ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

森会長は身を引くべき

 学校で働き始めた頃、現代の社会問題についてテーマごとによく生徒にアンケートをとっていた。生徒の意識を探るのが目的とはいえ、当時はまだ若く、生徒と年齢が近かったから 、世代差とか、“感性ギャップ“ のようなものはあまり気にしてはいなかった。むしろ生徒に「問題を投げかける」という意味合い(意気込み)の方が強かったと思う。
 原発とか戦争とか、テーマがかわるたびにアンケートをとっていたような気がするが、そうしたテーマのひとつに「男女差」があった。大昔の話で、すでに手元に資料もないが、ひとつ印象に残っているのが、「女のくせに」というのと同じくらい「男なのに」と言われるのが嫌だ、辛いという男子生徒の答えが多かったことだ。これは意外だった。当初は、女性に対する差別や偏見にばかり目が向いていて、もちろん、それはそれで問題なのだが、実は「女性差別」という “構造”に悩まされたり、苦しめられたりというのは「女性」に限らないのではないかと思えた。「問題を投げかける」つもりで、逆に生徒から「問題を返された」かたちである。

追記:あまりよい例ではないが、小生が経験した範囲では、学校の教員が年度初めに役割分担を決めるとき、学年の会計係は女性職員に振られることが多かった。しかし、女性職員からすれば、何で「会計=女性」なのかという話だろう。中には、振られても「私はどんぶり勘定しかできない人だから、会計は無理です」と断った女性職員がいた(このときは小生が引き受けることになった!)。あるいは、男性の体育教員だったりすると、だいたい生活指導係をお願いしますと言われる。若い人だとほとんど断れない。しかし、当人からすれば、何で「生活指導=体育・男」なのかと思うだろう(そんな「本音」は聞いたこともないが……)。強面でもないのに、生活指導係だとそういう振る舞いが期待されたりする。自然体でできる人はそれでいいが、相当無理をしてる人も中にはいた。もちろんどんな役割も個人の経験値を上げていくことにつながると言えばそれまでだが、この種の性別役割分担を当然のごとく当てはめられる窮屈さは考え直されてよいはずだとずっと思ってきた。

 連日の森発言(というより認識)が国内外に大きな波紋を呼んでいる。記者の質問に逆切れしている姿を見るにつけ、自分が恥をさらしていることに気がつかない人間をこれ以上オリンピック組織体のトップに据えるのは無理だろうと思う。自嘲まじりに自身を「労害」などと称するのもズレた感じがする。初老?の小生も含めた多くの「老人」の名誉のために言っておくが、「老害」とは「老人」が「害」だと言っているのではなく、「害」になる発想しかできない「老人」が問題なのである(まさしく「老人のくせに」「長く生きてきたのに」一体何をやってるんだ! ということ)。

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」という例の発言を聞いて、「私のことだ」と感じたという稲沢裕子さんは、2013年、女性で初めて日本ラグビー協会の理事に就いた人だ。乞われて就任したのに、ああいう発言をされて傷つけられたのではと思うが、2月4日付の朝日新聞の以下の記事には救われるものがあった。


ラグビー協会初の女性理事「私のことだ」 森氏の発言に - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル


……私の発言や疑問は、当時会長だった森さんに限らず、唐突で驚かれるような内容も多かったと思いますし、私が入ったことできっと会議は長引いたでしょう。でも逆に言うと、私は素人の立場から疑問や意見を言うために、ラグビー協会の理事になりました。
<中略>
 ラグビーのことは何も知らないのにいいんですか」と確認しました。当時の専務理事は「ラグビー人気が低迷する中、ラグビーをまだ見たことのない人にファンになってもらわなければ」と。当時会長だった森さんも同じ考えだと思っていたし、迷惑に思っていらっしゃるとは思っていなかったので、今回の発言は驚きました。
<中略>
 森さんの発言に対して、笑いが起きたと報じられました。私も笑う側でした。男女雇用機会均等法以前に社会に出た世代。男社会の中で女性は自分一人だけという場が多く、笑うしか選択肢がなかった。笑いを笑いで受け流していた。でも声をあげないといけなかった。一緒になって笑ってしまったことが、日本がいまだに「ジェンダーギャップ(男女格差)指数121位」にいる一因だと、いま学生を前に反省しています。男女関係なく「おかしい」と声をあげる社会に変えていかないといけません。
 女性理事は19年から5人に増えました。女性だから全員が同じ考え方をしているわけではありません。多くいれば、多くの議論が呼べる。女性が塊になって男性と戦うのではなく、一人一人が様々な角度からの意見を持っている。ラグビー日本代表は、ダイバーシティーがあったことで強くなりました。違いが増えれば異論が増え、それが新しい価値を生んでいくことは世界の常識です。
 スポーツ界だけでなく、候補者をなるべく男女同数にするよう政党に求める候補者男女均等法や、企業や自治体に女性登用の数値目標づくりを義務づける女性活躍推進法が制定されました。121位の日本が遅ればせながら変わろうとしている。今回の問題で男性からも「おかしい」という声がたくさん上がり、なぜジェンダーギャップの解消が必要なのかをみんなが考えるいいきっかけになったと思います。逆説的に聞こえるかもしれませんが、感謝しています。

ジェンダーギャップ指数121位については、以下を参照。
世界男女格差指数 - Wikipedia
「共同参画」2020年3・4月号 | 内閣府男女共同参画局


 「男女格差」の “構造”がこの国ではずっと再生産(更新)されてきたことが、今回の件で、白日の下にさらされた。どうしてこの国は今 “世界121位” なのか、そしてまた、なぜ変わろうとしてこなかったのか。他国の動向や世界の潮流に目を向けることなく……。  

 もう一昨年のことになってしまったが、ラグビー・ワールドカップは実によい大会だった。外国の人たちからも総じて好評だったと聞く。今や風前の灯火となってしまった東京オリンピックだが、もし、組織委員会が組織体として、今夏の東京大会を、一昨年のラグビーと同様、世界から称賛される大会にしたいと本当に思うのなら、森会長は適任ではない。身を引くよう促すしかないと思う。



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