ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

株式市場と10兆円の大学ファンド

 恥ずかしながら少し株式を持っている。昨年コロナ・ショックで株式市場が暴落したときには、あれよあれよと言う間にマイナスが膨らんで、目を覆うような「惨状」になった。もともとの額が少ない上に、配当と株主優待を楽しみにしているようなレヴェルとはいえ、この大暴落にはそれなりの衝撃を受け、「やっぱり素人が株なんかもつもんじゃないなあ」とも思ったが、今さら手放すわけにもいかず、「2,3年もすれば回復すると思うしかない」と腹を決めて様子を見ていたところ、幸いにも昨年の秋以降、順調すぎるペースで株価が上昇してくれた。おかげで、今は元金のベースを超えるまでになって一安心というところである。

 しかしながら、素人目にも、最近のこの株価の上昇ペースには危ういものを感じる。確かに、コロナ・ショックの反動や各国の財政出動によるカネ余りという事情はあるにしても、株価水準が30年ぶりの高値になるほど、このコロナ禍の日本の実体経済が「バブル」期に匹敵するような好況でないのはみんな肌身に感じている。所詮は日銀やGPIFの株式投資が支える「官製相場」である。相場の空気にバブル感が漂っているのは否定できない。
 今朝、証券会社のアナリストは米国の利上げがなければあと半年くらいは高値が続き、日経平均株価が3万2千円台まで上昇する、というような楽観的な見通しを述べていたが、これはまるで1929年の夏を思わせる(あとで知った=学んだことだ)。このときもアメリカの大学教授ら専門家は、一部の懸念をよそに、市況を楽観視していた。1929年8月、 アメリカ経済学会の会長でイェール大学の名誉教授だったアーヴィング・フィッシャーは「わが国の経済基盤は安泰」と発言した(彼は自身でも株式に投資しており、その後の株価の暴落で大きな損失を被って、自宅まで手放さなくてはならない状況に陥ったが、大学によって窮状を救われたという話がある)。3月に予想されるオリンピックや政権がらみの “出来事“ をきっかけに、また深刻な下げに陥りかねない。このあたりで早めに撤退しておくのが得策と考えている。

 政府は2021年度予算案に最大10兆円規模の「大学ファンド」の創設を盛り込むことを閣議決定した。大学の財政基盤を長期的に確保するため、国費などから基金をつくり、株式や債券に投資した運用益を国公立大などの研究資金に充てるという。文部科学省は、「アメリカのハーバード大学は4.5兆円、イェール大学は3.3兆円、スタンフォード大学は3.1兆円」などの基金があるのに、日本の大学の基金は少額過ぎて、これでは高い研究水準が維持できないというような説明をする。日本学術会議の年間予算の10億円にケチをつける政府の言うことだ、これに胡散臭さを感じないという方が無理というものだ。上に出てくる大学は国公立大学ではないし、この「大学ファンド」の発案者とされる慶応大学の先生もアメリカのコンサルティング会社マッキンゼーマーケティングをやっていた人である。日本の大学の研究のためという建前の裏で、株式市場にさらに公金が投入され、ますます市場の官製化・不健全化が進んでいくようにしか見えない。そもそも昨年秋に文部科学省内閣府がこの「大学ファンド」を提起したときは、「大学の活力が増せばコロナに役立つ研究も進む」などと説明していたのだ。これではまるで「便乗商法」である。

 このあたり「毛ば部とる子」さんの「毛ば部ラジオ」や、「毛ば部」さんがTwitterで取り上げているブログなどが詳しい。

https://www.youtube.com/watch?v=6-83pjg8rP4&feature=youtu.be
10兆円の大学ファンドへの疑念 | 山内康一


以下、2月2日付「マネー現代」の小川匡則氏の記事から部分引用(要約込)する。

コロナ補正予算になぜか「5000億円の大学ファンド」…財務省「金の延べ棒」まで急浮上した「不都合な真実」(小川 匡則) | マネー現代 | 講談社(1/5)


……1月26日の文部科学委員会でも、萩生田大臣はハーバード大学スタンフォード大学などを挙げ、「欧米の主要大学は寄付金などを原資とした数兆円規模の大学ファンドを有し、その運用益を人材や研究設備に投資することで充実した研究基盤を構築している。このような取り組みがわが国と欧米との研究環境の差の一因となっている」と述べている。
 これに対して、衆議院文部科学委員会に所属する立憲民主党牧義夫議員は疑問を呈する。
「そもそもハーバード大学スタンフォード大学は私立大学です。政府が大学ファンドを作るというのとは全然違った話です。寄付を集める風土も全然違います。それに日本でもいくつもの大学がデリバティブなどの運用で失敗して多額の損失を出したことがあります。官製ファンドだからうまくいくという保証はどこにもない」
 この「大学ファンド」はまず政府が5千億円を出資し、財政投融資からも4兆円を確保して運用を開始し、将来的に10兆円規模のファンドにしたいという構想だが、この5千億円の原資がややこしい。
 まず、財務省保有していた金を売って現金を得たいが、市中へは売却できない。他方、日本銀行はこのコロナ禍で急に米ドルが必要となった。そこで、財務省保有している金(の延べ棒=5千億円相当?)を外国為替資金特別会計(外為特会)に渡す。次に、外為特会は保有している米ドルから5千億円相当分のドルを日銀に渡す。日銀はドルと交換に5千億円を外為特会に渡し、最終的に、外為特会はこの5千億円を財務省に渡す―—という三角トレードの末、ようやく財務省保有していた金の延べ棒が5千億円に姿を変える。
 牧議員は、「……日本の科学を推進するための立派な資金なのに、なぜこんな方法を取らないといけないのでしょうか。まるで『学費を出したくてもお金がなかったので、家中を探っていたらたまたま押入れの中から金の延べ棒を発見した』みたいな話です。こうまでして捻出しないとこれからの国家百年の計を立てることができないのかと心配になります」と首をかしげる

