多くの人たちが認められています。私たちは人間です。日本の政府は、国連の言うことをしっかり聞いてほしい」

ビルマミャンマー)出身で少数民族であるカチン族の女性
 父親が反政府武装組織であるKIA(カチン独立軍)の将校。この女性は12年前に日本に逃れ、現在3度目の難民申請中。ビルマでは2月に起きたクーデター以降、軍による市民の殺害が相次いでいるが、カチン族に対する迫害はそれ以前から報告されてきた。
 「日本から送り返されれば、ミャンマーに帰って死んでしまうことになります。本当に命が危ないから難民申請しているのであって、日本に遊びにきたのではありません。それでも受け入れられないから、何回も申請するしかないんです。私たちは人間ですよ。命の心配をしないで暮らしたいだけなんです」


 国民全般がこういうことに一つ一つ怒らないできたことが、パンデミックのさ中のオリンピックや福島第一原発放射能汚染水の海洋排出につながっているのだと思う。

<追記>
 今日病院に行った。先生から、7月か8月頃になると思うが、コロナのワクチンを接種しますかと聞かれた。えっ?と思った。打ちたい気持ちはあるが、まだ心配な面が多いので様子を見たいですと答えた。ついでに先生に、いくつか質問をした。
 小生:先生、ワクチン接種は年内でだいたい見通しがつくものなんでしょうか?
 先生:年内はちょっと無理でしょう。来年の、遅ければ年末くらいまでかかるかも…。順番があるから。まず、医療関係者が打たないと(指を折って)。次が高齢者で、その次が、基礎疾患、持病のある人で、一般の人はやっとその後だから……。まだまだでしょう。体制もまだ全然整ってないし……、変異種も追いついていくのが大変だし……。政府もねえ。
 小生:そうすると、いつまでこういう生活を……。
 先生:そうですねえ、スペイン風邪のときが終息するのに3年はかかってるから。今より人の移動規模が小さくて少ない時代で3年だから。同じと考えても、まあ3年間はマスクをして、手洗いをして……という生活が続くと見た方がいいんじゃないかなあ。



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