ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

D.アトキンソン氏が語る「日本の寛容さ」

 スガ総理のブレインの一人と言われる小西美術工藝社社長のD.アトキンソンのインタヴュー記事を読んだ。「合理主義者?」の彼らしい話だった。彼の中小企業 “淘汰“ 論には反対だが、今回の「指摘」の大部分はごもっともだと感じた。彼の目にも、この国の政治の中枢にはびこる奇妙な精神主義や非合理性は看過できないものに映るのだろう。
 小生も、自身を含め、日本の人がまるっきり不寛容だとは思わないが、この国の「寛容さ」と「プロ意識の低さ」には関係があると思う。なあなあで済ませる世界に、プロ的な専門的知識や論理的思考力は余計だ。それよりも 角を立てずに “空気” を読むこと、従順さの方がよっぽど大切なのである。「寛容さ」とは “無知であれ”、という圧力を受け入れることであるかのようだ。

 朝日新聞の2月20日付記事から要約する(聞き手:塩谷耕吾・記者)

日本人が語る「日本」は理想論 アトキンソン氏の違和感 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル

 オリンピック組織委で大会コンセプトを作っているときに感じたのは、日本人が考える「日本」はほとんど理想論だったことだ。願望に近い。
 「多様性と調和」というコンセプトについて、組織委員会の会議で「日本は世界一寛容な国」だと言う人がいた。日本はどんな文化でも取り入れる多神教の国で、海外は一神教だとか。これは学問的に正しくない俗説だ。確かに、日本には寛容な面もたくさんあるが、夫婦別姓を認めないし、移民や難民もあまり受け入れない状況で「寛容」と言えるだろうか、と議論になった。

 日本では、いろいろな人の意見を排除しない。しかし、多くの場合、取り入れもしない。米国みたいに人種によって暴力を振るうことはないが、途上国の人などに対し、人によっては相当な差別をしている。海外みたいにLGBTを刑務所に入れることはないが、結婚を認めるところまではいかない。
 日本人には思い込みや俗説が多く、専門家に確認しないし、検証もしない。プロ意識が低い面があることは共通している。それは寛容の一環なのかも知れないが……。

 例えば、東京五輪が日本経済の起爆剤になるというのも俗説で、エビを食べて長寿にあやかるというのと同じだ。数週間のイベントがGDP550兆円の日本経済に大きな影響を与えるはずがない。五輪で観光客が増えるというのも、何の根拠もない思い込みだ。日本でインバウンドが増えたのは5年前からだ。リオデジャネイロで五輪があるからと、開催の5年前にブラジルに行った日本人が多くなったという事実はない。自分たちがやらないのに、なぜ外国人がやると思うのか。菅官房長官(当時)時代に、アジアのビザを緩和したりしてインバウンド誘致をしたから増えたのだ。

 日本の決定的な問題は、クリティカルシンキング(批判的思考法)が十分にできていないことだ。仮説を立て、ロジックを分解し、データで検証し、結論を導き出す。これは大学での問題が大きい。学生が思い込みで発言したら、根拠はなんですか? 評価に客観性はありますか? と聞いて答えさせる。日本の大学はそれが十分でない。
 だから日本は事後対応しかできず、いつも後手に回る。事前に仮説をたてて議論しても、受け入れられない。予想はできるのに、何も手を打たない。私がアナリストとして関わった銀行の不良債権問題もそうだった。いくところまでいかないと、変わらない。
 重ねて言うが、東京五輪はやっても、やらなくても、日本経済には中長期的にはさしたる影響はない。

 森喜朗さんの騒動が始まったころ、「森さんの代わりはいない」という意見があったが、これは情けない話だ。1億2千万人も国民がいるというのに。
 森さんの人脈はすごい。これは事実。だから、森さんがいないと組織委は苦労はするだろう。しかし、人脈がなければ東京大会ができないというのは、事実ではない。
 森さんの発言には、いくつか問題点がある。ただ、日本国内の議論にも違和感がある。
 女性の話が長いか、長くないか、女性蔑視か、蔑視ではないか。そうではなくて、仮に話が長いのであれば、それはそれとして受け入れないといけない、違っていいんじゃないのか、という観点が抜けている。違いを受け入れていないことが問題だ。男女に限らず、障害者、外国人、いろんな意見を出し合って、平等に考えていく。それが多様性だ。男女の問題だけに落とし込むのはおかしい。
 森会長の発言は、あまり深く考えていない発言だ。海外は複雑になって、日本に比べ、考えて話さないといけない世の中に変わった。あのような場面では、少し考えて発言するべきだった。




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