 では、実際にファンドはうまくいく見込みはあるのか。
 牧議員は、「文科省はGPIFに倣って3%程度の利回りを確保することを考えていると言っています。しかし、GPIFは株の売買も含めての運用益で3%程度になっているだけで、配当によるインカムゲインに限ると1.6%程度でしかない。しかもGPIFは途中でキャッシュアウト(現金化)しないが、大学ファンドはキャッシュアウトして大学に分配するため複利が期待できない。その上、利益を上げた時はキャッシュアウトする反面、損失を出した時には一体どうするのか。その時は一切配分ができないことにもなる。当然元本割れをするリスクもあり、そのリスクは決して小さくない」と。
 実際、萩生田大臣もこのファンドについて、「財務省もかなりリスクがあると思ったんだろう」と説明しており、その5千億円については「リスクヘッジ」とも表現している。
 不鮮明なのは原資だけではない。今後の運用に至るまでのプロセスもまだ決まっていないことが多い。
「決まっているのは、4兆5千億円でファンドを始めるということと、運用元はJSTであるというだけです。JSTが誰を運用担当者に選ぶのか、運用益はどういう基準で配分するのか、責任体系はどうなっているのかなど、何も決まっていない。順番が逆だと思います」(前出・牧議員)

 そもそもなぜこのような「大学ファンド」が必要なのか。
 同じく衆議院文部科学委員会に所属する自民党の安藤裕議員は「緊縮財政の発想から抜け出せていないことが根本にある」と指摘する。
「予算に制約がある中でなんとか高等教育の予算を確保したいという発想で作られた。だから5千億円の原資も本予算ではなく補正予算に入れ込んだのでしょう。財務省が金の延べ棒を5千億円に換えて支出したのも、あくまで特別会計でやりたいということだと思います。
 しかし、そもそも財源がないと思っていることが間違いです。国債を発行して財源を確保すればいいだけです。10兆円ファンドがたとえ3%の利回りを実現できたとしても3千億円にすぎません。それよりも本予算に3千億円を増額して組み込むべきです。緊縮的な考えで政策を作るから大学ファンドのような奇策が出るわけです」

 文科省から各大学に分配される運営費交付金は平成16年の1兆2415億円から平成30年には1兆971億円と1割強も減らされている。
また、主要国における研究開発費では、政府負担割合はOECD平均で25.13%だが、日本は14.56%と極めて低い。
大学においてもアメリカや中国、ドイツなどが大きく大学等での研究費を大幅に増やしている中、日本はほぼ横ばいで推移を続けている。
それにもかかわらず、予算を増やすのではなく、欧米のトップ私立大学に倣ってファンドを設置するというのは違和感を禁じ得ない。
「まずは本予算で教育や研究開発に関する予算を大幅に増額することから始めるべきです。そのためにも財政的な制約があって予算を大幅に増やすことはできないという前提認識をまず改めるべきです。国債を発行すると『将来にツケを回している』と揶揄する人がいますが、これからの日本を担う若い世代に十分な予算を確保することは『将来世代に投資する』ことであってツケを回すことではありません。それどころか、十分な予算を出してこなかったことで『将来世代』は既に多額の奨学金返済などのツケを背負わされていることに気づくべきです」(前出・安藤議員)

そもそもこの大学ファンドは文科省が発案したものではない。「総合科学技術・イノベーション会議」の基本計画専門調査会で提起されたものである。
萩生田大臣を直撃すると、「文科省のような弱小省庁が予算の増額を勝ち取るというのは困難。10兆円のファンドで堅実に運用し、たとえ1%の利回りでも1千億円の運用益が出る。どういう形であれ予算を獲得できるのは大きい」と文科省の抱える苦しい懐事情を語った

「大学ファンド」に多くの疑問があっても、文科省を責めるのは酷な話だろう。だが、先進国を標榜する日本がこのような形でしか「将来の日本を背負って立つ研究者」の育成のための資金を生み出せないというのではあまりに寂しい。
「将来世代に投資する」ためにも、未知数のファンドではなく、国債を原資として予算の増額を認めることが「科学技術立国」を実現するためには不可欠なのではないだろうか。


 「将来世代のための投資」が単なる「負債」増になるのは何としても避けたい。そのためにも、“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”式の今の政治は今年中に終止符を打たねばならない。




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