ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

知性と教養の劣化 古谷経衡さん談

 古谷経衡(つねひら)さんの「2020年のふりかえり」インタヴューを読んだが、興味深かった。

 古谷さんがどんな方か知らなかったので、「たかまつななチャンネル」(2020年9月7日付)に出演した動画をのぞいてみたら、これがまたおもしろい。こっちもまた“なるほど”である。
元ネトウヨ論客・古谷経衡が語るネトウヨの儲かるビジネスの仕組み - YouTube


 以下、12月21日付TOKYO HEADLINE WEB のインタヴュー記事の古谷さんの話の後半を要約する。

古谷経衡氏が第2次安倍内閣を総括「バカが増えた」【2020年重大ニュース】 – TOKYO HEADLINE

 これは“安倍政権のせい”というわけではないんですが、この7年間で言い方は悪いですがバカが増えたなという感じがしています。政治家もそうですけど、むしろ有権者のほうがバカになったという感じがします。テレビのコメンテーターも毒にもクソにもならない人が量産された。“私は中立です”と言いつつも、エクストリームな安倍擁護を展開したり、ポジショニングトークで野党を叩いたりする。“中立じゃないじゃん!”という人が堂々といろいろな媒体に出るようになってきて、日本社会の空気が下方に変わったなという気はします。それが安倍さんのせいかどうかは分からないですが、この7年間で顕著にはなっている気はします。
 僕が物書きとして商業デビューしたのが11年前で、10年以上経った今、僕より数段若い人が保守にもリベラルにも出てこない。研究者はいますが、大衆評論家に若い人がいない。みな、我も我もとYouTuberを目指します。とにかく文章を書かない。なにか主張があるとすぐ言葉で喋って、それを動画に撮る。それは言論の領域ではありません。こと言論とか評論的なるものに新星は全然出てきていません。
 報道も、テレビでは昔からスキャンダルは花盛りだった。例えば、ロス疑惑って殺人事件じゃないですか。あの報道が加熱するのは分かるんです。豊田商事の事件だって、記者の目の前で会長が殺されているんだから、そりゃみんな追いかけますよね。それが今は芸能人の誰が大麻やコカインやりましたとか。別に僕は大麻やコカイン使用を見逃せとか、大麻解禁をぶつわけではないですが、小さい。不倫がどうとかも道徳の問題であり、報道すること自体馬鹿げていると思います。そんなものは報道ではない。単にゴシップです。そういうのはゴシップ誌でやれよと。テレビで流すに値しない。それが平然とニュースになるのが異常です。
 知性とか教養の量ががくんと落ちている。理由としては、まず長い文章を書く作業をしない。なにかあったら動画を撮って喋る。それがまず理由の一つ。そして、これは以前からですが、ネット記事ですら見出ししか読まない。4000文字を超えると“長い”と批判が来る。新書は普通8万字くらいですから、その1/20の記事すら長いと感じるならもうどうしようもない。さらにいえば、ツイッターの140文字ですら理解できていないかもしれない。あとアイロニックとかウィットとかそういうものが通じない。皮肉ということも分からない。映画やドラマでも皮肉とか暗喩といったものもいちいち台詞で説明しないと分からない。映画『風の谷のナウシカ』のシーン(ペジテの王族の姫が、瀕死の状態をナウシカが悟る場面)で、SNS上で“あれはどういう意味?”と聞いている人がたくさんいてビックリしました。それが分からないのは演出を理解する素養がないから。この7年で特にこういったことが増えました。
 社会が多様化したから、とか分断が進んでいるからと説明する人もいますが、そんなことじゃないと思うんです。全部ではないですが単に知的レベルが落ちたんです。みんな分かりやすく、分かりやすく、と言います。しかし物事や世界ってそんなに分かりやすく説明できますか?『分からない、という事を分かる』という姿勢の欠落です。長い時間をかけてじっくり解読しないと、物事の本質の表面にもタッチできない。まして5分、10分の動画で物事など分からない。私は学者じゃなくて物書きですから、研究なんぞはおこがましいですが、少なくともタッチぐらいはしようよと。でもそれに必要な長い思考や、継続的な熟考に耐えられなくなっている。某ビデオ店に行ったら“90分以内で見られる映画”コーナーがあって仰天しました。これじゃ『風と共に去りぬ』も『ガンジー』も『スパルタカス』も見れなくなったのか、と。もちろん、日本人全員が劣化しているとは思いません。驚くほど聡明な若者はいます。が、総じて平均を取ると知性が毎年2%ずつくらい、単年度では気が付きませんが10年でみたら30%くらい落ちているという気はします。


「大衆化」とか「平準化」とかいうのは、こういうことかなと思う。地形で言えば、山や谷がなくなって平らになっていく感じに近い。確かに見晴らしはよくなり、視界は広がった。あらゆるものが目に入ってくるし、起伏がなくなって歩くのも楽になった。でも、その分、足の筋力は衰えると、こういうことなのだろう。



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